眼鏡男(2)


 トイレに近い席で飲むコーヒーはなんとなくトイレ臭い。


「あ、翔太?俺俺、拓也。この前の合コンで知り合ったナースだけどさぁ」


 アイツは合コンなんかしてやがる。


 畜生。


 アイツだけ人生を楽しみやがって。


 俺をこんなにしたのはアイツなのに。




 雨の湿気が店の中まで入ってくる。


 なんだか肌がべたついて気持ち悪い。


 そういえばアイツに雨の日いじめられたことがあった。


 濁った水溜まりに膝をつかされ、そのまま犬のように這いつくばって泥水を呑まされた。


 その時の味がフラッシュバックする。


 急いでコーヒーを口に含むと泥水の味がして吐き出しそうになる。



 畜生。



「で、ナースと二人で飲みに行ったんだけどさぁ」


 思わずアイツを睨みつける。


 でも実際にはチラ見しただけだが。


 謝れ、僕に謝れ、あの時のことを全部謝れ。


 擦りむいた膝から流れる血が泥水に混じる。


 土下座しろ、僕に土下座しろ、土下座して謝れ。


 アイツの目の前に仁王立ちし、そう叫ぶところを想像する。


 思うだけで僕の体は椅子に縛りつけられたかのように動かない。


 手に持つスマホが小刻みに震えている。

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