眼鏡男(1)

アイツの顔を見て反射的にトイレの隅の席に逃げた自分自身が情けない。


 あれから十年以上もたつのに僕はまだアイツにビクビクしている。


 忘れもしないアイツの顔、血にまみれた焼き印のように僕の胸に刻まれている。 




 藤木 拓也




 中学時代、僕をいじめた男。


 アイツは僕なんか覚えてなかった。


 僕は一目見てアイツだと分かったのに。


 アイツにとって僕は中学の三年間、自分の気分次第で小突きまわせる都合のいいおもちゃみたいな存在だったのかもしれない。


 僕はと言えば、あれからずっといじめ後遺症に悩まされている。

 

 突然不安でたまらなく怖くなるんだ。


 とくにそれは夜中に突然やってくる。


 そういう時は毛布に包まってひたすら朝が来るのを待つ。


 一度両親が心配して僕を心理カウンセラーに会わせたが、的外れな質問ばかりしてくる偉そうなあの女には本当にうんざりした。


 女なんてうるさいだけだ。


 だから彼女なんて必要ない。


 そう、僕は選んで彼女を作っていないだけなんだ、はっはっはっ。


 決してできないわけではない。


 作ろうと思えばいつでも作れる。


 ああ、いや違う。


 違うんだ。


 本当は怖いんだ。


 キモイとかウザイとか女の子たちから言われるのが死ぬほど恐ろしいんだ。


 それもすべてアイツのせいだ。


 藤木拓也。


 アイツにいじめられたせいで僕は自分に自信が持てなくなってしまった。


 それなのに、アイツは、アイツは。


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