第40話 『アブスゲルグ』に続く道 上

 ナガミチが気を失っていた所をポドリアンが見つけて、パイオニアの建物まで運んだ。


 ベッドに寝かされているナガミチが目を覚ます。


 ランタンと燭台の灯りに照らされた部屋には、チャ子とポドリアンを含めた全員が揃っていた。


 「すまんな…みんな。」とナガミチは起き上がり、上半身をおこすとグリフが支えた。

 「仕方がない。」とアイゼン。

 ナガミチが部屋にある時計に目を向けると、深夜0時に10分ほど前であった。それを確認して、

 「…もう、時間がない。アイゼン…後は頼んでいいか…」とアイゼンを見ながら言うと、小さく頷いた。


 ナガミチは、一同をゆっくりと確かめるように見てから。


 「長い間、旅をしたな。」と話し始める。

 「…アイゼン。サーシャ…、グリフ…。お前らとは、ここに来た時からの長い、長い付き合いだったな…、…ウイザには…悪いことした。後から伝えておいてくれ…」

 その言葉に、ベッド脇に座っていたアイゼンが頷く。


 「…そして、ポッド…こんな遠い所まで…悪かったな」と言葉にすると、ポドリアンは小さく頷きながら鼻をすする。


 「テレニア…君もそうだな…。スクラットはいなくなったけど、の支えになっていてくれているみたいだ、安心してくれ、まだ生きているから、それに…アルニア…。お前も小さなころから、故郷を離れて…寂しかったろう…ごめんな…」と声をかけると、唇を噛みしめながら涙をながしているテレニアと、その脇でアルニアはうつむいていた。


 「チャ子…、かあさんの言う事をちゃんと聞くんだぞ…、おじちゃんがいなくなっても、誰かにイジメられたら、…こんどはインシュアに言いな…。」と小さく微笑みながら言葉にすると、チャ子はサーシャに抱き着きながら泣きじゃくり始めた、それを抱えるサーシャ…。


 「インシュア…、アルベルト…。お前らも強くなった。うれしいぞ…、ありがとうな…。」と言うと、インシュアは上を向く、アルベルトは腕組みをしながら壁にもたれてうつむいていた。


 「…そして…。アサト…」と言うと、アサトは身を乗り出す

 「…ほんとに、お前にはすまないとおもっている」と付け加えると

 「病気なんじゃないんですか?呪いって何なんですか?」と言葉にしながら、アイゼンが座している所よりも近くによると、ナガミチは小さく微笑む。


 「…ごめんな。嘘だ。俺は呪いで死ぬ…。お前に師匠らしいことを何もしてやれなかった。何も知らないお前を強引に連れてきて、何も解らないままに修行をさせてしまって…本当にすまんな…。インシュアやアルに任せっ切りにしてしまった…。俺がいなくなったら…お前は、お前らしく…生きればいい…。大きくなれ…」と言葉にすると

 「…僕は…わからない…、なぜ?…わからないです…、師匠の事もこの世界の事も…僕は…、…今の僕の道しるべは…師匠だけなんですよ…。死ぬって…」

 その言葉にナガミチは微笑む。


 「…なぁ…。俺には夢がある。二つだ。一つは潰えてしまったが、もう一つは、まだ可能だと思っている。」と言葉にすると、うつろなまなざしでアサトを見た。


 「強引なついでに、もう一つ、俺の夢を叶えてくれないか…」

 「夢…ですか?」と聞くと、ナガミチは頷いた。


 「…ここに来たのは、おまえと同じくらいだった。もう30年位前だ。この呪いにかかってから思っていたんだ…俺は…ホンと親になりたかった…と…。アルには…頼めない…あぁ言うやつだからな。でも、お前にはお願いをしたい…。さいごに…おやじ…と呼んでくれないか…」と力なく言葉にする…と微笑む

 アサトはアルベルトを見ると、目を閉じて小さく頷いて見せていた…。


 言ってやれと言っているようだ。

 考えれば、こんな言葉は、アルベルトには言えないと言うのもわかるような気もするし、アルベルトも言いたくないような気もしていた。

 だから…


 …小さく息を飲んで、

 「お、おやじ……」と小さくことばにすると…

 「…ありがとう…」と微笑みながら、うっすらと涙を流した。そして…

 「…アイゼン…サーシャ…グリフ…、色々あって、俺たちは道を見失ってしまった。立ち上がる事もあの魔女の呪いで失ってしまった。…でも、それは、すべて…この時の為だと思えば…うれしいな…」と言葉にすると、サーシャが口を押えて嗚咽を始めた。


 「…もう悔いはない…。…あとは…た…の…む…。」と言い切ると、小さく息を引き取った。

 「え?し…いや…親父?そんな…ぼくの…ぼくは…これから……」とアサトは声にする


 ……

 ナガミチは黒い丈の長い革で出来たコートをまとい、目深にフードを被っていた。

 アサトからは、無精髭ぶしょうひげの顎しか見えないが、背丈はそんなに高くない、175センチほどであろうか、自分とそんなに変わらないと思った。


 ナガミチは、アサトを上から下までじっくりと見ると、素早くアサトの前に立ち、顎を掴んで顔を見る。

 アサトはその行動に驚き、とっさにその腕を両手で掴んだ。

 その腕はがっしりとした筋肉質の腕であるが、太さは感じられなかった。

 ナガミチは顎を起点として、アサトの顔を左右に振りながらじっくりと観察する。

 そして、顎から手を離すと、その手をアサトの腕や胸。腹やわき腹、腰。太もも、脹脛ふくらはぎへと回して、体の作りも確認していた。

 風景…。


 ……

 師弟関係の手続き所で、不貞腐ふてくされた顔をしている。


  そんなナガミチを見ているアサトは、ふいに、そばにいたとんがり帽の老人と少女をみた。

 アサトの行動に気付いたのか、少女もこちらをみた。

 その時に、少女と目が合うと少し照れてしまった。と言うか、彼女も照れたのであろう、恥ずかしそうな表情を浮べていた。

 小さく会釈をすると、彼女も小さく微笑みながら会釈をした。


 先ほどから感じていたが、この世界に来ている人すべてが不安なんだろう。

 こんな小さな微笑みも、挨拶も、僕らにとっては、同じ境遇の絆みたいな物かもしれない。

 また、これも出会い…なのか…。と思った時。


 頭を叩かれる衝撃が襲った。

 「この野郎、色気着くんじゃねぇ。」と、ナガミチに叩かれたようだ。


 それを見ていた彼女はクスクスと笑う。


 アサトも彼女の笑いを見て、妙に可笑しくなり笑うと、再び頭を叩かれる衝撃が走った。

 「ってか、エロ餓鬼が!」と言いながら、ナガミチはカウンターの女性へと視線を向けた。


 風景…


 …

 「…って思って、鼻の下伸ばして、チンコおっ立てんじゃね~ぞ。」と、ナガミチが言葉をかけてきた。

 その言葉にアサトは立ち上がった。

 「まぁ~、ムラムラするようなケツの振り方だけどな。お前には、ちいぃ~~と早い。とりあえず、それはおいとく。」と言いながら、ペンダント、それも銀か鉄で出来た板のようなものが付いているペンダントをアサトの前に出す。

 「これから、俺とお前は師弟関係だ。弟子は、師匠の言う事を聞く。師匠をあがめる。師匠をたてまつる。以上」

 と言いながら、そのペンダントをアサトに渡す。


 アサトは、そのペンダントを見ながら

 「あの…僕は、なんの職業になるんですか?」と聞くと、ナガミチは大きな笑顔を見せながら

 「お前は、これから剣士、“”と言う職業に就く。いいか、今日この日から、俺の命尽きる日まで、お前の体をイジメ抜き、毎日血反吐履くまでイジメ抜き、そして、強くしてやる。」と言い笑っている


 風景……。


 ナガミチとの出会いと別れまでが、走馬燈のようにアサトの脳裏を駆け巡り始めていた…。

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