第38話 強襲。ギルド パイオニア 最強パーティー 上

 夜を迎える…今夜は、アサトとナガミチの二人きり。

 だが、ナガミチは体調が悪いのか、部屋からは出てこなかった。


 チャ子は晩御飯を食べると、サーシャに連れられて家路についていた。

 インシュアは、ポッドとグリフに連れられて、飲みにでも行ったのだろう。

 「今夜は、大人の用事があるから帰らない」と、ニヤニヤしながら家を出て行った。


 いつものように、ナガミチに教えられたように太刀の手入れをする。

 刃の確認はおろそかにしてはならない。

 しっかりと刃こぼれが無いかを確認し、油っけのない事を確認すると鞘に仕舞う。


 ナガミチと二人きりになるのは、よく考えると初めてであった。

 この家に来た日、その日の内にチャ子、次の日にはインシュアがきて、その後は、パイオニアの面々がちょくちょく遊びに来ていた。

 インシュアが言っていたが、ナガミチはパイオニアに関係のある人物のようで、詳しい内容は教えてはくれなかった。

 それは、ナガミチに対しての配慮なのかもしれない。


 一階のろうそくを消して部屋に上る。


 ナガミチの部屋の前で「おやすみなさい」と小さく言うと、自分の部屋に入ってベッドに収まり…眠りにつく。

 今日は色々教えてもらい、修行らしい修行をした。

 疲れたのか、眠りがすぐそばに来ていたが、ナガミチの言葉が引っかかってどうも眠れない。


 この世界にあらがえ…、生きたあかし…。


 そして、あの傷…あれは何かに引き裂かれた傷であり、ナガミチがどんな戦いをしてあのような傷を負ったのか、知りたい衝動に駆られていたが、それよりも、ただならぬ事が起こりそうな、胸騒ぎがアサトを眠りから遠ざけていた。


 部屋は静まっている。

 その静けさが、胸騒ぎを増幅させていた…。


 アサトの「おやすみなさい」を聞くと、ナガミチは小さく微笑み。

 言葉にならない「おやすみ」をした。

 ベッドに上体だけを起こし、左手の黒紫色の怪しい炎が揺らめいている線を、ただ眺めながらその時を待っていた…。


 夜が深まる。

 部屋に街の薄い明りが差し込んで来る、深夜にはまだ遠い時間。


 「そろそろ…か…。」と、ナガミチが言葉にすると同時に、紫の淡い煙が天井から降り注ぐと、渦を描きながらしんなり形を作りはじめる。

 その形は、薄い紫色のベールを羽織り、濃い紫色のシフォンドレスの女になり、そして、怪しくなめかわしい表情でナガミチを見ていた。


 「こんばんは…わたしの愛おしい人…今夜のご機嫌はいかがですかぁ…」と言いながら、右手の人差し指を小さな唇へ持ってきて言葉にした。

 「…まぁ、悪くない。すがすがしい気分だ。」と言うと…。

 「…そうぉ?…それは、良かったぁ。」といい。

 ベッドの足先に立った。

 そして、ベールを外しながらなまめかわしく、腰をゆっくりと左右に小さく揺らしながら

 「死ぬ前に…最後に…する?」となまめかわしい声を発すると…。

 「あぁ…最後に…!」と大きく言葉にした瞬間。


 部屋の窓ガラスが大きな音と共に割れ、何者かの影が部屋に入ってくると同時に、部屋のドアを蹴破り、慌ただしく多くの影が部屋になだれ込んで来る。

 最後に魔法、『光の神の破片』を使った神官が入って来て、部屋が一気に明るくなり、なかの様子が明らかになった。


 女の首に短剣を当てるアルベルト。両刃長剣のインシュア。そして、大きな剣を構えるグリフ。

 この3人の刃が、女の首を三角形に囲んでいた。


 ドアの入り口付近にアイゼンが剣を構え、窓の傍にはアルニアが光の矢を備えて弓を構えている。

 ナガミチの枕元には、銀に輝く長いロッドを持つサーシャが立ち、テレニアは、アイゼンの隣で多くの『光の神の破片』を部屋に散りばめていた。


 「…そういう事ね…」と、この状況でも、女の態度は変わらずになまめかわしい表情でいた。


 騒々しい音に目を覚ましたアサトは飛び起き、服を着てナガミチの部屋に向かい、そして、部屋に入る。

 それに気づく女は、アサトを見てから

 「…あらぁ…、見たことない人ぉ…が…ひとりぃ…ふたりぃ…、そして…さんにぃん…よに…ン…」とアサト、アルニア…そして、アルベルトとインシュアを見た。


 「…このひとわぁ…賢そうねっ…怖い目をしている。」と、アルベルトをみながら言葉にすると

 「悪かったな…どうもこの目つきは、生まれつきみたいだ」とアルベルトが言葉にする。その言葉に女は目じりを緩ました。


 「…それで…これで、仕留めたつもりぃ?…アイゼンさん…」と、アイゼンにゆっくりと視線を移す。

 「…いや、そう簡単にお前を仕留められるのなら、もう仕留めている。」

 「…そうよね…。」と言いながら、ナガミチに視線を移す。


 「…誰なんですか?」とアサト。

 その言葉に、女がアサトに視線を移すと

 「あらぁ…、あなたね…。わたしの…いとおしい…ひ・と・が…惚れ込んだ…少年わぁ…。」といい、なめかわしい視線を移す。

 その表情に見とれるアサト。

 「…おぃ。おんな…俺の弟弟子おとうとでしに手を出したら、その顔を人に見せられないような顔にするぞ」とアルベルトが言うと、女は小さく笑う。

 「…こちらは、ほんとに怖い人ねぇ…でも、そういうのも好きだし、彼みたいな子供もおねぇさんは好きよ」と言葉にすると

 「色魔しきまが…」とアルベルトがつぶやく。

 「彼女は…誰なんですか?」とアイゼンの隣でアサトが聞く

 「…荒れ地の魔女。この地方に混沌と死を招いている元凶。ナガミチに死の呪いをかけた女。『クレアシアン』」

 その言葉に女は微笑む。


 「…アルの言ったことは満更でもないぞ。」とナガミチ。

 そして、素早く動くと、その手には紫に怪しく輝く刃が光っていた。

 女、クレアシアンは、その刃を見ると表情を強張こわばらせ、きびすを返す勢いで天を仰ぐ。

 ナガミチが近づくと共に、アルベルトとインシュア、そして、グリフは、その場から退くと、刃がクレアシアンに襲い掛かった。

 その剣先は、まっすぐに胸元に刺さった…と思った瞬間。


 クレアシアンの体が、赤紫の球体に分離した。

 その球体が四方八方に広がると、ゆっくりと円を描きながら渦を巻き始める。


 サーシャが呪文を唱える。

 「光の神よ、私に力を…光の抱擁!」と言いながら、光をまとったロッドの先をその渦に向けて撃った。

 ロッドから約20センチ程の光の球が発射されると、小さく弾けるような音を共なって渦に向かい走りだす。


 無数の赤紫の球は急激な渦を巻き、低い音を立てながら渦を加速させた。

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