第21話 敗残兵の帰る場所 下
無意識に…見つめるその先には…、今日一日の光景が浮かんでいた…。
いや、思い出させられているような感覚で、走馬燈のように蘇っていた。
………
真っ青な空に、腕時計の針は2時を指すと号令がかかり、一斉に周りの魔法使いが呪文を唱え魔法を放つ。
隣にいるシディが得意の火焔系魔法を唱えて放っている。
前の方では、ジェームス・シリウス・ケイトが手を振っている。
次の号令でなだれこむ狩猟人の波に、その3名が飲まれて行く、クラウトの周りには、神官や魔法使いがその光景を見ている。
疲れた表情のシディに気力を与えると小さく微笑んでいる。
幻獣が黒い雲に覆われる。
そして、退いてくる狩猟人、笑顔のジェームス・シリウス・ケイトの3人がこちらに向かい一斉に親指を立てて見せた。
再びシディが魔法を使い攻撃をする、今度は水と風の魔法を使って、氷の矢を放っていた。
アーチャーのハシェットが、弓矢の準備をしながら魔法攻撃の壮大さに舌をまいていた。
そして、再び号令がかかると、3人が手を振って波に飲み込まれていった。
シディに気力を分けると、シディは微笑む。
アーチャーのハシェットが弓を放つ、放つ、放つ…。
大きな声と共に、兵士が動かない幻獣に向かって駆け出して行く、その後について行く3人の後ろ姿がみえる。
それと同時にシディが魔法を唱えている。
暗雲が幻獣を包み込む。
王国騎士団と狩猟者が波のように幻獣の頭部に集まると、頭や首から大量の出血が見えた。
勝った…と思った。その時は…。
景色が色を失い、特徴的な熱い色が視界を染めた。
そして、空から大きな火の柱が彼らを焼いた。何もかもを無にするような勢いの炎が、頭部周辺を真っ赤に染めた。
肉の焼ける匂いがする。
香ばしいにおいがする。
炎の勢いは増す、そして、炎がすべてを焼き尽くす勢いで何度も、何度も柱を立てた。
その瞬間、何もかもがグレーになり、全てが止まって見えた。
すると、遠くからハシェットが叫んでいる声がする、その声は…逃げろ!逃げろ!逃げろ!と言う声…
その声に押されるようにシディの手を掴む、そして逃げる間際に見えた、丘の上にいる将軍が…、…馬を走らせて後退を始めた、
軍師の男は…馬の上で
逃げろ!逃げろ!逃げろ!!…と誰ともいえない声が、辺りから聞こえる、それは一つだけではない、幾重にも聞こえる。
後ろでハシェットの崩れる音がすると、振り返る。
そこには、ハシェットが腕を伸ばして助けを求める声を発している、だが、その足には、数本の矢が刺さっているのが見えた。
ハシェットの声…助けて…助けて…助けて…と…。
右手にはロッド、左手にはシディのぬくもりがあった…
逃げる事を選ぶ、それしかない…でないと…ぼくらは……。
振り返らずに…前だけを見て、そして…。
拓けた草原。
長く大きな草原…点在する小さな林…くぼみ…丘…見慣れた景色は、僕らの狩場…、
情報は広大にあった…、なんでもこの場所は、知り尽くしていた…はずなのに…。
シディが転ぶと投げ出されたように自分も転ぶ、足を怪我したのかシディが立てない、違う…腰を抜かしているんだ…そして、……捕まった。
マモノは…シディを見ると、僕も見る、そして、イチモツを出し、嘲笑を見せる。
…な…なにを……、シディの服が破られ、生まれたままの姿になる、それを見て鼻を鳴らしてオークは笑っている。
いきり立っている…イチモツ…それを…シディに入れるのか……。
シディは助けを求めている…僕は…僕わ…。
シディの胸を汚れた掌は不気味な肌の色で包み込む、その手がシディの胸を揉む、揉む、揉む…
そして、舐める、転がす、そして、しゃぶる…、オークのイチモツ、こん棒みたいなイチモツを、シディの口に入れて腰を振る、腰を振る、そして、果てる…。
シディの口から、白い精液が流れ出ている。
オークは座り、シディを持ち上げ、こん棒のようなイチモツを、シディの膣口へとねじ込んで腰をふる。
腰を振る。…腰を振る…そして…果てる…痙攣しているオーク。
動きが止まったオーク…でも、また、シディの胸を揉むと、腰を振り始める…
終わらない…止まらない…終わらない…止まらない…。
「ねぇ、見ていてゾクゾクした?ムラムラした?ねぇ…?」
と、裸のシディがオークのイチモツを、膣口に
…シディ?…………
クラウトは、ハッと目が覚めた。
見えたのは、見慣れた天井であり、隣では、キャシーがクラウトの肩にもたれ掛かって眠っていた。
汗をかいていた事に気付くと、額の汗を服の袖で拭きとった。
奇妙な夢だった…のか…。
夜も白々とし始めた時間であった。
奇妙な夢をみていたんだな…、と思いながら、クラウトは、キャシーの体勢をかえてソファーから立ち上がり、少し背伸びをしながらベッドを見ると、シディの姿が無かった。
「シ…シディ?」と言うと、部屋のトイレや客室を見てみるが姿が無い。
その行動にキャシーが気付くと声をかけて来た。
「どうしたの?」と、その言葉に
「シディがいない…」と答えると、キャシーが勢いよく立ち上がって心配そうな表情を見せた。
「…外、探してみる」と言うと、
「ワンピース…、そこに掛けていたワンピースが無い」と指を指して言葉にした。
そこには数日前に、パーティーに行くと言って買ってあったワンピースが掛けられていた事を思い出した。
青く、裾に行くほど色が薄くなっているワンピース…、それは、クラウトがキャシーに買ってあげたワンピースであり、キャシーがうれしさのあまりに掛けていて、いつも見ながら、着ている事を想像していた。…事を思い出した。
ドアをあけてシディを探しに外に出ると、キャシーもついて来た。
2人で中央広場にくると、分かれて探すことにした。
キャシーは部屋の周辺の地域を、クラウトは広範囲に、シディが行きそうな場所を探すことにした。
中央広場は、いまだに慌ただしかった。
神官や聖職者、医者や看護師らが、敗残者達の治癒や治療、そして、看護をしていて、炊き出しの準備も始まっているようだった。
クラウトはその広場を抜けて、大きな路地を足早に、尚且つ、しっかりとシディを探したが見つからず。
大きな道の次は、小さな路地に入り、シディが行きそうな場所。
劇場、バーや小物屋…だが、どこも開いていない…。
3つある門番にも聞いたが、外に出た者もいないと言われ、教会にも行ってみたが来てないと言われた。
その外にも、心当たりがありそうなところをしがみつぶしにあたるが、シディの姿は無かった。
街はずれの牧場や農村へと向かっていると、誰かが走ってくるのに気付いた。
少年…とネコ科のイィ・ドゥ…。
彼らはクラウトを追い越し、牧場に向かって走って行った。
チャ子は、今日も元気いっぱいであった。
街から抜けると、ちょっとした上り坂になる。
アサトは自分のペースで駆け上がるが、チャ子はすいすいとアサトを離し、上り坂のてっぺんでアサトを待つのが恒例になっていたが、今日は違っていた。
上り坂のてっぺんでチャ子はたちどまり、アサトじゃなく、牧場の方をじっと見ていた。
微動だにせずに…。
登り終わったアサトはチャ子に声をかける
「どうした?」と、するとチャ子は、指を指して「誰か…死んでいる…」とぼそっと言葉にした。
その言葉にアサトは、チャ子が指を指した方向に目を向けると、牧場にある大きな一本の木に、確かに誰かがぶら下がっていた。
それも首にロープをかけて…。
呆然と二人で立ち尽くしていると、先ほど追い抜いてきた男が上がって来て、二人を見てから、その方向に目をやると…
クラウトの涙腺が弾けた…。
溢れる涙を止めることが出来ない。
その木に首を吊っているのは、まさしくシディだった…。
長い金髪に着ているのはキャシーのワンピース…。
そして…。
……
クラウトは膝から崩れ落ちると、アサトとチャ子の前で子供のように泣いた。
嗚咽し、胃の中のモノを、すべて吐き出してしまうくらいの勢いで泣いた。
鼻水もたれ、
昨日、仲間を失っても泣かなかった自分が、シディの死で初めて悟った。
もう誰もいなくなったことを…。
もういつもの時間が無くなった事に気付いた。
狩りも戦利品を分ける事も…、これまでの時間が遠くに感じる。
苦しくても笑えた時間が遠くに感じる。
それは、自分だけが取り残された感じだ。
目を閉じていると、笑っているみんなが…遠くに感じた……。
その姿を、アサトとチャ子は見守る事しかできなかった…。
「シディ…弱くてごめんな…守れなくて…ごめん…。
みんな…ごめん。置いて行かないでくれ……一緒に……。
ぼくも…一緒に…………。」
1の鐘が響き渡る…デルヘルムにまた新しい朝がやって来た…。
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