第15話 幻獣討伐戦 下

 物凄い轟音と共に炎系の魔法と稲妻が、白兵戦部隊に接近してきているゴブリンらを一掃すると、2・3列目のゴブリン・オークらがその攻撃に驚き、リベルの方へと戻り始める。


 幻獣リベル後方から頭部にかけて、空気を切り裂くような音と共にいかずちが走り、氷の矢と光の矢、そして炎を纏った矢が矢継ぎ早に襲うと、轟音を伴った爆発が至る所で立ち上がった。

 何百、何千の攻撃魔法は波状の状態で暗雲を立ち込めさせると、紫に走る雷を纏った黒い球体と、煌々に輝く光を放っている光の球が頭部へと集中を始めた。

 無限に続くかのような魔法攻撃にリベルの足は止まった。


 魔法の攻撃はやむことを知らない。

 再び、色とりどりの魔法攻撃は、沈黙したリベルへと止む事を知らない。

 15分の魔法攻撃は、全長40メートルの幻獣リベルの足を完全に止めた。


 ストワード中将は馬の頭をリベルに向けると、「進めぇ~」と腰から剣を抜き、リベルめがけて指し示して馬を走らせた。

 「うぉ~~」と一列目の狩猟人パーティーがなだれ込む。


 総勢2000人ほどの狩猟人主体の白兵戦部隊が、ゴブリン、オーク、獣人の亜人や人間とゴブリンやオーク、亜人などの合いの子イィ・ドゥなどの群れに突っ込むと、けたたましい音と共に金属がぶつかり合う音が響き始めた。

 そのそばで沈黙している幻獣リベル。


 その状況を見ていたセルゼット。


 魔法部隊はすぐに瞑想にはいり、神官らは魔法部隊の気力回復に努めていた。


 狩猟人が倒れると、その向こうにいる緑色の肌のゴブリンが倒れた、そのそばで大きくつぶれた鼻のオークが斧で狩猟人を真っ二つにすると、後からやって来た狩猟人に首を剣で刺され、鼻と口から血を流しながら倒れた。

 その狩猟人が雄叫びを上げていると、どこからともなく矢が飛んできて額を打ち抜く。

 狩猟人を打ち抜いたゴブリンは小躍りするが、大きな剣で背後から体をつらぬかれ持ち上げられた。

 その男にゴブリン数匹が四方から襲い、何度も短剣や剣で刺され、口から血を吐きながら膝から力尽き地面に倒れこむ。

 その光景の向こうに、女騎士が一心不乱に剣を振り、ゴブリンの首や体を引き裂くがオークは切れない。

 オークが女騎士の剣を斧ではじくと、女騎士は掌を見て呆然と立ち尽くす。

 立ち尽くしている女騎士の前に、剣を弾いたオークが斧を捨てて下半身を露出させ、いきり立つ男の象徴を女騎士に見せながら笑い、女騎士へと飛びつくと押し倒した。

 そこに別の騎士が来て、女騎士の股間に手を入れようとしていたオークの背中に剣を刺す。

 その剣の剣先は、運悪く女騎士まで貫いてしまったが、その騎士は大きく息を吐くと別の獲物を物色し始めた。

 生と死が交差するこの場所で、立っている者の数がどんどん減って行っている。


 「後退ぃ~」とストワード中将の声が響くと、狩猟人が「撤退、撤退!!」と叫びながらその場を後にし始めた。

 程よく退いた後には、再び魔法攻撃が15分続く。


 暗雲立ち込めるルベルは沈黙したままであり、その周辺にいたゴブリンらの数も減ってきていた。


 魔法攻撃が終わると、再びストワード中将を先頭に狩猟人がなだれこみ始める。

 その勢いは鬼神のごとくで、ゴブリンらをことごとく狩り、30分を少数の被害で終わらせた。

 再び魔法攻撃が開始され、時間が来ると白兵戦部隊がなだれこむと、ゴブリンらも来た道へと敗走を始める個体が確認できるようになった。


 セルゼットは、ここだと思い。


 石弓部隊と魔法部隊に頭部攻撃の令を発すると、魔法攻撃、石弓の攻撃を頭部に集中する。約15分。弓の数は優に万本を超えていた。

 暗雲が頭部を覆っている。

 ストワード中将は大声で国王騎士団、盾持ち部隊とグラディエーター部隊に令を発すると、「うぉ~~~」とけたたましい雄叫びを上げながら、4000人に及ぶ国王騎士団が地響きを伴ってリベルに向かって駆け出す、と同時に狩猟部隊も進みだし、5000名近い白兵戦部隊がリベルの首と頭部に群がった。


 セルゼットは勝利を確信した。


 大量の出血を始めた頭部と首。約5000本の刃がその皮膚を突き、そして裂く。

 何度も刺す、何度も切る。


 あふれんばかりの出血に、国王騎士団や狩猟人は真っ赤に染まっていた。

 「首を引き切れぇ~~」とストワード中将が声を上げると、大半の国王騎士団は首に集中し、また、多くのロープがリベルの鼻、そして、角に巻かれはじめた。


 勝利は目前…。セルゼットと将軍は視線を合わせて頷いた。


 その時であった。

 空から何かが咆哮ほうこうすると同時に、轟音を伴った大きな炎の柱がリベルの頭を燃やすと、突然、頭を持ち上げたリベル。


 ロープを手にしていた兵士は投げ飛ばされ、また、頭部に居た兵士や狩猟者は、高温の炎の柱に焼かれ、重度の火傷を負った者も飛ばされて地面に叩きつけられた、また、灰になった者らもおり、その灰がちりぢりに舞い上がった。


 リベルは、そのモノに向かって咆哮ほうこうする。


 その先には、真っ赤な体のドラゴンが、空中で翼をはばたかせて静止していた。

 1度、2度と空気を振動させるように咆哮ほうこうしてから大きく息を吸い込み、再び口から炎の柱を吐き出して周囲を燃やした。

 兵士や狩猟人は後退を始めていたが、その炎の勢いは想像以上であり、かなり離れた位置の者も燃やされ、なかには直撃して、姿を維持したまま灰だけになっている者もいた。


 燃え逃げ惑う者も、熱さに耐え切れずにばたばたと倒れこむ。


 ドラゴンは、リベルの背中に後ろ脚を掛けてつかまり、再び咆哮ほうこうしてから大きく息を吸いこんで、炎をまとった息を頭部周辺にむかって吐き出すと、リベルは、悲鳴にも似た声を上げながら後ろ足で立ち上がった。

 その行動に、ドラゴンは背中から足を離すと、腕の付いた翼を羽ばたかせて、低い位置で旋回してリベルの前方へと回り込んだ。

 そのドラゴンめがけて踏み出すと、ドラゴンの腹部にリベルの角が突き刺さり、地表になだれ込むように背中からドラゴンは落ちたが、すぐに翼のついた腕をつかって起き上がり、地表を後ろ足で力強く握り、翼を大きく広げて咆哮を上げながらリベルと対峙をした。

 翼を広げた長さは20メートルほどであろうか、お互い咆哮を何度かしたのち、ドラゴンは翼をはばたかせながら浮き始め、何度か咆哮ほうこうを上げると大きく羽ばたきだして、北の黒鉄くろがね山脈に向かって飛び去り始めた。


 現場は壮絶な状況になっていた。

 聖騎士団と狩猟人、合わせて6000人近い人らが、一瞬にしてその1割い程を残して命を失った。

 指揮官セルゼットは、突然の状況に言葉を失い、その場に崩れた。

 隣にいた将軍も顔面を蒼白そうはくにして、馬の上からその現状をただ見ていた。


 リベルは、その場に伏したが息はまだある。しかし、ここは攻めどころ。だが、白兵戦をする兵士がいない。

 遠くから事の顛末を見ていた、敗走していたゴブリンやオークらが声を上げてこちらに押し寄せてくる。


 石弓部隊や魔法部隊、支援部隊も一人、一人とその場から逃げ始める。

 指揮官の令を待つものもいたが、部隊総崩れで敗走を始めるのに、時間はかからなかった。


 そして…この討伐戦は…失敗に終わった…。

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