第13話 国家的依頼 (National quest) 下

 依頼所がある広場にはまだ人があふれていたが、ポッドとグリフはもういないようだ。


 少し立ち止まり3人でその光景を見ている。

 どうやら参加の受付が行われているようだ。

 インシュアがその光景を見てから、何も言わずに進み始めたので、それに追随するアサトとチャ子。


 何人くらいが参戦するのであろう、少し興味を持ったが、ここには猫じゃらしの様な植物に気を取られている女の子と、酒と女にしか興味を持たない男しかいなく、とても会話する気にはならなかった。


 家のそばに来ると香ばしい香りがする

 「チャ子、母さん来ているね」と声をかけると、ニコニコしながら頷く。

 それを見てインシュアがチャ子に対して

 「お前の母さん!」と言うと、その言葉にチャ子がムッとした顔を見せて反応した、それをインシュアが見て楽しんでいる。

 じゃれながらインシュアとチャ子が家に入る。


 ふと、家に入る前になぜか空を見上げた、暗い闇が迫りかけ始めている空の高い位置に、なにか飛んでいるように見える。


 …鳥?なのであろうか…。


 とても目測では確認できないほど、高い場所を何かが飛んでいた…。

 その夜もいつも通りに風呂に入って、癒されて、食事を取ると歯を磨いて、ベッドに入る。

 そして眠りにつくと、今夜もチャ子がベッドに入って来て、脇に丸まって寝ている。

 そっとしておく、そして、眠りにつく…。


 14日目の朝。


 それは、まだ夜も明けきらない午前3時ころだと思う。

 外から熱気をまとうような明るさと温かさに目を覚ますと、部屋が薄くオレンジ色に照らされていた。

 その光源があると思われる窓へと視線を移そうとすると、ベッドの上に膝を折って座りながら外を見ているチャ子に気付いた。


 「どうしたの?」と問うと、チャ子は外を指さしながら

 「人がいっぱい…」と答える。

 窓から外を見ると、通り一杯に人が溢れていた。


 「行こう!」とチャ子を促して、部屋を出る、そして、玄関から外に出る。

 松明を持った人が道を埋め尽くしていた。

 そこを埋め尽くしていた人たちの恰好は、鎧、兜、ローブに尖がり帽子など、戦闘用の格好で、道全体を覆いつくしていた。


 その気配にソファーで寝ていたインシュアも起きてきた。

 「討伐戦か…、うちのギルドにも来ていたようだが、断ったみたいだな。安全が一番だな。」とぼそりとつぶやいた。


 部屋の奥から、ナガミチがあくびをしながら来ると外に出た。

 「こりゃぁ~、壮観だな。」と言いながら、先の方から後方までをじっくりと見た。


 アサトはふとある男と目があった。


 黒ぶちのメガネに、整ったつやのある黒髪で青い瞳が印象的な、雰囲気が知的のオーラを発し、黒い神官用のローブをきちんと着こなしている者と…。

 周りには仲間だろうか、大きな盾を背負った男とやけに軽装な女性、2人が談笑している。

 目が合った男の隣には、長髪金髪の女性が白いローブを着て、大きなロッドを持っていたので魔法使いであろう。メガネが神官。白ローブの女が魔法使い。そして、戦士と軽装がアサシンかな?あとは…と、なぜか、その組み合わせがパーティーなんだと自然に感じていた。


 そのそばにも、何人か男や女がいて話をしている。…この人達も仲間?


 男は、アサトと少しだけ目が合うと前に視線を変え、腕についている丸い物を見た。


 彼らの周りには、同じハチマキのようなモノを着けた者たちもいた。

 見るからにチームと言う感じだった。

 組み合わせも、戦士、弓使い、盾持ち、神官…。魔法使い?

 同じ色に装備などが統一されているチームもあった。


 これがパーティーと言うモノなのか…とアサトは、目の前にいる狩猟者達を見て思っていた。


 すると、ふいにラッパの音が鳴り響く、と同時に先頭の方から地鳴りを伴って大きな雄叫びが向かってくる、そして、通り過ぎて行く…と同時に、通りを埋め尽くしている人らが進み始めた。

 その行進は、地表をも揺るがす程の地鳴りをまといながら、街全体を揺らすようであった。

 隣の住人や向かいの住人、周りの家々の住人も外に出て、その行進を見入っていた。

 行進は30分ほどかけて、その場から出陣をして行く、その頃には、辺りも自然な色を取り戻しはじめていた。


 チャ子は何かを感じたのか、部屋の奥で丸まっていると、近くのソファーでインシュアがエールをあおり始めた。

 ナガミチとアサトは力強い行進を見送り、小さくなる後ろ姿を見ていた、すると、

 「何人、生きて帰ってくるだろうか…」と、ナガミチがつぶやいた。

 「もしかして…、負けるって考えているんですか?」と聞くと、

 「これだけの討伐戦。参加人数も10000はちかいだろう、それを見事に動かす事が出来る軍師がいるならいいんだが、自由を愛する狩猟者を含めた10000。王国騎士団が6000くらいと考えても、4000がバラバラに動いたら作戦も何もないからな…幻獣相手なら、出たとこ勝負って言うのも考えなきゃならない。この指揮は難しいな…」と言いながら

 「まぁ~、参加しているわけじゃないからな。あとは無事の帰還を待つだけだな」と言い残し、家の中に入って行った。


 アサトは、白々と明け始めた空を見上げていた。


 幻獣の存在。軍師の采配。王国騎士団。狩猟者…。

 いろんな事が今日、この先で行われる…。

 そう考えただけでも、何か異様な感覚を覚えた。

 そして、その感覚を振り払うかのように頭を振ると家の中に入った。


 まもなく、夜が明ける。


 今日の午後には、討伐戦の狼煙のろしがあがったのだった…。

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