第12話 国家的依頼 (National quest) 上

 13日目の朝。


 いつものように牧場へ向かって走っていると、噴水広場がみえるあたりで、おびただしい程の人があふれていることに気付いた。


 走るのをやめ、歩いて広場に入ると、いつもなら、人がそんなにいないこの広場に人が溢れていた。

 まだ1の鐘、午前6時の鐘もなっていないのに、この人だかりは異常だと思っていると、チャ子は、キョロキョロしながらあたりを見て指をさした、そこには、見覚えのあるシルエットがあった。


 背が小さくずんぐりとした体形と、その横にガタイの大きなシルエット、二人は大声で何やら声を発していた。

 その声は聴きなれた声、ポッドにグリフだ。


 チャ子はその二人を確認すると、駆け足でその者らに向かい、そして、グリフの背中に飛びつく、意表を突かれたグリフは、奇妙な悲鳴を挙げながらチャ子を持ち上げ、チャ子にむかって言葉をかけているように見えたと思ったら、こちらに指をさした。

 それと同時に二人は振り返り、手を挙げながらこちらに向かってきた。


 「朝早くから精がでるな若者!」と、グリフが声をかけてきた。

 「牧場か?」とポッド。

 チャ子はグリフの手を払いのけるとアサトの脇に立った。

 「なにかあったんですか?」と、アサトはポッド達の後ろを見ながら言葉にする。

 「あぁ~、祭りだ、祭り。」と声を高々にグリフが言う。

 「国家的依頼が入った。National questだ!」とポッドが付け加えた。でも、その表情は晴れやかではない。

 「乗り気じゃないんですか?」と聞くと

 「今回はなぁ~。幻獣げんじゅう“リベル”のようだ」


 初めて聞く言葉だ。幻獣げんじゅう…。幻の獣って事は、当然レア的な生き物なのだろう。


 「よくわからないです。幻獣げんじゅうとは何なんですか?」

 「あぁ~そうだよな、わからないよな…。幻獣げんじゅうとは、まぁ~未確認生物のようなものだな。でも、古文書や伝承には記されている時もある、また新種の幻獣げんじゅうの噂もある。早い話、ちょっとやそっとじゃお目にかかれない怪物ってことだな」とポッドが言う。


 やっぱりレア的生物なのだ、とアサトは思った。でも、このクエストには、幻獣と言われる怪物?の名前が記してある。と言う事は、古文書や伝承などで記された獣なのだろう。


 「リベルって?」

 「あぁ~太古の昔に生息していた獣のようだ、真っ黒い体に赤黒い角。顔は牛か熊のようで四足歩行している。大きさは長さ40~50メートル。高さは20メートル、幅も20メートル程って事だ。ここから南の土地に急に表れたようだ。北上をしているようだが、どこに向かっているかはわからないみたいだが、とりあえず、王国は、被害が出る前にデルヘルムを起点とした、討伐クエストを出したみたいだ。総額金貨10000枚。こりゃ…でかいぞ。遠征に加わるだけで金貨1枚、幻獣げんじゅうを仕留めた者、チームには別に1000枚が支給されるようだ。だからお祭り騒ぎになっているんだ。」と、ポドリアンが髭を擦りながら言葉にした。

 「参加はしないんですか?」とアサトが言うと、ポッドは頷きながら、

 「老兵の出る幕は無い。ただな、ギルドに依頼があった時の為に、情報集めに来ているだけさ。」と、ウインクをして見せる。


 「アルがこの幻獣げんじゅう出現の噂が聞こえてきた時から偵察に行っている。もうかれこれ2週間ほどになるかな…、アルの報告には、こいつはまっすぐには進んでないみたいだ、迷走をしているような報告だったな」とグリフが髭をなでながら言葉にした。

 「まぁ~、お前らには関係ない事だ。さっさと修行に行け!」とポッドがまくし立ててきたので、アサトとチャ子はその場を後にすることにした。


 幻獣げんじゅう…幻の獣。レア的獣。大きさは長さ40~50メートル。高さは20メートル、幅も20メートル程の獣。そんなモノとどう戦うんだろう…。


 不思議そうな顔でチャ子がアサトの表情を見ていた。

 「勝てるのかな…」とつぶやくと

 「どうかな…」とチャ子が答える。と言うか、初めてチャ子の声を聴いた。

 その声は一言でいえば小学生程のちょっとかわいい声だった。


 「チャ子、話せるの?」と聞くと、小さく前を見ながら頷いた。

 「え?だって今まで何も話さなかったじゃないか」と言うと、

 「だって、話しかけてくれなかったから…」と、アサトを見ながら答える。


 そうだね、僕が悪かった、チャ子は、いつもそばにいたのに話しかけてなかった。ごめんね、と思うと。


 「ごめん。僕が悪かったんだね。これからはたくさん話そうよ。」と自然に言葉が出て来た、その言葉に、大きく微笑みながら頷いてスピードを上げた。

 30メートルくらい先に行ったチャ子は立ち止まり、こちらに振り返ると

 「早く来ないと、置いてゆくよ!」と、両腕をふりながら笑顔を振りまいていた。


 牧場に着くと基礎的トレーニングをはじめ、お昼近くには終えると、昼御飯をインシュアが持ってきてくれたので、それを食べて一休みをして、左右1000回ずつの木刀の素振りを始める。


 まだ暮れていないので、もう100回ずつ素振りをするが、まだ暮れていないので、もう100回追加、追加、追加…で体をイジメて体に構えを叩きこむ。


 イジメ疲れた頃には日が暮れ始め、インシュアが帰るぞと促すので、その言葉のままに帰宅の途につく。


 今日は歩いて帰る。

 「国家的依頼。聞きました?」と話しかけてみると。

 「あぁ~、聞いた」と返してくれた、その言葉にちょっと驚いた。

 「行くんですか?」と聞いてみると。

 「行かない。」とそっけなく返してきた。

 「え?幻獣げんじゅう討伐ですよ」

 「興味がない」と即答。

 「興味ないんですか?」と、再び聞いてみる。

 「あぁ~、興味がない。」と即答。

 そっけない返事をするインシュア。

 「僕は興味あるな…。インシュアさんは何に興味があるんですか?」と聞くと、インシュアは一点だけを見つめて

 「酒と女。幻獣げんじゅう倒しに行っても、倒せる保証はない。なら疲れる事はしない。。」


 そこ美学なんですか…。と思いながら進む


 「ぼく、強くなってるんですかね?」と聞いてみる。

 「わからん。」と即答。

 「毎日、これだけやってんですよ、少しは…」…強くなっている…と返して欲しいと思いながら聞いてみると。

 「わからん。『』の意味が解らん。強くても、弱くても、そこに酒と女があればそれでいい。それが。」


 それも美学なんですね…。と望んだ答えが返ってこない事と、その美学に少し肩を落としながら進む。


 「でも、はっきり言える事はある。」とインシュアが、ぼそっと言葉にした。

 「なんですか?」と聞いてみると。

 「ナガミチさんは間違ってはいない。信じるんだ。」

 チャ子が何かを見つけて駆けだしてゆく。

 インシュアは、ただ前だけを見ていた。


 インシュアの言葉は、なぜか…心に響いた。

 この人なりにナガミチを尊敬しているのかな?…、そんな事を感じさせる言葉だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る