第9話 師弟関係 下

 そんなナガミチを見ているアサトは、ふいに、そばにいたとんがり帽の老人と少女をみた。

 アサトの行動に気付いたのか、少女もこちらをみた。

 その時に、少女と目が合うと少し照れてしまった。と言うか、彼女も照れたのであろう、恥ずかしそうな表情を浮べていた。

 小さく会釈をすると、彼女も小さく微笑みながら会釈をした。


 先ほどから感じていたが、この世界に来ている人すべてが不安なんだろう。

 こんな小さな微笑みも、挨拶も、僕らにとっては、同じ境遇の絆みたいな物かもしれない。

 また、これも出会い…なのか…。と思った時。


 頭を叩かれる衝撃が襲った。

 「この野郎、色気着くんじゃねぇ。」と、ナガミチに叩かれたようだ。


 それを見ていた彼女はクスクスと笑う。


 アサトも彼女の笑いを見て、妙に可笑しくなり笑うと、再び頭を叩かれる衝撃が走った。

 「ってか、エロ餓鬼が!」と言いながら、ナガミチはカウンターの女性へと視線を向けた。


 「…と言う事なので、以前は、剣士じゃなくて、アサシンで師範になっていましたよね。今回は、ジョブチェンジのさ…みらいさん」と言うと、すぐさま

 「だから…サムライだっての、サ・ム・ラ・イ。」と返す。

 再び困惑した表情で、

 「その職業に対しての審査と師範証の交換をしますので、奥に来てもらえませんか?」と、カウンター越しに女性が言葉にした。

 「こいつは?」と、アサトを指さすと、

 「お弟子さんの方は関係ありません、師範の認定審査ですので師範様だけで大丈夫です。」と答えた。

 ナガミチはしぶしぶアサトに、

 「そこらにいろ。なんか審査があるみたいだ。逃げるなよ。」と言いながら、しぶしぶ女性の後についてカウンターの奥へと姿を消した。


 その姿を見てから、先ほどの彼女を見ると、彼女の連れのとんがり帽子の老人も同じく、別の女性に連れられて奥へと進んで行っていた。


 アサトはドキドキしている。


 あたりを見渡すと、窓際に長椅子のようなものがあったので、彼女を一度みてからその長椅子へと進んだ。

 すると、彼女もついてきた。

 彼女もとんがり帽子を被り、少し黒っぽいローブを羽織っていた。


 「こんにちは、初めましてかな…」と声をかけると、彼女は小さく微笑んだ。

 長椅子に座ると、彼女も座る。

 「僕は、アサト…今朝、いざなわれた。」と言うと、彼女はか細い声で

 「私は,システィナ。3か月ほど前にいざなわれてきました。」と答えた。

 「そうなんだ。なんかさ、来て早々なんだけどよくわからなくてさ。君はどうなの?」

 と、今一意味の解らない事を聞いてしまったと後悔。


 「私も…。ようやくギルドと言うところに入って、今日、師弟関係を結ぶことになりました。」

 「あぁ~、もしかして、魔法使い?」と聞くと、彼女は小さく頷いた。


 「そっか…」彼女は3か月間何をしていたんだろう。とふと思った。が、なんかそれを聞いたら、良くないんでは無いかと思い口をつぐんだ。

 いずれにしろ生きてはいる、何らかをして生き抜いていたんだと思う事にした。


 「なんの職業を選んだのですか?」と彼女が聞く。

 「さ…ムライ?」と言葉にする。

 さっきカウンターで、ナガミチと受付の女性がやり取りしているのを聞いていたが、サムライって何?と思った。


 …あっ、そう言えば…。


 アサトは思った。

 そう言えば、成り行き任せでここに来たのはいいんだけど、サムライってどんな職業?。と…。

 ポドリアンさんは、剣士。おとこは剣士と言っていたから、剣士の職業になるんだなって思っていたが、ナガミチと言う人に会って、ここに連れてこられるまで、何一つ職業的な話はしていない…。

 確かに、ここは師弟関係を結ぶ公的な場所なのかもしれないが…。


 「サムライって、なんなんだろう…」とアサトはポツリ漏らす。

 その言葉に、彼女は小さく笑いながら「可笑しい」と言葉にした。

 「やりたい職業とかは無かったんですか?」

 「いや…、なんかギルド行って、ギルド入ることになって、そこの人がアカデミー紹介するって連れてこられたんだけど、途中で公認拉致されて…今に至っているって感じなんで…」その言葉に、彼女は驚き。

 「…公認拉致って、大丈夫なんですか?」と、アサトに向かって言葉にした。

 「まぁ~、大丈夫なんじゃないのかな?なんか、お互い知っている人っぽかったしさ。」と言うと、彼女はゆっくりと胸に手を当て

 「なら心配ないかもしれませんね。私は神官目指していたのですが、パーティー組むにあたり、神官より魔法使いがいいと仲間に言われたので、今日、師弟関係を…」

 「そうなんだ…」


 そうなんだ…、彼女にはもう仲間と言えるパーティーがいるんだと、アサトは思った。

 それもそうである、彼女はもう3か月前にここにいざなわれ、その時、何人かでいざなわれたのかもしれない。

 その時の人達とパーティーを組む。

 いや、組んでいるのではないか…それが当たり前のはずだ。


 「システィナさん。行きましょう」と声が聞こえる、しゃがれた声の主は、これから師弟を組むのであろう先ほどの老人であった。

 システィナは、スクッと立ち上がると一礼をして手を出した。

 「お互い頑張って生き抜きましょう。またどこかで会えることを楽しみにしています。」と握手をして、老人の元に駆けて行った。


 その後ろ姿を見送る。


 150センチほどの身長であろうか、とんがり帽からはみ出ている少し茶見ちゃみがかった色の髪が弾んでいた。なんか…こういうのもいいな…


 「…って思って、鼻の下伸ばして、チンコおっ立てんじゃね~ぞ。」と、ナガミチが言葉をかけてきた。

 その言葉にアサトは立ち上がった。

 「まぁ~、ムラムラするようなケツの振り方だけどな。お前には、ちいぃ~~と早い。とりあえず、それはおいとく。」と言いながら、ペンダント、それも銀か鉄で出来た板のようなものが付いているペンダントをアサトの前に出す。

 「これから、俺とお前は師弟関係だ。弟子は、師匠の言う事を聞く。師匠をあがめる。師匠をたてまつる。以上」

 と言いながら、そのペンダントをアサトに渡す。


 アサトは、そのペンダントを見ながら

 「あの…僕は、なんの職業になるんですか?」と聞くと、ナガミチは大きな笑顔を見せながら

 「お前は、これから剣士、“”と言う職業に就く。いいか、今日この日から、俺の命尽きる日まで、お前の体をイジメ抜き、毎日血反吐履くまでイジメ抜き、そして、強くしてやる。」と言いながら、カウンターを指さし。


 「さぁ~、最初の師匠の命令だ。あそこに行って登録料、銀貨5枚を払って来い!」と、アサトに命令を下した


 …はぁ?…

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