第6話 ギルドとこの世界の在り方 上

 アイゼンは一人掛けのソファーに腰を下ろすと、アサトにも座れと促した。

 アサトもソファーに座る。


 長いソファーにいたアルニアとテレニアの間にチャ子が座ると、アルニアに対して、邪魔と言わんばかりにフーと喉を鳴らして威嚇をした、アルニアは眉間に皺をよせながら立ち上がると、長く大きな机にそなわっていた椅子に、深々と身を沈めた。


 アイゼンの斜め後ろにサーシャが立ち、アサトが座ったソファーの後ろにポドリアンとグリフが立った。


 「どうだね。」とアイゼン。

 「…どうって…。」と、少し返答に困りながら返すアサト。

 「武器屋のウイザから、簡単なレクチャーを受けただろう?」と聞かれると、アサトは、先ほど武器屋で会った髭顔の男を思い出した。

 「あの男も、約10年前は、このギルドのメンバーだった」と、顎を撫でながらアイゼンは言葉にする。

 「ある戦いで傷を負った。まぁ~、すぐにテレニアが治したが、どうも心の傷までは治せなかった。」

 アサトはアイゼンを見て、「戦い?」と問いを投げかける。

 その言葉にアイゼンは目を閉じ

 「まぁ~、それは、この話とは関係ないからいい。」と言うと目を開け、まっすぐにアサトを見た。

 その視線に、まっすぐに向かい合ってアサトは考えた。


 …たぶん、意味のわからない事を聞かされると思う。まずははっきりしなければならない事を聞いておこう…。と…


 「いきなり質問をしていいですか?」と言葉にすると、アイゼンは小さく頷き。

 「疑問はたくさんあるよな…わかるよ。まずは聞こう」

 「…すみません…。えぇ~と…、とりあえず、ギルドってなんですか?パーティーってのは…どう言う意味なんですか?」と言葉にすると、アイゼンは顎に手を当てながら目を閉じて考えだした。そして。


 「まずはギルドだ、ギルドとは…、共同体の名称みたいなものだな。一緒に仕事をする為の集まりのようなものだ…。この街には私のギルドを合わせた、約12のギルドがある。そのギルド全てが思想のようなモノを持って運営されている。」


 「共同体…思想…」とつぶやくアサト、


 「そう、思想だ。」とアイゼンが言うと、握りこぶしを小さく目の前に挙げた。

 「一つは、資材などの確保を目的としたギルド。」と言い、人差し指を立てる。

 「一つは、護衛などを目的としたギルド。」と言い、中指を立てる。

 「一つは、討伐を目的としたギルド。」と言い、薬指を立てる。

 「そして、この3つを請け負えるだけの力を持つギルド。」と言って、親指を立てた。


 「私のギルドは、メンバーが163名。この街では3番目に大きなギルドである。6人から8人のパーティー。」と言うと、少し間をおいて

 「…あぁ~、そうだな、パーティーも分からないか…。」といい、少し考えてから

 「パーティーとは、仲間の集まりの事だな。ようは…一緒に仕事をする仲間の事だ。チームだな。」とアイゼン。


 「パーティー…チーム……。仲間…ですか…。」とつぶやくように言葉にして思った。街で見かけた狩猟人の一団は、やはりパーティーなんだ…と、


 その言葉にうなずきながら、アイゼンは続けた。

 「そう、何人かで一つの仕事をするのがパーティー、その仕事をする者の集まり、パーティーが集まるところをギルドって感じで考えればいい。…それで、話を続けていいかな?」とアイゼンがアサトを見ると、アサトは小さく頷く。


 「私のギルドには、21パーティーが所属していて、色々なところから依頼を受けている。今、この街で動けるパーティーは16。残りの5パーティーは、我がギルドが独自に立てている目標の為に遠征に出ている。毎朝9時には、我がギルド指名の依頼が依頼所から書面で来る。それを各パーティーに振り分ける。我がギルドは、成功報酬の半分をいただき、残りはパーティーで分ける。依頼時に得た戦利品も、各々パーティで分配するシステムとなっている。わかるかな?」とアサトに投げかけると

 「ギルドに入ると、仕事を受けやすく…なる…し、稼ぎやすくなると言う事ですか?」と答えると

 アイゼンは頷く、そして、上げていた手を広げて横にした、そこにサーシャが小さな布の袋をその掌に置く。


 「我がギルドに入ると、ここにある袋。銀貨20枚が入ったこれを支給する。その銀貨で、まずは自分に合った職種を見つけ、技能を磨くアカデミーで師弟関係を結び、その師匠たるものからスキル。言わば技能などを伝授してもらう。まぁ~、最近では半人前の師範とか、大した技能を持たない者とかが師範をやっているからな、金目当ての師範もいる。」と少し困り顔を見せる。

 「その点は、ポドリアンがいくつか見繕みつくろっているから安心して構わん。まぁ~後は職業だな。大まかに言うと、先頭になって戦う職業。飛び道具などを使う職業。情報収集や潜入行動を得意とする職業。神や自然的存在を支える事を主とする職業。魔法や神通力に相当する力を使用する職業。他にもいろいろある。今あげた職業でも、細かく分けると多くの職業がある。まずは、自分に合った職業を見つけ、それを取得して金に余裕が出来たら、他の職業の技能を取得するのも手である。」

 アイゼンは立ち上がり、アサトへと歩み寄ってきた。


 「色々困惑しているかもしれないが、これは現実。ここで生きてゆくには、この現実を受け入れ、前に進む事ができるか否かで決まる」と言いながら、アサトの右手を掴み、その袋を掴ませた。

 「腹が減ったらここに来れば、少額で食わせてやる。寝るところも、この近くに安く寝られる場所も用意している。君は一人ではない。」と言うと微笑んだ。

 アサトは、アイゼンの顔を見てから、その後ろ、一人掛けのソファーの後ろに立っているサーシャを見た。彼女も優しく微笑んでいる。

 「とりあえず…。剣技だな。男は剣技。」と、ポドリアンが声にする。

 その隣にいたグリフも大きく笑いながら頷いた。


 アサトは、その二人を見てから、掌にある袋に目を向け、

 「あのう…」とアサトは小さく声に出す。

 「質問…いいですか?」と、その言葉にアイゼンは頷く。

 「僕は何もわかりません。でも、はっきり出来ないところがあるんです」といい、ちょっと間を置いてから

 「いったい…何を狩るんですか?狩猟人ハンターの仕事って…、食べる為の肉とかの調達なら、先ほど聞いたような職業?、先頭になって戦う職業とか、魔法に相当する力を使用する職業とか…」


 ポドリアンが首をすくめると、アイゼンは小さく頷いた。

 「…そう、それが本当のなぜ?と言う事なんだよ。狩猟人ハンターと言っても、そう言うモノを狩る者もいる。食べる事は必要だからね。それが当たり前の答えだと言う事も分かっている。ただ、この世界には、我々のような知性のある生き物以外にもいるのだよ…」といい、アサトに鋭い視線を投げてきて。


 「が…。」と会話を締めた。

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