第2話 遠い空。上

 冷たい感覚に少年は目を覚ました。


 パッと目を見開いてみると、そこには、高い場所に大きな円形の天井があり、その天井には、何やら絵が描かれてあった。


 薄暗い雰囲気の天井に描かれている絵は、ドラゴンや怪物であろうか、羽の生えた人間も描かれている…何やら細長い建物のようなモノ、キノコ雲と翼を持った鉄の塊。不気味な獣や生き物。そして、人間。青地に白の星が均等に並び、赤地に白の横線が入った…旗、その旗らしきモノを掲げている、金髪の男。対峙しているように、赤地に黄色い星が描かれている旗を掲げている、黒髪のふくよかな男、その周りには、悲痛な顔をしている人間らの顔が描かれていた。


 その意味は解らない…。


 少年は体を起こすと、石作りのベッドの上に横たわっている事に気が付いた。

 よく見ると、少年が横になっていた石作りのベッドが、他に11個、円を描いて設置されてあった。


 ベッドから降りると足元がひんやりとしたので、下をみると、真っ白な石で覆いつくされていた。

 しっかりとその空間を見ると、大理石作りの床と壁で作られていて、石のベッド以外には、壁に煌々こうこう松明たいまつだけが灯されていた。


 耳を澄ましながらあたりを見渡してみるが、冷たい雰囲気と共に無音が広がっているだけであり、寒いという感覚は無いが、なぜか冷たい感覚があった。

 すると、風が走る感覚があったので、その方向を見てみると。廊下?であろうか、この空間に空いている場所が見えた。


 出入り口のような場所?。


 恐る恐る足を進めてみると、そこには、数十足の革のような素材で出来ている靴が並べてあった。


 …さて、ここは何処なのだろう?と言うか、なんかふわふわしているし、なんか、と言うか、頭の中が真っ白な感じだ…ぼくは?…誰だ?


 そう思いながらそこにある靴を履くが、サイズが合わないので、何足か履いてみて自分にあった靴を履くと、その廊下の先に目を向けた。

 篝火かがりびが緩やかに廊下を照らしている。


 恐る恐る足を踏み出してみると、しっかりとした作りの石が敷き詰められているその廊下は、何の違和感もなく歩けるようだった。

 十数メートルほど進んだ所に石作りの頑丈そうな階段があり、上がってゆくと、また先の見えないほど長い廊下が目の前に現れた。


 そこを進む。


 再び十数メートル、かなり長い距離を歩くと眩しいほどの光が、この廊下の出口から差し込んでいる場所に来たので、右手で光をさえぎりながら、その出口と思わしき場所を出ると、暖かい風と空気が迎えてくれた。


 目が慣れるまで時間はかからなかった。


 視界が元に戻ると、目に見えた景色は、緑が一色と言う表現が当てはまるような風景で、正面に小さな山と言うか、丘が二つ、その間には森が広がって見えている、その向こうには草原であろうか…。

 少し前には石造りの柵があり、そこまで進んで柵に手を乗せ左右を見渡す。


 左側には、先ほどの見た小さな山であろう、丘と言ってもいい程のこんもりとしたものがあり、右側には、もう一つの山みたいな丘の向こうに、街であろうか、橙や青・黒色の瓦で出来ているような屋根が広がっているのが見えた。

 後ろを振り返ると、出てきたところはどうやら神殿のようだ。


 その神殿は、そびえるような絶壁の岩の壁に作られた神殿と言っても、入り口だけではあったが、入り口の脇には高さ3メートルほどの柱が2本建っていて、その柱の上には、真っ白な石で造られた屋根が付いていた。


 崖沿いにも緑があり、崖から離れたところに先ほどの街が広がっている、街の向こうには丘であろうか、少し高くなっている場所も見受けられた。


 よく見ると、その街に向かってレンガで積まれた壁が2本伸びていて、どうやら通路になっているように思えた。


 あたりを見渡しながらその道に向かって進むことにする。


 数メートル進むと下りの階段が見え、そこを降りると先ほど見えた通路に出たのでしっかりと見てみると、その通路は街に向かって少しだが蛇行しながら続いていたので、その通路を進む事にした。


 通路左右にはレンガ作りの壁があり、その壁には所々に小さな穴が開いてあったので、その向こう側を見てみると、崖側の方には緑の草が生えてあり、そこには60センチ程の石が多く並べられていた。

 この壁沿いからは、そこには入られないようである。

 反対側は少し行った所から丘になっているようで、その向こうには森の木々の先端がちらほらと見えていた。


 壁に触れながら進むと、大きな石作りのアーチが見えてきた。

 そのアーチには木製の扉がはめられてあった。

 先ほどの神殿から、そんなに遠くは無い場所と言っても数十メートルはあったであろう、振り返ると少し高い場所に神殿への入り口の建物が見えていた。

 先ほどは分からなかったが、神殿であろうその場所の上には、何やら紋章のようなモノが見えている。


 その紋章が形作っているのは…、よくわからない…。


 小さくため息をつきながら扉を押した、そんなに力を使わなくてもその扉は開いた。


 扉の向こうは、やはり街があり、多くの人々が行き交っていた。

 扉をぬけると辺りを見渡す、すると、真っ白な鎧をまとった男が、石で作られたアーチの両端に立っていた。


 鎧をまとった男と目が合う。


 鎧の男は何も言わずに少年を見下ろしていた。

 少年は別の男も見ると、その鎧の男は、一度、少年と目を合わせると扉に目を向け言葉を発した。

 「一人か?」と、その言葉に振り返り、後ろを確認してから「はい。」と答えた。

 「なら先に進め。」と促す。

 言葉のままに先に進むと、声をかけてきた鎧の男が、扉の向こうを確認したのち扉を閉めて鍵をかけた。

 「ここは、どこなんですか?」と言葉をかけると、男は、「デルヘルム」とぶっきらぼうに言い、もう一人の男とその場を後にした。


 「あっ。あのう~~。」

 少年は、その場に立ち尽くしたまま、遠のく鎧の男たちの後ろ姿を見ながら考えた。


 …さてはて、これから何をしたらいいのだろう…。

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