第12話【世界の真相】
人間は、世界から駆除されなくてはならない。天使はそう言った。
「何でそんな事言われなきゃならないの? 私たちが何をしたって言うの!」
僕の手を握る力を強めて、君が泣きそうな声で言った。
僕も乾いた唾を飲み込み、天使を睨む。そうだ。相手が何であろうと、この人を泣かせたら許しはしない。
『あなたたちが、この世界を終焉に追いやったのです。私たちは人間を、維持すべきでない種であると判断しました』
僕たちが、この世界を……?
それを聞いた途端に、衝撃的なビジョンが爆発したように脳裏に広がった。それは今のこの透き通った青と白の美しい世界とは正反対の、赤と黒と爆音と絶叫と悲鳴と発狂と激痛と憎悪と怨恨と絶望と血と死と死と死と死死死死死死死死死に塗れたドロドロの世界で、気付くと僕は両手で頭を抱えて叫んでいた。
うわあああああああああああああ!
『もはやあなたたちの罪は雪ぎ得るものではありません。私たちは一度世界をリセットし、新たな生命を持った世界を再構築します』
先に正気を取り戻した君に体を揺すられるまで、僕は天使の言葉も耳に入っていなかった。
「……でも、私たち人間全員が争いを望んだ訳じゃないよ。中には必死でそれを止めようと、最後まで声を張り上げてた人たちだっていたのに……」
『ですが争いは止まりませんでした。世界の終焉は人間の総意と、私たちは認識しました。そして汚染された大地の浄化のため、全てを洗い流しました』
それが、世界の真相……。
じゃあ……やっぱり、僕はもう。
いや、僕だけじゃなく、君までも……
『ですから、聞いたのです。あなたたちは、何故ここにいるのですか?』
君が無言で、僕の手を強く握った。
太陽が傾き、オレンジ色を帯びた光が僕達を照らしていた。
砂浜に、僕たちの影はどこにもなかった。
僕たちは、この世界にいるはずのない存在。
いるべきでない存在。
もしかしたら、もっと前から、君は知っていたんだろうか。
知っていながら、僕を驚かせない為に、黙っていたんだろうか。
悲しくはない。絶望もない。色々な事を思い出したから。
消えるべき運命に、今は疑問も恐れも感じない。
ただ……、ただ……、これで君と本当のお別れになると思うと、心が潰れそうになる。
心を決めて、天使の紺碧の瞳を見上げ、僕は言った。
……分かりました。僕たちは、浄化を受け入れます。ただ、少しだけ……、あの太陽が海に落ちるまで、僕たちに最後の時間をくれませんか。
数秒の沈黙の後、天使は静かに空に飛び立っていった。
それから、僕たちの最後の別れが、始まる。
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