第10話【輝く翼】


 地面に広がる水を踏みしめながらゆっくり歩いたので、海に着くまでにかなり時間がかかった。

 それでも、木々の茂る林を抜けた先で、眼下に広がる砂浜と壮大な海が目に入った瞬間に、疲れも吹き飛んで心が興奮で溢れた。


「海だああぁぁー!」


 隣で君が波音にも負けない大声で叫んだ。僕も肺に酸素を沢山取り込んで、思いっきり吐き出す。


 う、み、だああああー!


「あははははっ」


 君が朗らかに笑う。僕も笑う。二人の笑い声は海と空の果てしない狭間に吸い込まれて行くようだった。


「ねっ、行こ行こ!」


 君に手を引かれ、砂浜に続く坂道を下りる。それは元は石造りの階段だったと思わせるでこぼこの形跡がちらほらと残っていた。その上を優しい水が緩やかに流れ、静かに砂浜に注がれていた。

 砂浜までは水で覆われてはおらず、坂道から流れる水が海へと続く小さな川を除いて、サラサラとした砂が広がっている。


「おおー、海だぁ。砂浜だぁ」


 君がびしょびしょに濡れた靴で砂浜を踏みしめながら言った。水を吸った砂が踏まれる度、「むぎゅっ」という面白い音が鳴る。

 海は穏やかで、それでいて力強い波音を立てていて。空気が澄んでいるからか、水平線まではっきりと見える。そこにはもちろん、水鳥や船なんてものは存在しておらず、青い海はただただ白い波を運んでいるだけだ。


「あ、あれ何だろう」


 何かを見つけたらしい君の視線の先を追うと、遠くの砂浜から小さな橋のようなものが海に向かって伸びていた。それはどこかに繋がっている訳ではなく、数十メートル程の長さで途切れている。


 うーん、桟橋……かな。


「ああ、そうかも。行ってみようか」


 そうだね。まだ暫く日は落ちないだろうし。


 僕の言葉に頷いた君は、一歩だけ踏み出した後、すぐに足を止めた。手を繋いだままの僕も、釣られて立ち止る。


「……あれ?」


 どうしたの?


「……なんか、こんなやりとり、前にもした事があるような気がして」


 ああ、デジャヴってやつ? たまにあるよね。まったく知らない道を歩いてるのに、前にも来た事があるような気になるやつ。


「うーん、そうなのかな……。なんかあの桟橋も、見た事があるような」


 君が不思議そうに桟橋を見つめるので僕も眺めてみたけど、特に既視感は得られなかった。そんなに気にするような事だろうかと首を傾げていたら、


 それは、突風の様な音と共に、突然目の前に現れた。

 いや、舞い降りたと言うべきだろうか。

 白く輝く大きな翼を、その背中にはためかせながら。

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