第6話【二人ぼっちのこの星で】


「最近、ダメだと思うんだ」


 夜になり、柔らかな草原に寝そべりながら、君がため息交じりにそう言った。


 え…、何が?


「んー、何と言うか、ネガティブモードに入っちゃってる感じがしてさ。せっかくこんな素敵な世界なんだから、もっと楽しく行かなきゃなーって思ったんだよ」


 素敵な世界。君はそう言った。

 建物の廃墟だけが広がり、僕達以外に生命の欠片も見出せないようなこの静寂の世界を。

 君はちらりと僕の方を見た後、続けた。


「せっかく……二人でいられるんだから、楽しく、行きたいじゃん?」


 その言葉に、胸が締め付けられるように感じた。

 そうか。この世界に僕達しかいない、というのは、事実の一面でしかない。

 僕の隣に、君がいる。それだけで十分じゃないか。

 十分過ぎるくらい、僕にとっては幸せじゃないか。

 しっかりと君の目を見て答える。


 そうだね、楽しく、行きたいね。


 君は嬉しそうに笑った。その笑顔にまた、愛おしさが加速する。


「よーし、明日からはまた初心に帰って、楽しく行くぞぉ。……ね?」


 うん。楽しく行こう。僕達はもう、何からも自由なんだからね。


「うんうん。何かテンション上がってきたよ。今日は良い夢が見られそうだ」


 君はそう言って目を閉じた。君が嬉しいと、僕も嬉しい。

 楽しく行こう。確かに、それが一番だ。

 この世界の真相なんて分からない。分からないなら考えても仕方ない。

 この静かで美しい世界に、何よりも大切な君がいる。ただそれだけの事。

 ただ、それだけの事が、何よりも大事なんだ。


 見上げた空には、少しだけ欠けた月が浮かんでいて、やっぱりあれは穴なんかじゃないんだと納得して、それが何だか可笑しくて声を押し殺して小さく笑った。


 その月の光の中に、何か黒い影のようなものが横切ったように見えたけれど、僕はそれを目の錯覚のせいにして、瞼を閉じた。何日もこうして君と二人だけで歩いてきた僕には分かる。この世界には、もう僕たちしかいないんだ。

 だから、天使のような翼を広げて遥かな夜空を飛ぶ存在なんて、いるはずがないんだ。

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