第4話【満月の瞳】


 夜になり、草原のベッドに寝転んだ。

 夜空には大きな満月が静かに浮かんでいる。月の明るさが強いせいか、他の星々の瞬きがあまり見えない。


「満月ってさ……」


 君が小さな声で呟いた。


「穴、みたいだと思わない?」


 え……、どういう事?


「真っ黒の天井にぽっかりと真ん丸の穴が開いててさ、そこから向こうの世界の光が漏れてるんだよ」


 そう言われて見てみると、確かにそんな風に見えなくもない。無限の空間だと思っていた漆黒の空がただの黒い画用紙で、そこにパンチのようなもので開けられた穴……。


 ふうむ、面白い事言うね。


「でさ、その穴から、向こうの人が私達の世界を覗くんだよ」


 あはは、向こうの人って何だよ。


「そりゃあ……神様、とかかな。人間はどうしてるかなーって。ホラ、ゲームでもそんな感じのやつあるじゃん?」


 ああ、あったね。街を作って繁栄させていくやつだね。


「そうそう。こつこつ頑張って大都市にしても、災害とか暴動とか起こって台無しになっちゃうんだよねぇ」


 言ってて楽しくなってきたのか、君の声からは明るさを感じた。今日僕が手を繋ぐのを断った事を気にしていないようで、少しほっとする。


「……この世界もさ、そんなものなのかなぁとか、たまに思うんだ」


 そんなもの……って?


「神様が遊んでるゲームで、その中で私達は繁栄とか衰退を繰り返しながら、命の誕生に感激したり、大切な人を喪って絶望したりするんだけど、神様にとってはひとりひとりの生死なんてどうでもよくって、ただ全体を俯瞰してるだけ……。楽しくなくなったり、飽きちゃったら、簡単に壊しちゃうような……」


 君の言いたい事が良く分からなくて、僕はただ月を見上げて静かに聞いていた。


「……なんてね。そんなことあるわけないよね。月だってただの丸い球だし……。寝よ寝よ」


 そう言って君は寝返りを打ち、僕の方に顔を向けて目を閉じた。静かな月光に照らされた美しい寝顔に胸が締め付けられるのを感じながら、僕もゆっくりと瞼を閉じる。


 満月の穴から巨大な目がこちらを覗いている。僕はそれに気付きながらも、少しでも動けば僕らの存在がそいつに気取られると思い、緊張に体を硬直させて寝たフリを続けていた。なのに君がのんきに寝返りを打つから、目がそれを見つけて、穴から白く輝く腕を伸ばして君を掴み、連れて行ってしまう。

 そんな夢を見た。

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