第3話【繋げない手】
二人で、錆び付いた鉄道のレールの上を歩いた。
君はいつも、僕の前を歩いた。僕がしっかりしないといけないのに、君はいつも、優柔不断な僕を優しく楽しい方向へ引っ張ってくれた。
「今日もいい天気だねぇ。何か素敵な場所を見つけられそうな気がしてくるよ」
そうだね。今のこの景色も、とても素敵に見えるよ。
「お、いいこと言うねぇ。確かにそうだね。毎日絶景の中を歩いてるんだね私達!」
果てしなく澄んだ水色の空。そこに浮かぶ優しい白い雲。それらを反射する大地の水鏡。空の中に浮かんでいるようなレールと、その上を両手を広げて歩く、天使のような君。
蔦類の植物に抱かれて静かに眠るビルの残骸。緑の小丘と瑞々しい葉をつけた大樹。
この世界は、どこまでも孤独で、涙が出るほど美しい。
「ねえねえ」
君はふと足を止めて、半分だけ振り向いた。君の美しい横顔の、少し紅潮した頬は、春の桜のようにも、秋の紅葉のようにも見える。
ん、どうしたの?
「手でも、繋いでみませんかね」
君は少し首を傾げ、照れたような微笑みを浮かべながら言った。
その提案に、僕はドキリとヒヤリの両方の感情を同時にこの胸に感じた。君に伝えていない僕の秘密を、試されているかのようにさえ思った。
嬉しい。手を繋いで歩きたい。でも僕の手は、きっと君の手を握れない。
でも、ほら、ここ線路の上だしさ、バランス崩しちゃうし、危ないよ。
なるべく君の機嫌を損ねないように言い繕ったら、君は不満そうに頬を膨らませて言った。
「えー、じゃあ降りて歩こうよ」
いや……それだと足が濡れちゃうだろ。濡れた靴下と靴で長距離歩く事の不快さは言葉に言い表せないものがあるよ。
「分かったよー」
君はそう言って僕に背を向け、歩き出した。ごめん。ごめん。こういう時、なんて言うのが正解なんだろうか。どうして僕はこう気の効いた言葉が出てこないんだろう。
何も言わない彼女の後に続いて、僕も歩き出す。少しだけ開いた距離が、たまらなく心を不安にさせる。
こんな事が、前にもあったような気がする。それは無くした記憶の片鱗なのか、この世界になってからの出来事なのか、分からないけれど。
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