第2話【静かな夜】
夜になると、適当な寝ぐらを探して眠った。ビルなどの建物は倒壊が怖いので避けて、大きな木の下や、柔らかそうな草の上に二人で寝転んだ。いつも体が触れ合わない微妙な距離を置いたけど、君は不満や疑問は口にしなかった。
人工の光を失ったこの世界は、夜空がとても綺麗だった。沢山の星々が瞬いていた。なかなか眠れない時なんかは、君の静かな寝息を聞きながら、僕はいつもぼんやりと星を眺めていた。ゆっくりと流れる夜空を見ながら、僕と君がいるこの星の回転を感じていた。
「静かだね……」
囁くような声で、君が呟いた。
起きてたの?
「うん……。こんなに、木とか草花とかはあるのに、虫が……鳴かないよね」
この世界への感想を、君が初めて口にした。僕たちは今まで、この異様な状況についての言及を極力してこなかった。口にすることで、そこから不安や孤独が溢れ出して、曖昧な僕たちの立場にヒビが入ってしまいそうな、そんな気がしていた。きっと君も、同じように考えていただろう。でも今、君は言葉にしてしまった。
風が草原の草を揺らし、僕の頬を撫でた。
確かにこの世界には、僕たちと植物以外に、生命と呼べるようなものが存在しない。人工の建造物などは全て崩れ、地表は綺麗な水で覆われている。きっともう、清水寺も残ってはいないだろう。
この世界で何が起きたのか、僕たちは、何も知らない。
何も知らないようでいて、それでも漠然とした想像はついていた。
それらのことは、お互い口にしなくても、心の底で分かっていたはずだった。
僕が何も答えられないでいると、君は寝返りをうって僕に背を向け、静かに言う。
「ううん、何でもない。きっと、そういう季節なんだね」
虫が一匹もいない季節なんてあるだろうか。いや、そういう事ではない。暗い夜が開いた綻びから、君が心に秘めた不安と孤独が零れ出した。そしてそれを、君はごまかした。同じ不安を、僕に背負わせないために。
君を守りたい。その心に溢れる全ての不安を断ち切りたい。ただ幸福だけでいて欲しい。
大丈夫、僕がいるよ。ずっといるよ。
「うん……」
君は背中を向けたまま、夜空に消え入るような声で答えた。
君の言葉を飲み込んだ夜空を見上げ、僕は心に固く誓った。ずっといるよ。君が望む限り。絶対に君を一人にはしない。
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