第7話
先日の飲み会は散々な目にあった。支払いはまああののん兵衛姫のツケということでなったが、女のマーライオン姿はやはり異世界の朝にはふさわしくなかった。地獄絵図である。だが、こののん兵衛姫にはまた再開する。
うちの路線にはダンジョン内循環線という路線がある。これはギルド会館前を出発して、教会学校前を経由して町のはずれ、城壁の外にあるダンジョン内を一周してまたギルド会館前に戻る路線だ。ダンジョンというのはWikipedia的な説明をしてしまうと、発生の根源なるものは不明だが迷路状の魔物が多く住んでいるような魔素が濃い地下空間または洞窟空間のことらしい。よくわからんがそういうものらしく、路線としてはとにかくダンジョン内の安全地帯と呼ばれるところを順番に回るのだ。ダンジョン内の通路は広く余裕で大型バスがすれ違うことができる。通路内にも魔物は出るらしいが、バスのエンジン音やヘッドライトに驚いてまず襲われることはないらしい・・・。
「なんかあったらバックで逃げればいいし、最悪引いて構わないから。今日も安全第一にいってらっしゃい!」
出発前の運行管理の助役からはそういわれた。簡単にいうなと思った。バックなんてゆっくりでしかできないのにひどい話だ。
しかし仕事。安全第一で運転するとしよう。
「8時発ダンジョン内循環 、発車しまーす。」
外付けスピーカーでそうアナウンスすると
「待ってくださいーい!!」
そういう叫び声が聞こえサイドミラーで確認すると一人の冒険者がこちらに走ってくる。バスは公共の乗り物。定時運行が義務だがまあこれくらいなら待ってあげても問題ない。そう思っては俺はいた。
「ふー間に合った。」
異世界専用ICカードを入口のリーダーにタッチして近くの席に彼女は座った。そして驚いた。ルームミラーで着席確認しようとしたらなんとあののん兵衛姫ではないか!くそ!普通に発車すればよかった。あの地獄を思い出してしまった。・・・まあいい。
「発車しまーす。ご注意ください。」
ドアを閉めそう車内アナウンスをし俺はバスを発車させた。
[次は第9層安全地帯。第9層安全地帯でございます。お降りのお客様はブザーでお知らせください。]
この路線で一番深い停留所に近づく。ここまでくれば折り返しである。幸いにも魔物との遭遇というのはなかった。
<<ピンポーン>>[次止まります。バスが停車するまで座ったままお待ちください。]
押したのはあののん兵衛姫である。すでに乗客はあの姫様だけだった。乗ってからずっと寝ていてアナウンスで起きたようだ。
「第9層安全地帯です。お忘れ物ないようにお気を付けください。」
バスを停留所に寄せ前扉を開けてアナウンスする。
「あ!!あたしに勝った日本人!」
降りるときにやっと気づいた。俺は出発する時から気づいていたのに。
「あ、あのゲロ女か。」
マーライオンと言っても通じないだろうから俺はこうつい言ってしまったら、彼女は顔を真っ赤にして
「言わないで!もう少しデリカシーないの!?日本人は?」
「いや、突然酒場で飲み比べの対決を振ってきたやつに言われたくない。」
「う・・・それはちょっとお財布が・・・あれだったし・・・それに日本人って酒に弱いって聞いてたから・・・」
なんという女だ。俺が仕事中じゃなければ殴りかかっていたかもしれん。
「今晩!ここで狩りをしてお金稼いでくるからそれでワビに飯おごるから!じゃ!」
彼女はそう言ってIC運賃で支払うとそそくさと行ってしまった。ツケのことを言う前にいかれてしまった。
まあ、また夕方とか最終便も俺が担当するからその時になったら話しかけよう。
いや待て待て。俺の記憶が正しければあいつはお姫様なはず。なんでそんな酒飲んで、そして冒険者なんて危険そうなことやっているのだろう。ちょっと気になるな・・・
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