第6話
川のほとりでシンガポールのマーライオンのごとく盛大に川へ胃の中身をリリースしている女性を、俺は介抱している。時刻としては朝の6時だろうか。日が昇って当たりのあかるい。まったくもって楽しくない。正直周りに人がいないのが不幸中の幸いだ。しかし大学生(ウェイウェイしている方)みたいになんで吐くまで飲んだんだ?と皆さんは思うだろう。いやこれは深いわけがあるのだよ。話は昨晩まで戻る。
「飲み会ですか?」
「そうそう。今晩どう?明日オフでしょ?」
乗務を終え営業所に戻ると先輩運転士の大沢さんに誘われた。まあ正直仕事の性質上、あんまり飲めないしな。
「それにさ。他にもこっちで仕事に来ている日本人って結構たくさんいるのよ。まあ交流会みたいなものでさ。」
なるほど。まあたしかに街中でも結構日本人みるし、異業種ってなかなか接点ないしな。せっかくだからいこうかなと思い、来ました。営業所の近くにある大衆食堂「銀翼亭」。こっちには居酒屋というのはなく、食堂とかで食べながら飲むというのが一般的らしい。
大沢さんに連れられて行くと店内は多くの人でにぎわっていた。入ると
「おおさわさーん!こっち!」
10人くらいの日本人グループが立ち席ですでに飲んでた。
「もう始めちゃったよ。あれ?その人は?」
頭皮が少し環境破壊が進んでしまっている男が言った。
「ああ。彼は木村君だよ。先月くらいからこっちで働いているさ。木村君。こちら藤木さん。」
「初めまして。木村達也と申します。」
俺はあいさつする。
「ああ木村さんね。前に大沢さんが言っていたニューフェイスか。僕は藤木 浩之。大正建設ってところで技師をしていてね。こっちには建設指導で来てるよ。」
はー。あの大手ゼネコンか。すげーな。さっきは環境破壊とか思ってすみませんでした。
「私は今泉 陽と申します。JTTで電話線工事の関係で赴任しています。」
と今度は細身の眼鏡かけたひと。はー。なんか大変そうだなー。
と今回来ていたのは正直皆が知っているような大手企業の人々ばかりだ。正直ウチのアルファバスとかかすんでしまう気がする。話していると皆さん技術指導とか政府からの依頼で来ているとかそんな感じだった。スケールの違いを感じていると。
「いや。木村さんたちのバスが走っているから安心して仕事できるんだよ。」
と藤木さんがいった。
「え?」
と声が出てしまった。
「異世界でも外国でも異国の地にいるとね。ふと日本らしいものを見ると少し安心するんだ。昔アメリカの空港工事で行った際、ふと日航機が見えてね。鶴丸が見えたときなんかね。こう言葉では言えないなにかがこみあげるんだ。繋がりを感じられるんだ。こっちだとさ。街中で見かける日本っぽいものってお宅のバスでさ。ほか、お宅のバスって必ず日本語でも行き先案内出しているし、日の丸付けているでしょ?」
いわれてみればうちのバスのスーパーサイン(行き先を表示するアレ)は日本語とこっちの言葉同時に表示している。そして日本と王国の友好を表し両国の旗を車内に「この車は日本とエステニーヨ王国の支援で運行しております」というポスターと共に張っている。
そうか。実はみんなそう思っていたのか。なんか少しうれしく思った。
「しかし、木村さんって結構飲まれますねー」
「いえいえ。そんなでもないですよー。」
ふとそんな感じの会話をいていると
「なにあんた酒つよいの?なら勝負してよ。」
隣のテーブルで背中に大きな剣を背負っている女性が声をかけてきた。女性というよりはおそらく少女というのが正解だろう。でも持ち物からして冒険者という職業の方だろう。危ない仕事をしているなあと思った。
「先にダウンしたほうが負けの飲み比べ対決。負けたほうがさおごるってのでどうよ?」
「いやいや流石に女性とは・・・」
なんかめんどくさそうだからやんわりと断るが
「おお!Aランク冒険者マリアと戦うのか?」「にーちゃん!いいぞ!!どれだけ耐えられるかやってみろよ!!」「俺マリアに100ゴールド掛ける!」
と周りのヤジに少し酔っていた俺は今から考えると愚かであったが勝負に乗ってしまった。
そして数時間後。結論としては俺は勝った。がマリアはダウン。そして最初の場面というわけだ。
「もうこんな勝負しちゃだめですよ。年頃の娘がこんなべろべろになったらご家族だって心配するでしょ?」
と俺はマリアに言う。するとマリアはすっと立ち上がって
「べつにーおとーさんひきこもってるからーいいんだもーん!」
と俺に向かって叫び俺の廻をフラフラしながら回遊し始めた。
「おとーさん。しごとをないむだいじんにおしつけてーひきこもってるもーん。」
ん?今ものすごく変なことをいわなかったか?内務大臣に仕事を押し付ける??
「え?ねえマリアのお父さんの仕事って・・・」
「ん?おーさまだよー」
・・・・・・はっ??
俺が思考停止していると食堂の裏庭へ行ってしまった。追いかけようとすると一台の馬車が入っていった。
「お嬢様!うわ!酒くさ!またこんなに飲んで!今日という日はお母様にお叱りを受けてください!」
女性のそういう声が聞こえたかと思うと馬車は走り去ってしまった。俺はビビッてマリアが馬車に載せられるのを木箱の陰に隠れながら見ていた。わお。俺に飲み比べ対決を挑んできたのはお姫様ってわけ?俺やっぱ酔っているな。うん。酔っている。夢を見たんだ。一国のお姫様があんなわけがない。うんうん。帰って寝よう。うん。
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