⑦『きっとまだ終わらない夏』
「最後のミッションは、お化け屋敷ってわけね」
「……もしかして浮かれてる? 」
「まあね。ずいぶん久々だもの。こうした『楽しいこと』って」
エリカは視線を遠くにやって、ふふふと笑った。遠い昔を思い出しているのだろう。
少女のように顔を輝かせている彼女の瞳が、自分を映して目を細める。
「ねえヒース、あなたも楽しんでる? 」
「うん……楽しいよ! さ、行こ! ミシェルさんが呼んでる! 」
ヒースは
(ああ、ちょっと泣きそう。だめだめ。そんなこと思ったら――――)
――――ずっとこうしていられたら、なんて。
✡
「キキナワ最大のホラーアトラクション、
音を立てて扉が閉まる。
真っ暗闇の廊下が、ぽっかりと目の前に口を開けていた。
遠くで雷鳴と、窓ガラスに打ち付ける雨音が聴こえる。
『やれ、両手に華どころではないな。他の男衆に嫉妬されそうだが、えすこーとを任されよう』
鎧武者の式神がそう言って先陣を斬って歩き出したので、固くなっていたミシェルまで顔を見合わせて笑い合った。
懐中電灯を手に、ビーチサンダルのまま暗い洋館の中を歩くと、ぺたぺたという自分たちの足音というミスマッチ感がふとしたときに一行を現実へと引き戻した。
しかし重なるガチャガチャ鳴りながら洋館を闊歩する鎧には、別の意味で非日常を感じさせてくれる作用がある。そんな異文化丸出しの甲冑がフレンドリーに会話を交わしてくるので、女性陣の口の端は最初から少し上がっていた。
和やかな雰囲気でスタートしたこのチームは、式神が言ったように、黒一点の式神を加えたミシェル、ヒース、エリカというメンバーだ。
体育会系のミシェルとヒースは海遊びで親睦を深めているし、式神は女性に対して非常に紳士であり、エリカは見守りの体勢に入っている。
つまり全員が、入る前と同じ冷静さを保っていた。
お化け屋敷でキャーキャー騒ぎたいならハズレかもしれないが、今回のイベントの特性上、そう悪くないメンバーではないだろうか。なんなら全員、少し仕事モードも入っている。
『情緒がなくてすまんな。静かに歩こう』
「ふふっ、いえ、 お気になさらずそのままで! 」
『ではお言葉に甘えよう』
「なにが出てくるのかな? 先生はどう思う? 」
「マンションなのだったら、他に人がいるんじゃないかしら」
「建物自体はけっこう大きかったですよね。こういうのって、探索ルートは一本道ってイメージですけれど。……ほら、やっぱり」
廊下がとつぜん狭くなったと思ったら、そこには階下へ続く階段が、ぽっかりと穴を開いている。
煤けた鉄扉は開け放たれ、まるで『次はここですよ』というようだった。
『窓が無いと思ったら、地下か。一人ずつしか通れんな』
「3ルートそれぞれが別の場所へ続いているのかしらね」
「それで僕らは地下ってわけだ。なるほどね」
「シキガミさん、足元に気を付けてくださいね」
やはり式神が先頭になり、ヒース、ミシェル、エリカと、足元に気を付けながら階段を降りていく。
なかば予想していた通り、エリカの背後で鉄扉が閉じた。がちゃがちゃと閂をはめる音もする。エリカがおざなりに手のひらで押してみるが、やはり開かなかった。
「閉じ込められたわね」
「いよいよ本番って感じがしますね」
ミシェルが暗闇で、ぎゅっとこぶしを握ったのがわかった。
「ミシェルさん、怖かったら手でも繋ぐ? 」
「いえ! いざというときに立ち回れなくなるので! 」
ミシェルは、爛々と目を輝かせてニッコリした。
「……『怖いよう、ふええ』じゃなくて、ファイター的な意味だったか」
「頼もしいわね」
『一度止まれ……階段が終わるぞ』
式神ひとりでいっぱいになるほど、ささやかな踊り場。こんどの鉄扉は閉まっている。
手甲と籠手が鳴る。軋みながら鉄扉が開かれた。
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