③『太陽が昨日より眩しくて』

「キキナワで行う事。


 一つ、女人は水着に着替えるべし。

 一つ、配布したタダ券は使い切るべし。

 一つ、仲良く楽しく夏を過ごすべし。

 一つ、目標達成まで島を出るべからず」


 全員が揃ったのでフロントでチェックインを済ませると、真新しいパンフレットとともに、数枚のチケットが手渡された。


「南国の島ですね! 早く海に行きましょう、海!」

『背の君よ、キキナワバーガーが先だ!』

「神様の試練ってヤツはさっさと終わらせちまおうぜ!」

「ヒヒヒッ」

「水着ね……。まあ、仕方ないわね」

「燈、早く水着の試着しましょう」

「…………帰りたい」

「……嫁、いえ姫が尊い」

「龍神、本音が駄々洩れすぎるぞ」

「これをクリアすれば良いって訳か。まあ、なんとかなるかな」


 めいめいがパンフレットを囲んで言葉を交わし始めた。

「ひとまず、男性陣は任意だとして女性陣は全員水着の試着をしてから、何人かに分かれてタダ券を使い切った方が効率的ですよね」

 燈が言う。

「そうだな。あまりチームを別け過ぎると何かあった時に対処も出来ないだろうから、三チームぐらいに分けるのが得策だろうな」

 ジョンが頷いた。


 話し合いの結果、海水浴を楽しみながら、チケット消費に務めるのは、燈、杏花、ミシェルの三人となった。

 これには『海水浴組』という呼称が自然とついた。


 浜辺で食事を用意するのは、エリカ、サリヴァン、ジニー、テックス、式神の五人。

 調理器具や食材もチケットの内容に含まれているので、その消費を担う。

『バーベキュー組』である。またの名を、『保護者組』ともいう。


 残りはチケットに含まれないものを調達する『買い出し組』。

 ジョン、アネット、龍神、ジジ――。


 誰かが言った。

「……人間が一人しかいなくないか? 」




 女は壁に背を預け、パンフレットを広げた。

「ようするに、これが神々の定めたこの”キキナワ”でのルール、ということね。思惑があるのか、それとも面白がっているだけなのか……いやらしい条件だわ」

 エリカは顎をなぞった。

「前回通りなら、後者の向きが強い思うが……」

 近くにいたジョンは、渋い顔で広げたパンフレットを眺めながら言った。アネットが肩ごしにそれを覗き込むようにしている。


「女だけに水着を指定する。……見たところ、今回の女性陣は全員がそれなりの対処が出来そうだけれど。神々の気まぐれがどう運ぶかしら。前回参加者としてご意見は? Mr.ジョンとMs.アネット」

 エリカは横目に見上げる。黄金を帯びたシャンデリアの下では、ジョンの瞳は灰色を帯び、アネットの瞳はより深い金だ。見つめるエリカの紺の瞳は、黒に近くなった。


『神の考えることなどわからん。情報不足にも程があるだろう。吾はとりあえず、目を付けた店に行ってみたいと思う。つまり、とりあえずバーガーだ』

「不本意だが同意だ。……バーガーじゃないぞ。前回参加者としては……なんというか、『また突拍子もないことが起こるんだろうな』とだな。とりあえず心の準備はしておくつもりではいる」

「そう……。ではあなたは? Mr.龍神」


 龍神は、喧騒を避けるように腕を組んで美術品のようにたたずんでいた。深紅に沈む瞳の先には、妻となる人だという少女がいる。


「私は……」

 薄い唇がごくわずかに開き、吐息とともに言葉が紡がれた。



「正気を……保てるのだろうか……」


「「「……………」」」


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