第2話 あの日以来

 HRも終わり続々と教室を出るクラスメイトに続いて、一拍置くようにして勝と俺は同じく廊下に出る。せっかくの午前終わりだし午後を満喫しようい。と勝が言う。そして続ける。

「今日は隣の駅までいこうぜ!」

「わざわざ定期外に出る必要あんのか?」

「いやーここの最寄りより発展してるっぽいよ?お店も多いみたいだし。」

「ああ、ラーメン屋ね。」

「いやラーメンもそうだけど主にあれだよ!あれ!三年間お世話になる土地のことは周辺もしっかり知っておかないとだし!!!」

いや、主にラーメンだろそれ。思わずツッコむ。

「まあいいよ行くか。明日からは通常日程だしな。」

そうこなくっちゃ!と勝は分かりやすくガッツポーズをした。

帰る方向とは逆だけど一つ隣の駅まで行って、散策するのもありか。なんて考えながら階段を下る。途中で勝は、入部届出してくるからちょっと行ってくるわ!校門で待ってて~と言い俺の返事は待たずに駆け降りて行ってしまった。結局、職員室の前は通るのになと思いながら、確実に一段ずつ階段を踏み、一階を目指す。

 

 俺の通うこの高校は、地元から少し離れている。自宅の最寄り駅から乗り換え駅まで確か20駅くらい、もっとあったかも。急行で約35分。そこからさらに乗り換えて3駅、約10分。駅から学校までが徒歩7分くらいだから大体55分。途中コンビニも寄るしな。まあ一時間はかからない、ギリギリ。なので、同じ中学から進学してきた奴はそうそういない。ほとんどが地元周辺の高校を受験し、そのまま進学した。特別この高校に、どうしても通いたかったとういわけではない。とにかく地元からは離れたかった。中学時代を知る人がいない所へ。だから県内では少し学力の高めなここを選んだ。中学二年の春から、あの告白を断った日から俺は確実に孤立していた。勝やバスケ部の仲間は気にすんなとか言ってくれたけど。しかし今となってはそのお陰で勉強に集中できたというのもある。余計なことを考えなくて済んだ。気を使わなくて済んだ。お陰様で。

勝がなぜここを受けたのかは、そういえば聞いていなかったな。俺が受験するのは知っていただろうけど。でもそう考えると同じ中学から4人同じ学年に居ると考えると多いか。さっきの距離的、時間的な話を含めると。俺と勝とあとの二人は・・・いや考えないようにしよう。なんせその二人は女子だ。しかも俺もよく知っている。もちろん相手の方も。何故よりにもよってあの二人なんだ。


 教室から一番近い階段で一階まで下りた。教室のある三階から降りてくるのは疲れないと言えば嘘になる。この学校は学年ごとに棟が分かれている。一年生は昇降口か最奥の棟で、各階四教室ずつあり。一年生の教室が入るC棟は特別教室も入っているため、二階はAB組、三階はCDE組となっている。その他はすべて特別教室だ。隣接するB棟を突っ切り、廊下に出る。中庭を横目にA棟を目指す。昇降口は三年生の教室や職員室などが入るA棟にある。正直遠い。廊下を抜けるとA棟に入る。一階部分の大半は食堂で、広めの廊下を挟んだ反対側には職員室がある。食堂では購買に並ぶ生徒。テラスに出て弁当を広げている者もいる。まあまあ混みあっている。昼は、勝とラーメンだったな。視線を戻し昇降口へ向かう。

校門に勝は居なかった。どうせ顧問とバスケ漫談に浸っているのだろう。近くのベンチに座り本を開いた。風が心地よい。ほとんどのピンク色が散ってしまった桜の木には新しい緑が芽生え始めてきていた。一旦伸びをしてから文章に目を落とす。ページをめくる。すると突然名前を呼ばれた。勝ではない。女子の声だ。それも聞き覚えのある、幼稚園に入る前から知っている幼馴染、水瀬 凛(ミナセ リン)だ。

「唯斗おはよ」

本から目線を上げる。

「おお、凛か。」

もう一人いた。後ろに。

「やあ、斉藤くん・・・」

聞こえるか聞こえないか、そんな声でその子は言った。

「井桁・・・やあ」

井桁南がいた。この高校にいることは知っていた。そう、同じ中学からこの高校に進学した俺を含めた四人。親友の勝、幼馴染の凛。そして二年前に振った井桁南。気まずい。相当気まずいぞこれ。

早々にこの重い空気を悟った凛が言う。

「じゃあね・・・!また明日」

「ああ・・・」

軽く手を振る凛。井桁は終始悲しそうな顔をしていた。無理もない。そういう表情にもなる。理由は知っている。きっと俺も同じような表情になっていたはず。最悪だ。

記憶が蘇る。本の内容はもう入ってこない。周りの音もなにもかも。教室でたった一人で居る自分が見える。誰もいな教室。遠のいていく廊下を走る足音。聞こえてくる悪口。女子からの冷きった攻撃的な視線。一つの恋をきっかけに色々な歯車が狂った。俺の答えがそうさせた。井桁は決して悪くない。一ミリも。それでも、俺がこう思っていても結局、彼女を傷つけてしまたのだ。

・・・これだから恋愛は、嫌なんだ。

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