Act.10 脱出

『んあ......』


 どれくらい眠っていただろうか。あいにくここじゃ時間の感覚なんてあってないようなものだし、そもそも太陽が出ていないのだから当然か。


 まあ起き上がれるぐらいまでには回復したようだ。目の前には半身のない悪魔、そしてその横には彼が使っていた剣と魔石が転がっていた。


 念動で浮き上がり、魔結晶に近寄る。彼のものは直径五センチ、長さが九センチほどの深く透き通った赤寄りの橙色をしていた。


 魔結晶はその持ち主の強さに応じて多様に変化し、大きく、そして透き通っているほどその価値が上昇する。


 これも今まで色々な魔獣や怪物を狩ってきたからこそ分かるのだ。


『金魔術、第一章六頁 金属操作』


 自身を先のとがったナイフに変化させ、上からの力で割ろうとする。


『いや硬すぎるだろ......』


 全然歯が立たなかったのだ。ならば物理で吸収してやろう。


 歯の切っ先を円錐状に変化させ、念道で天井ギリギリまで上昇。重量はないが切っ先の鋭さと落下速度で何とかするしかないだろう。


カイーン


 いってぇ。彼の強さが魔石にまで影響しているのではないかとも思える程の硬さだった。数回ほど同じ行為をしてようやく魔結晶を吸収することに成功した。


『うぉお......』


 それは明らかに今まで吸収して来たものとは違っていた。吸収すると同時に万能感が脳内に溢れ、ドーパミンがドバドバ出ているような幸福感だった。これだけのものだ。どれだけ魔結晶値が入っているかなんて想像もつかない。


『鑑定』


名称:未登録 装備者:未登録 装具ランク:Ⅴ

種族:エンシェント・ア―ティック

攻撃力:0 魔力値:5000/5000 耐久値:1500/1500

魔結晶値:4170/5050 スキル促進値:105

付与効果

魔力効率化Ⅹ 装備者全ステータス上昇中 装備者自動回復小

付与スキル

業焔魔術:Lv.10 

自己スキル

鑑定:Lv.8 晴嵐魔術:Lv.10 召喚魔法:Lv.10 地凱魔法:Lv.7 蒼犀魔術:Lv.7 金魔術:Lv.10 木蘭魔法:Lv.6 時空魔術:Lv.1 暁闇魔術:Lv.1

自己ユニークスキル

地図師 影渡り

… 


 うおっ......レベルやランクは上がらなかったが、魔結晶値の伸びが凄い。前の鹿の分も合わせて、800近く上がっている。それに暁闇魔術、空間魔術も新しく加わっている。


空間魔術...時空間を操作する魔術。


暁闇魔術...闇の術を操り敵を攻撃する。


 相変わらずのクオリティ。まぁ空間魔術が少し違っただけでも良しとしようか。


 どれどれ......


『空間魔術、第一章一頁 空間遅延』


 うん。何も動くものが無いここじゃ実感しづらいな。試しにそこら辺に転がっている拳大の石を放り投げてみる。すると対象の時間が遅くなっているのか俺の周りの時間が遅くなっているのか、石が落ちる速度が気持ち遅くなっているように見えた。


 これ使いようによっては中々化けるんじゃないだろうか。暁闇魔術は――まあいいか。


 さて。ようやくお目当ての十二層だ。やっとここから出られる......と思いたい。


 どうやら最初に見たあのデカい宝石は上に行くための装置だったらしく、いろいろやっているうちに勝手に反応してくれた。突然光ったかと思うと、宝石の真ん中が割けて開いたのだ。何かに誘われるように前に進む。


 すると、今まで何もなかった虚空に、突如白い階段が現れどんどん上に続いていった。


 念動を使い上に進む。


 綺麗な世界だった。空は青く澄み渡り、地平線まではっきり見える。眼下には白く染まった木々が乱立しており、自然の雄大さを肌で感じ取れと言わんばかりだった。


 悪魔も言っていた通り、このダンジョンは空中に浮いていた。こんな超質量のデカブツが浮いてる時点でこの世界の異常さがよくわかってしまう。


 ......着いたな。


 ここは悪魔のところの石の扉を精巧さ、大きさ共に一.五倍にしたような佇まいだった。最後の戦い。ここでくたばったら今までの努力も水の泡だ。絶対に、勝つ。


 扉の前に歩み出る。ここでも扉が自動で反応し、拍子抜けの音を立てながら開いていく。


 だが十分後、俺はあんなに身構えていたことが馬鹿馬鹿しくなってきていた。


 あの後今までのボス部屋と一緒で松明が燈るところまでは行ったのだが、どれだけ待っても肝心のラスボスが出てこなかったのだ。


 おかしいと思って外に出ようとするも、入口は例のごとく閉まっている。


 さてどうしたものかと部屋の中をうろついていると、中央に何かを嵌める型を発見した。こいつがどうやら悪魔の耳輪ピアスとぴったり嵌りそうだったので試しに嵌めてみると、いきなり視界がホワイトアウトしたと思った次の瞬間には見覚えのない別の部屋に居たのだ。


 それが、今のこの状況。最後の戦いだ(キリッ)とか言ってたのがなんだかアホらしく思えてくる。部屋は白を基調とした造りになっており、物も綺麗に整理整頓されている。


 ......それで俺の前にあるこの椅子に座った、というよりかは浮いているこのローブ。どう考えたって怪しい。安定の鑑定。


名称:血化粧の星外套 装具ランク:Ⅹ

耐久値:2460/2460 蓄積可能魔力 0/10000 魔力強化上限:Ⅹ

付与効果

装備者敏捷上昇大 装備者魔力上昇大 装備者筋力上昇中 共調 神羽の加護 不可視化 自動修復 自動伸縮


 ......はっ?え、ちょ?......オーケー落ち着こう。いつでも冷静にステイ・クールにだ。


『はぁあぁぁぁああ!?』


 うん、無理。なんだよこのチートアイテムは......


 ローブの右に凝った装飾が施してある金属の義手があるが......こいつも大概なんだろう。


 椅子の前には二メートルはあろうかという巨大な水晶玉が台座の上でくるくると浮きながら回っている。部屋は狭くもなければ広くもないといった感じだ。確かに広いといえばそうなのだが、どちらかというと天井がそのイメージを与えているようにも思える。


 ふと椅子の後ろに佇む木のテーブルに目が行く。というよりもその上にある本に目が行った、と言ったほうが正しいか。ふわふわと近づき、ぺらりと本を開いてみる。


『やあ!よくぞこの辺境の地の中の辺境の地にやってきたな!』


 そんな文から始まる本だった。続きを目で追っていく。


『そして君、もしくは君たちはこの辺境の地にやってくる暇人でありながらわたしの可愛い部下たちをすべて屠ってくる強者でもある!』


 無駄にテンションが高い。書いた奴は頭のネジが一本飛んでいるに違いない。


『だが残念ながらこの本が読まれている頃にはわたしはもうここには存在していないだろう!それでだ!ここまでやってくる君たちの無駄な時間と無駄な努力を讃え、ここと倉庫にあるものは全て好きにしていい!なに、取り扱いにさえ注意すれば危ないものなど一つも入ってはいないから安心してくれ!それでは!君たちの旅路に幸あらんことを!』


 最後に、この本の著者であろう人物の署名サインが書かれてあった。


「ローズフェルト・D・グライヒグートル、親愛なる地の落とし子」


 あるもの全て好きにしていい......か。頭のネジは外れているに違いないが、太っ腹なことこの上ないな。どうにもここには倉庫があるらしく探してみたら思いのほかすぐ見つかった。


 中に入ると、それこそファンタジーで見るような金銀財宝の山だった。中にはあのローブと比肩するほどの性能を持つ武器や装飾品もあった。


 そしてその中から見つけたのがこの「底なし鞄マリサンフンド」。鑑定してみてわかったのだが、いわゆる四次元ポケットみたいなことができるらしい。つまりこれに全部入れて持って行けってことなのか。親切に鞄自ら俺にあったサイズに変化してくれたので、金魔術で鞄が埋まれるだけのスペースを用意する。


 正直どれだけ入るのか予想がつかないので、とりあえず目についた面白そうなやつをぽんぽん放り込んでいってみる。


 結局色々突っ込んだ結果、どうやら本当に底がなさそうだったので、キリのいいところでやめておいた。というかあれだけ放り込んでも未だに全体の一割も入れた気がしない。というか実際一割も行ってないだろう。ここのマスターがどれだけ強かったのかがよくわかる時間だった。


『さて......ようやくここともおさらばか』


 あの後ちゃんとここから出る方法も判明し、今は最下層に向かっているところだった。


 思えば転生してから戦ってしかいなかった気がする。だが、向こう・・・に比べたら遥かにいい経験ができたとも言える。


 いろいろあったこのダンジョンだが、今となってはもう第二の故郷なのだ。眼下に広がる無数の白い木々。それはここでの戦いの終わりを告げる一つの象徴だった。


『お世話になりました......あばよ、クソッたれ』


 最下層に位置する大きく口を開けた入口――もしくは出口に我が身を投じる。だが俺はこの瞬間、ここのマスターの評価を180度反転させねばならないようだった。


 侵入、または脱出時の魔力全消去――魔術が命綱の俺にとっては、これ以上ないほど嬉しいお見送りだった。

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