Act.06 再戦

 俺は今あの忌まわしい石の扉の前に立っている。そう。あのライオンが棲んでいるあそこだ。


 なんでここに来ているか。それはあのライオンの偵察のためだ。下に出口はない。ならば上に行くしかもうここから出ることは叶わないだろう。


 となると確実にあのライオンとはもう一回戦わないといけない。なら前のようなことにならないためには絶対的に情報が必要になってくる。


 というわけで今回は堂々と分厚い石の扉を通っていくのではなく、横から穴を掘って天井近くで観察してみることにする。


 ガッガッと目の粗い石を掘り進め、途中で掘る方向を横に変える。


 ボコッ


 お、丁度よく天井付近に出られたな。それじゃ、まずは足場を作らないとな。


『ストーン・オペレート』


 壁の石がうにょうにょと俺が想像したとおりにその形を変えていく。出来上がったのは、ちょうど俺がすっぽり嵌るぐらいのちょっとした棚だった。


 さて。何らかの敵がいないとあのライオンは出てこないみたいだな。もしくはあの石の扉がスイッチになっているのだろうか。


 ま、やることは変わらんのだけどもね。


召喚サモン、スケルトン・ウォービースト』


 割と最近に覚えて、ここでの偵察に使えると踏んで練習してきた魔法だ。石の扉の前に、体高が二.五メートルほどはありそうな骨のサーベルタイガーのような何かが出来上がっていく。その空の眼窩に、それがまたこの世にやってきたことを示す蒼い炎が灯る。


 魔術や魔法を使っていて感じるのは、その見た目が術者の想像力によってかなり変わることだ。同じ魔術を使っていても、普通の矢のような形から剣の形にできたりと、かなり自由度が高かったのだ。


 なので、今回召喚したこの骨も、やろうと思えばドラゴンのような形にすることもできたのだろう。が、今回は魔力の消費が激しかったため、サーベルタイガーのような見た目にしてみたのだ。


 まだ反応は無し。となると石の扉がスイッチなのだろうか。遠隔念動で扉を開けてみる。やっぱり便利。


 すると、最初に入った時と同じように松明に一気に火が付き、中央の地面がせり上がる。


 来やがった。まだ右目に傷が残ってる、あのライオンで間違いないだろう。


 どうやら今回はライオンがかなりお怒りのようだ。息遣いも荒く、目に映るものすべてを破壊せんといった頃合いである。


 お、ぐるぐる円を描きながらにらみ合ってるな。いい感じいい感じ。


 召喚サモンは名の通り何かを召喚する魔法だ。だが、できるのは召喚・・までで、訓練テイムはまた別の魔法が必要なのだ。


 ペットにしようというわけでもないし、観察のためのサンプルとして使えればそれでよかったので、今回はテイムスキルのほうの取得は見送った。


 お、仕掛けたな。先手はライオンか。右前足で骨の顔を狙う。割と骨が優秀なのか、さっと首を振ってその攻撃を回避する。若干ライオンの爪が光っているのは気のせいだろう。


 対する骨はライオンの喉元に食いつこうと、ライオンに体当たりをかます。


 ライオンもその隆々とした後ろ足でそれを受け止め、抱き合うような形になる。


 骨とライオンが互いの肩を持って取っ組み合う。先に動いたのは骨のほうだった。体を右にひねり、ライオンを自分の下に持ってこようとする。


 そうはさせまいとライオンも必死に抵抗する。


 だが骨とライオンの取っ組み合いはいったんそこで終わる。


 両者ともいったん引き、再度攻撃チャンスを窺うーーのではないらしかった。


「リグルゥオウァツ」


 突如ライオンの頭上に四つの光の玉が出現する。


「グルアッ」


 四つの光の玉が骨めがけて飛翔する。骨も必死の回避機動を見せたが、これは勝負あったな。骨の前足が片方飛ばされた。これじゃそこを徹底的に狙われて反撃もかなわないだろう。


 しゃーない。解除(バラ)してまたーーー


「グルゥウオアァアァッ!!」


 んな。骨に止め刺しに行きよった。それされるときつい。召喚(サモン)するにしても材料が必要なんだ。そいつを壊してもらうのは少々見過ごせん。仕方ない、俺が相手するしかなさそうだな。


『止まれッ!!』


 いきなり頭の中に大声で叫ばれたら誰だってびっくりするだろう。ライオンが攻撃の手を緩め、きょろきょろとあたりを見回す。


返召喚アンサモン


 骨がその形を失い、バラバラと地面に転がる。ライオンはまだ呆気にとられてその場で固まっている。今がチャンスだ。


『業炎魔術、第三章二頁 火爆弾ファイヤーボール


 章はそれほどだが、前と威力は段違いだ。食らいやがれ。


『ちっ』


 野郎、ギリギリのところで回避しやがった。お陰でちょっと魔力が無駄になっちまった。


 ライオンも近接戦は今は無理と悟ってか、魔術を構築してくる。ちと遅い気もするが、鑑定。


系統名称:マギー・レーヴェ レベル:27 種族:ジネール・レーヴェ 

HP:541/620 MP:810/1145 SP:86

スキル

爪戦闘:Lv.7 牙戦闘:Lv.6 光魔術:Lv.5 闇魔術:Lv.5 先読み:Lv.4

ユニークスキル

魔術効率化Ⅱ

シピアルスキル

北の覇者


 中々強いな。二つの魔術がレベル5なのは割と脅威だろう。それに爪戦闘に牙戦闘。聞いたことがない。爪や牙での戦い方の熟練度といったところなのだろうか。


「ギグルウォッカッ」


 ぬ。普通の唸り声とは違うな。魔術か。


「ギルオッ!」


 レーザーのような光がひゅんひゅんと音を立てて俺の周りを過ぎ去っていく。外れた光が当たった壁を見ると、そこの部分だけ紅くなり、溶けているようにも見える。レーザー系とみて間違いないだろう。


 なら。


反射リフレクションッ!』


 水魔法の応用だ。レーザーも結局は光。反射させてうまく利用すればこちらのものだ。


 反射が上手くキマり、ライオンの視界を少しの間封じ込めることに成功する。


 今回は前みたいにそうやらせはせんぞ。念動で急降下し、チクチクとそこそこの威力の魔術を当てていく。


 これもこの戦闘のために編み出した手法だ。被弾面積が少ないこと俺だからこそできる戦い方。使えるものはすべて使っていかないと勝てるものも勝てなくなってしまう。


 ちょこまか動く俺に中々攻撃を当てられず、ライオンがイライラしてきているのがよくわかる。そうだそうだ。その調子でどんどんイラついて行ってくれ。


 もうあの後何回攻撃を加えただろうか。とうとうライオンが痺れを切らして大型魔術を構築し始める。だがそれも織り込み済みだ。こちらも負けじと今出来る最高の魔術でお相手するとしよう。


『業炎魔術、第七章八頁 アポトスの遠弓とおゆみ


 宙に浮く俺の背後に、巨大な長弓が出現する。その矢は炎で包まれており、触れるものすべてを灰燼に帰す威力を秘めている。


『放て』


 魔術の完成と放出はこちらのほうが一足早かった。轟音と閃光が部屋を一瞬にして埋め尽くす。視界が晴れ、矢が突き刺さったであろう場所には骨の一欠けらも残ってはいなかった。



『死ぬ......』


 調子に乗って高位魔術を使ったざまがこれである。極度の魔力枯渇状態。あの術を撃って五秒後にはもう意識も身体も落ちていっていた。


『そういや魔結晶も消し飛ばしちまったのか......?』


 鑑定は魔力をあまり消費しないので今の状態ではありがたいというほかない。


名称:未登録 装備者:未登録 装具ランク:Ⅲ

種族:エンシェント・ア―ティック

攻撃力:0 魔力値:1/2000 耐久値:498/500

魔結晶値:499/500 スキル促進値:45

付与効果

魔力効率化Ⅸ 装備者全ステータス上昇中

付与スキル

業焔魔術:Lv.10 

自己スキル

鑑定:Lv.8 晴嵐魔術:Lv.6 土魔法:Lv.5 気配遮断:Lv.6 隠蔽:Lv.7 気配感知:Lv.5 索敵:Lv.4 召喚魔法:Lv.5

...New!!


 よかった。魔結晶は問題なく吸収できてたみたいだ。だがあと1。なんかウザい。


 ん?下になんかNew!!って書いてある。なんだろ。詳しく見てみーーあ。魔力切れか。1しかなかったもんな......鑑定画面が維持できずに消えてしまった。


 仕方ない。今日はここで寝るしかなさそうだな。明日には祭壇に戻れるぐらいには回復しててもらわないと困るな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る