Act.03 獅子

 3ゴブ’sを処した後、俺はとりあえず周りを徘徊していた。

 意外とこの”狩る”という行為が中々に楽しく、はまってしまったのが実際のところだ。


 お、またゴブリン’s。そーい。


〔魔結晶を吸収しました〕


 やったね。この魔結晶吸収スキル、もとい、進化スキルがどうにも今後の俺の生命線となってきそうだ。


 ゴブリンの悲鳴が壁に反射し、エコーとなってまた聞こえてくる。得も言えぬ快感が体を突き抜け、そしてその後には全能感が身体を支配する。


 いかんいかん。これ薬物と似たような症状なのでは?したことはないけども。


 それより。スキルのほうはどうだろうか。


 剣術:Lv.1 棍棒術:Lv.1 斧術:Lv.1 槍術:Lv.1 投擲術:Lv.1 

 魔力蓄積:Lv.1 毒生成:Lv.1 魔力変換:Lv.1 隠蔽:Lv.1 気配遮断:Lv.1

 火魔法:Lv.1 水魔法:Lv.1 闇魔法:Lv.1 同化:Lv.1 視界媒介:Lv.1


 おお。中々多くなってるね。


 気になるのは...


隠蔽

気配遮断


 あたりか。だがどうしても使えなさそうなスキルも沢山混じっている。視界媒介とか何がしたいんだって感じだ。


 上二つはアサシンプレイ御用達だな。多分さっき攻撃してきたやつかな。大してダメージは無かったけども、向こうの姿を中々捉えられないもんだからかなりイライラしたな。


 というか、ここの奴らって中々見た目がハードなんだよな。所々体が腐ってたり、眼窩に何も無かったり。大学の骨格標本に鎧と剣持たせたような奴もいたな。


 あれ?俺もしかしてステータス表記ありの地獄にでも落とされたのかな?


 ......お。


 上に続いている感じの通路を発見。最初に目が覚めた場所の近くにも一個あったが、瓦礫で道が塞がれていた。


 魔術で通れるか試してはみたものの、如何せん瓦礫が多い上に一個一個がかなりデカかったので諦めた。ここは繋がってるといいんだが。


 階段を上がる。上から湿った冷たい風が吹いてきた。石で湿って暗いとか何その悪環境。このままバックれたい。


 とりあえず進んだ先には狭めの踊り場と、ごっつい蔦に覆われた石の扉があった。

 

 開けてみるか。まだ上に行けるかもだし。後ずさり、集中。


 俺ぐらいの重さの物であったらそこまで集中せずとも動かせるようにはなったが、こうも重いものとなると正直動かせるのかどうかも怪しくなってくる。


 ぐぐぐ......


 お、ちょっと開いてきた。


 ぐぐぐぐぐぐ......


 あとちょっと。


 ゴゥン


 中は暗く、どこまで続いているのかわからないほど広い空間が広がっていた。過度な湿度に耐えかねてか、俺の身体に水滴が現れ始める。


 正直そんな大したことはないけど、なんか嫌だな。身体が金属になったからだろうか。


 奥に進む。


 思うが...デカ過ぎやしないかね。異世界でもこのサイズ感はありなのだろうか。


 ざっと見観客席含めたコロッセオぐらいは余裕でありそうな雰囲気なんだが。


 コロッセオ(仮)の中央まで進んだ時、事態が変わった。


 入り口から順に、松明が燦々と輝き始め、部屋の中央に大きな穴が開き、そこから地面がせり上がってくる。まるで地震が起きているかのような感じだった。


 そしてそれは徐々にその全容を大穴から現し始める。体高およそ5メートルほど。獅子のような出で立ちだが、決定的に違うところといえばその足にあるだろう。典型的な四足獣ではなく、まるでしっぽの部分がもう一つの足のように働いていた。


 ライオンのような生物が低い唸り声をあげ、周囲を見回す。


 扉は締まっており、おそらく出ることは叶わない。ならば物影に隠れていったんこの場を凌ぐしかない。


 ライオンがぐるぐると大穴の周りを歩き始める。体重が非常に重いからだろうか。一歩歩くごとに地響きが50メートルは離れているであろうこちらまで伝わってきた。


 正直な話めちゃくちゃ怖い。5メートルを超す大きさのライオンもどきとかどう対処すればいいのか。そして逃げおおせられる場所もなし。


 ぴくり、と何かを感じたのかライオンがこちらを振り向く。


 来ないでくれという俺の願いなどどこ吹く風といった感じで、ライオンは徐々に距離を詰めてくる。

 

 三十メートル。


 魔術で対抗?あのクソデカいのに?無理だろ。


 二十メートル。


 逃げる?どこに?閉鎖空間だし、上に逃げたとしても結局魔力切れで落ちてくる未来しか見えない。


 十メートル。


 あぁあクソッ!!もうつべこべ言ってる暇なんてねえ!!


 五メートル。


『業炎魔術、第三章十頁 炎妖の槍ゲイ・アイフェ!』


 今出せる最高威力の魔術を放ち、そのまま上へ急上昇。


「グルォッ!?」


 右目の上に当たる。目くらまし位にはなったみたいだ。が、俺の予想通りダメージはほぼ入っていない。


 ライオンが何事か、といった感じに周囲を見回す。が、その傷を与えた犯人はもうそこにはいない。


 必死で念動で上へ上へと逃げる。が、足場になるようなものは一切見当たらず、ただ反り返った滑らかな壁だけが俺の視界には映される。


 上に隠れることは諦め、とりあえず反対方向にできるだけライオンから離れたところに逃げる。


 ライオンもそこには敵がいないのを理解したのか、顔を上げきょろきょろとあたりを探している。


 くっそ......魔力の半分は喪失、本体にダメージは無し。本体はいいとしても、魔力の半減はかなり痛い。そもそも攻撃できる形状ではないため、どうしても魔力がないといけない。


 またライオンがこちらのことを見つけたのか、地響きをあげながら突っ込んでくる。その目はもう純粋な興味などは孕んでおらず、ただ己を攻撃した敵を破壊せんとする目をしていた。


『――ッ』


 また上へと逃げようと試みる。だが、ライオンも阿保ではなく上に逃げる俺をロックオンし、その口に生えた天然の凶器を俺に向け、後ろ足で跳躍した。


 マっズーーと思った時にはもう遅かった。もうライオンの口は目と鼻の先まで迫っており、その口には金属の俺ですらかみ砕きそうな牙がずらりと並んでいた。


 あぁ、これが死ぬってことなんだな。短い二度目の人生だったが、泡沫の夢としちゃ上出来だったかもなーー


『なんて...言えるかッ!!』


 その大きく開いた口は、柔らかい喉をこちらに向けていた。


『業炎魔術、第三章十頁 炎妖の槍ゲイ・アイフェッ!』


 先ほどよりも更に魔力を注ぎ込み、自滅覚悟で放ったその魔術は必殺とまではいかずとも、十分ライオンを引かせるに足る威力が出ていたようだった。


「グルオォオオォオアッッ!!??」


 油断を突かれたライオンは、突然の痛みに悲鳴を上げる。どんな生物でも仕留めかけの時には油断が生じる。そこを狙った死にたがりともとれる戦法。それは、俺がここで如何に無力かを教えてくれるいい事例だろう。


 ライオンは少し悶え、その痛みと熱さに耐えかねてか自分が出てきた大穴にその身を投じ、この忌々しい部屋からその姿を消してくれた。


 部屋が静寂に包まれる。勝利だった。


『っはぁ~、死ぬかと思った』


 最初に出たのはこんな感想だった。

 というか実際あんなクソデカいライオンに食われかけたら誰だってそう思うだろう。

 だが、あそこまでしなかったら俺は今頃あのライオンに粉みじんにされていたことだろう。凶悪な牙に、切れ味抜群の爪。


 どうやら、俺はここでは非常に非力な存在らしかった。

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