Act.02 腕輪、浮遊す
さて、状況確認と行こうか。ここは石壁に囲まれた密室。行く宛なし。はい。詰みましたありがとうございました。
〜完〜
じゃなくてだな。どうにかしてここを脱出しないと何もできないぞ。
うーん...鑑定?とりあえずしてみようか。
名称:石壁 状態:清潔
違う、そうじゃない。断じてそうじゃない。俺が欲しいのはそれじゃない。えぇい、もうやけだやけ。
『晴嵐魔術、第二章四頁
全方位魔術発動!!
これでなんとかなってくれ!!
魔術を発動し終えた後、壁を見てみると、四方の壁のうち、台座の正面の壁が少し崩れていた。他は傷がついただけだったので、どうにもハズレの匂いがする。
再度リッパーを発動。そこには、完全に崩れ落ちた石壁があった。
よかった。と、胸をなでおろす反面、俺は石壁の向こうにあった景色に辟易としていた。
なぜかって?同じ石壁が見えたからである。山の向こうは新天地ではなく、同じような感じの景色だったら、そりゃぁ誰だって溜息の一つぐらいは付きたくなるものだろう。
『ま、とりあえず探検してみようか…』
右手は行き止まりで、左側には通路が伸びていた。
左に進んでみる。
その先も左にしか曲がれなかった。
通路の左側に上へと続く階段、少し進んだところには丁字路が待ち構えていた。
右側はまだ通路で、左側には天然の洞窟らしきものが続いている。
「ギギガッ」
「ギギグワッ」
「グイギグァッ?」
洞窟の方から唸り声のようなものが聞こえる。咄嗟に身を隠し、指輪の部分だけを洞窟の方に向ける。
声はどんどんこちらに近づいてくるが、まだその姿を捉えられない。
ようやく捉えた姿は、成人男性の腰ほどしかない緑肌の醜い生物。
ゴリラを縮小し、二足歩行にしたような見た目だった。
つまるところ、ゴブリンである。今後東西、ファンタジーものでは雑魚として扱われる奴である。
基本単独行動はせず三人一組のグループで活動し、巣を作って生活する想像上の生物。
そんな生物が今俺の目の前に現れていた。とりあえず鑑定でもしてみるか。
名称:ゴブリン レベル:3 種族:魔人・邪人
HP:20/20 MP:2/2 SP:50
スキル
剣術:Lv.2 索敵:Lv.1
名称:ゴブリン レベル:2 種族;魔人・邪人
HP:18/18 MP3/3 SP:49
スキル
棍棒術:Lv.1 威圧:Lv.2
名称:ゴブリン・リーダー レベル:4 種族:魔人・邪人
HP:30/30 MP:1/1 SP:56
スキル
指揮:Lv.2 恫喝:Lv.2 槍術:Lv.2
うん、雑魚いな。比較材料はないものの、俺の勘がそう告げていた。どうやら個体ごとにスキル構成なども違うらしく、微妙に差が出ている。
突然俺の視界がぐるっと回転する。
どうやら俺が考えている間に別のゴブリンが背後から寄ってきて、俺をその汚い手で握りしめていたらしい。
「ギキィーッ!」
勝ち誇った声をあげる。
いや、浮いてるから怪しいとかそういう思考は沸いてこないわけ?
俺を掴んだゴブリンを見る限り、着飾るといった美意識などは錆びたアクセサリーを纏っている辺り存在はしているようだ。
どうやらこちらに向かってきていた三匹のゴブリンの仲間であったらしく、俺には理解できない言語で意思疎通をしていた。
...俺こんな奴らに装備されて生きるとか絶対嫌だぞ?たとえ強いゴブリンでもそっち系の人外はお断りだぞ。
意地になって念動を全開発動。ゴブリンからしたら軽々と持てていた腕輪がいきなり鉛のような重さになったことだろう。
「ギュガギッ!?」
「ゲハハハ」
「ギッヒヒ」
突然仲間がパントマイムをし始めたら誰だって馬鹿にするだろう。
当のゴブリンはそれどころではない。必死になって俺を持ち上げようとする。ここで引いたら男の面目がなんとやらとかいうやつなんだろう。
「ギャヘヘヘヘ」
「ギョハハハハ」
「ゲハゲハ」
横で見ているゴブリンたちが面白がって更に煽りを入れているようにも聞こえる。
「ギョギャーッ!!!」
とうとうゴブリンの堪忍袋の緒が切れたらしい。ざまあみろ。
念動を解除し、とりあえず一息つく。
『ぐおっ...ってきったね!?』
野郎、俺を踏みつけやがった。しかもそれだけじゃない。ツバまで吐いて行きやがった。
よし分かった戦争だ戦争だな!?
『豪炎魔術、第三章五頁
名前負けしちゃいるが、威力は中々の魔術を選択。
流石に殺気に溢れた魔術に気付いたのか、ゴブリン達は逃げだす。
だが逃がさん。
実体の無いはずの炎の槍が、二匹のゴブリンの胸に風穴を開ける。力を失った足は自重を支えきれず、半分に折れ、体を地に伏せさせる。
残った二匹は賢明にも既にとんずらしていたらしい。その証拠に四つの武器が石畳の上に転がっていた。
不思議と命を奪うことに対してさしたる抵抗感も道徳上の逡巡も無かった。
腕輪にでもなったからだろうか?
ま、スッキリしたからいいか。というか、意外と強いんじゃないだろうか、俺。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます