Act.01 攻撃力ゼロ

......眩しい。


 目を開け、自分に不快感を与えるものを見据えようとする。

 

 が、実際俺の視界に入ってきたのは半透明の手足。


 成程これが霊体とかいう奴か。


 いや、違う違う。そこで納得してどうするよ。霊体も兎も角だが、なんで意識が?


 そんな俺をよそに大理石のような色合いで金色の装飾が施された台が静かに鎮座する。


 その中央部分には、白金のような色合いの腕輪がすっぽりとはまっており、縦に8センチ、横に6センチほどの大きさで、鎖で腕輪と指輪が繋がる構造になっている。


 不思議な感覚だった。どこかで見たことがあるような―― 


 近づく。うまく身体が扱えない。どうにか細部まで見れる位置に近づき、眺める。


 白金のような金属の上に、流線の盛り上がりがあり、一対の澄んだダークブルーの宝石がはめ込まれている。腕輪と鎖でつながれている指輪も同様に、流線の盛り上がりがあり、一対の宝石がはめ込まれていた。


(キレイだな......)


 日本では見たことのないものだった。まぁ、博物館や展示会などに行ったこともないのだからこんなものを見たことがなくとも当然といえば当然なのだが。


『来て』


 何かに喚ばれる。この際霊体らしきものになっているのだから、理解外のことが起きても、何も不思議ではない。


『来て』


 さっきから何なのだろうか。少し恐怖を覚え、身を引いた次の瞬間。意識は何かにぐいと引かれ、意識は暗転した。


 恐る恐る再起動させた視覚野。慎重に情報を得ようと試みる。先ほどと同じ石積みの壁、松明。違ったのは――先ほど目にした腕輪が自分の胸先にあったことだ。


 意識があり、前世の記憶もほとんどが残っている。そして、物質としてこの世に存在する。


 異世界転生というわけだ。


 それにしても腕輪。確かに人の転生に飽きた作家たちが、よく人外転生なんかを書いてはいたが...腕輪はないだろう腕輪は。そもそも生物でもない、無機物。動けるかどうかさえ不明な装飾品。


 何か覚えていないところでカミサマに嫌われることでもしたのだろうか。そうだとするならばその時の自分を殴りたい一心である。


 (しかし、さっきの声は誰だ?)


 幽霊?幻聴?はたまた他の理解外の何か?

なんにせよ、不気味で仕方がない。分かったところで何が出来た訳でもないのだが。忘れて、前を見据えるしか今は選択肢がない。


 現状転生前にあったことで忘れていることはほぼない。そんで俺の名前が...なんだっけか。 あるに越したことはないけど...まぁ今は大丈夫だろう。そもそも人がいるのかどうかさえ怪しいのだし。


 次に、現在地。まったくもって不明。どうやら鈍いが触覚らしきものはあるようなので、何となく寒いということはわかる。それ以外はさっぱりだ。


 異世界転生物で定番なのが、何かしらの能力を付与されてもう一度生を得ることだ。で、その筋書き通りに行ってくれているのならば、何かしらスキルがあるはず。...というかあってくれ。


 ここのカミサマはそこまで非情ではないらしく。どうやら俺の意思を汲んでか、言語の通じるヒトを置いて行ってくれたらしい。...というかぶっちゃけ、人と称していいのだろうかこれは。


〔【苛立】それは私に喧嘩を売っているのでしょうか〕

『すいません...』


 少し棒読みな、だが毅然とした女性の声だった。どうやらこのヒトは俺専属のヘルパーさんらしく、俺が困れば解決のヒントを与えてくれるそうだ。今後はナレーターさんと呼ぼう。


〔名称:剥奪から名称:ナレーターさんへと移行...|完了(フェアティッヒ)〕


 今まで名前なかったらしいね。というか剥奪て...何があったし。

 ま、いっか。

 で。本題の能力が知りたいんだが...どうすればいいのかな?


〔【返答】魔法:鑑定が該当。対象の物体のステータスが確認可能〕


 お、あるっぽいね。発動の仕方は...あ、なるほど。言えばいいのか。


『鑑定』


名称:未登録 装備者:未登録 装具ランク:Ⅰ

種族:エンシェント・ア―ティック

攻撃力:0 魔力値:1000/1000 耐久値:250/250

付与効果

魔力効率化Ⅶ 装備者全ステータス上昇中

付与スキル

業焔魔術:Lv.1 

自己スキル

鑑定:Lv.7 晴嵐魔術:Lv.1 

...


 どうにもまだ見えていないスキルがあるらしい。じっと三つの点を見つめる。


パッシブスキル

念動 念話 進化 装備者共有 自動修復 言語理解 N/P=99


 パッシブスキルか。RPGとかでよくあるやつだな。...異世界じゃなくゲーム世界という線も否定はできなくなってきたな。どちらかというと異世界希望なんだけども。


 どうやら個別にスキルは確認できるとのことで、10分ほどかけてじっくりと読み進めていく。

 気になったのは業焔魔術と晴嵐魔術だな。


業焔魔術…炎の術を操り敵を攻撃する。


晴嵐魔術…風の術を操り敵を攻撃する。


 やる気あるんだろうかこの解説。...まぁいいや。次だ次。


魔力効率化…取得者の魔力の使用をより簡単にする。


念動…魔力を使用し、物体に干渉する。


念話…魔力を使用し、思考で他者と会話する。


進化…魔結晶を吸収し、進化を行う。


装備者共有…装備者とスキルの共有をする。


自動修復…魔力を使用し、自身の耐久値を回復する。


言語理解…全ての言語を解せるようになる。


 中々凄いんじゃないだろうか。アイテムにしろなんにしろ雑魚死だけは避けられそうだ。


 ただまぁ...何故か腕輪。無機物。それなのに感覚がある不思議。鈍いけど。


 さて、どうしたもんかな。このままここに居座って誰かに発見されるのも悪くはないが...却下。つまらん。そもそもどんな人物に装着されるかわからないんだ。今後の人生を決めるロシアンルーレットなんざしたくないね。


 ふとスキルに進化というものがあったことを思い出す。あれはいったいどういうものなんだろうか。


進化…魔結晶を吸収し、進化を行う。


 はぁ...魔結晶とはいったい何ぞや?ナレーターさん曰くこの世界の生物、主に「魔獣」や「邪人」に分類されるものがこれを体内に持っているそうだ。


 進化ねぇ...つまるところ今より確実に強くなれるわけだ。動いて喋って魔術を使う最強の腕輪。異端認定待ったなしだろうね。けども、ロマンがある。将来設計としては悪くないかもしれない。...なってみるか、最強の腕輪。


 こんな世界だ。変身できるスキルもあるかもしれない。そしたら人間に変身して、最強の魔術師を目指してみるのもいいかもな。魔術師で脆そうだから仲間も必要かもな。勇者パーティー?ごめんだね。なんで世界を救うために俺が頑張らねばならんのだ。自分たちの世界ぐらい自分たちで取り返せよって話。

 

 もしそんなスキルがなかったら?うーん...気に入った人でも見つけて装備してもらおうか。いや、こんなナリで「僕と契約して魔術師になってよ!」なんて、うさん臭くて仕方がないだろう。というか俺なら回れ右して全速ダッシュだろうな。


 ま、それより先にここからどうにかして出ないとその夢もすぐ潰えるんだけども。


 そんな壮大(笑)な将来設計に対しナレーターさんは呆れた感じの思考を俺に向けていた。


 なんだよぉ、誰にも迷惑かけてないじゃんかよ...いいじゃん、夢ぐらい壮大でさ。


 またもナレーターさんに呆れの思考を向けられた。どうやらこのナレーターさんは性格が悪いようだ。

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