無機物魔術師の異世界冒険譚

お香

Act.00 遊探家

 世界を股に掛け、ありとあらゆる虚遺物を探し当てる人々――ヒトはそれを『遊探家レクレス』と呼ぶ。


「なんだってー」

「へぇー」


 茶の髪の少女が横にうつ伏せで寝転んでいる白髪の少女に読み聞かせる。その口からは白い息が漏れている。


「ヒナもゆーたんかになりたいんだっけー?」

「そうだよ!おとうさんみたいに世界をとびまわりたいんだ!」


 少女たちは薄暗い書斎で二人並んで本を読んでいる。茶髪の少女はがばっと起き上がり、また白髪の少女にその快活な声で問う。


「セイもいっしょにくる?」

「おいらは......いや、ヒナが行くならおいらもついていく」

「さすがセイ!よてーはどうする!?来週?なんならあしたからでも!」

「ぜんはいそげ...?だったっけ。そういうのもあるけど、おいらたちじゃまだ......」

「う...そうだよね......」


 茶髪の少女がうなだれる。がちゃりと分厚い木の扉が開く。


「どうした?家出の計画でも立ててるのかい?」

「あっ、おとうさん!おかえり!」

「おかえり!」

「お、セイも一緒か。今日は盛大に料理を振る舞ってやるぞ。おーい!皆!飯の準備だ!!」


 身なりの少し汚れた白髪の少女と茶髪の少女が嬉しそうに男に肩車をされ、他の孤児たちが待っている方に消えていく。


 およそ1000年前のこと。数ある星の中のとある惑星に新しい世界が創造された。人口およそ七億。世界の約半分以上は未だ謎に包まれている。


 強力かつ致命的な『魔獣』達がその謎を頑なに守り続けているからだ。


 謎の解明はヒトとその亜種たちによって行われた。各地に点在する遺跡を攻略し、その真実を民草に届けた。


 その珍妙かつ神秘に満ちた姿は、一攫千金を狙う様々な冒険者を呼び寄せた。


 遺跡に挑む彼らが『遊探家レクレス』と呼ばれるようになる頃、遺跡付近の拠点は各遺跡を囲うほどになった。


 やがて一つ一つの遺跡が領土を主張し始め、最後には国としてその規模を大きくしていった。 


 やがて出来上がった街の一つが、今のこの国の原型と伝えられている。


 そしてこれは、その世界・・の謎を解き明かしていくお話である。

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