第25話 縁の下の力持ち
それから3週間かけて、松葉杖なしでの生活を取り戻した。
松葉杖は取れたものの、相変わらずバスケが出来ない日々は、続いていた。
この時間は、バスケと向き合うための貴重な時間だった。
プレーを制限されていたため、見学するだけではつまらないだろうと、コーチから女バスの指導をお願いされていた。
コーチは男バスと女バスを兼務しており、大会が近いということで、女バスの練習を見てアドバイスをしてやって欲しいとのことだった。
いつも隣のコートで練習していたハズなのだが、自分達の事で精一杯だったため、女バスがどんな練習をしているのか、ほとんど知らない状況だった。
「かなた~ 教えてくれるの?」
れいかが、嬉しそうに話しかけてきた。
「集合!」
「はい!」
キャプテンの佐々木さんが号令をかけ、僕の前に女バスのメンバーが整列していた。
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
佐々木さんの挨拶に続き、全員での元気の良い挨拶が届いていた。
「こちらこそ よろしくお願いします」
「コーチから、練習を見てくれてと言われたので、少しでもお役に立てるよう頑張ります」
「足がこの通り言うことを効かないので、実技指導は出来ませんが、よろしくお願いします」
コーチから僕のことは、女バスのみんなに説明済みだったようで、年下の指導も真面目に聞いてくれそうな雰囲気で、少しほっとした。
数日間、女バスの練習を見ていたのだが、結構まとまっている、良いチームだ。
男バスに比べて、6年生が7名もおり、総勢15名の大所帯と、羨ましい状況だった。
そんな中、司令塔(PG)は、れいかが担当していて、いいセンスを持っており、絶妙のパスを配球していた。
6年生にも、PGを出来る子はいるのだが、れいかが頭一つ抜きん出ている感じだ。
いつの間に、こんなに上達してたんだろうかと、感心してしまった。
かすみはというと、体が弱いため、練習は休み休み参加している状況で、出来るところを見つけて頑張っていた。
これを機に、僕がこれまでに経験してきたバスケの知識をかすみに伝えることで、プレーヤー以外のバスケの面白さを解ってもらえないかと考えた。
練習メニューの組み立て方やメニュー毎の必要性を、一つ一つ丁寧に説明した。
結果として、かすみと話す時間が多くなり、僕としてはとても充実した時間を過ごすことが出来ていた。
決して、鼻の下をのばしていたわけではない。
かすみにバレないように気を引き締めて、れいかの成長について聞いてみた、
「れいちゃん、うまくなってるね~」
「それはそうだよ~ いっつも かなた を見て一生懸命練習してたんだよ」
「少しでも近づきたいって、うまくなりたいって言ってた」
「ものすご~く、頑張ったんだよ」
僕のスタイルを真似るように、見よう見まねで頑張っていたようだ。
見るだけで、独学で真似れるようになるって、どれだけ見てたんだろうか?
どれだけ、練習したんだろうか?
大変だったハズだ。
聞いてくれれば教えてあげたのにと、かすみに言うと、
「かなたの練習の邪魔をするのは嫌だからって、私も口止めされてたの」
かすみには言えないが、こんなことされたら、惚れてまうやろ~。
でも、一番好きなのは、かすみだよ~。
って誰に言い訳してるんだか...
1週間練習を見たことで全員のレベルとか、特徴とかがだいたい見えてきていた。
女バスのレベルアップを行うために、男バスの控え組とのゲームを行うことにしていた。
女子とゲームをすることに慣れていないこともあって、ぎこちない男バス控えチームは、良い練習相手になると考え、コーチにお願いし了解を取りつけていた。
女バスのベストメンバー5名と男バス控え組の5名で、6分間のゲームが始まった。
控え組と言っても、運動能力には差があるため、男バスのディフェンスは、ハーフコートのマンツーマンをお願いした。
女子の特徴なのだが、男子に比べて得点のペースが遅く、ロースコアでのゲームとなっている。この少ない点差で確実に勝ち切る方法に特化して、勝ち筋を探すことにした。
男バスはタップロに、ゲームコントロールをお願いしていた。
中にダックとタクが交互に入るようハイポストのプレーをお願いし、その対策が出来るように指示していた。
ハイポストのダックにボールが入ると、マークしていた女子メンバーにディフェンスを寄せて、ゴールを背にしているダックに反転させないように、後ろからディフェンスのプレッシャーをかけさせた。
仕事をさせないようなポジショニングをするように、何度も何度も試合を止めて説明し、反復練習を行った。
具体的なポジショニングの解説が出来ないため、かすみに僕が指導したいことを伝え、代役をお願いして説明をしてもらった。
こんな練習を繰り返すことで、ディフェンス時の相手のチャンスをなるべく少なく切るような戦術を覚えてもらった。
特にシュート時のスクリーンアウト後の(オフェンスの選手を背負って)リバウンドを取るようなプレーを徹底した。
極端な話、点を取られなければ負けないのだ。
男子のゲームでは、点の取り合いが主戦場となるため、相手より多く得点する手段の構築に時間をかけるため、こんな話をしても紙に書いた餅となる。
しかし、ロースコアでの接戦が多くなる女子バスケでは、失点をなるだけ減らすことでより勝利に近づくことになる。
足をケガしたことで、こんなヒリヒリしたゲームを指揮して勝つことの面白さを、かすみに伝えることが出来、本当に良かったと思った。
これで、女バスの公式戦対策は、目途が立って来た。
後は、男バスの交代要員確保だ。
僕は、これから1年半後の中学からバスケを始めるであろう、あの三人組を勧誘してみようかと考えていた。
そう、高校時代に一緒に朝練を共にしていた、ゴッケン・スエッチョ・ケンタの三人組だ。
松葉杖の取れた僕は、彼らを勧誘するため隣町に向かった。
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