第21話 卒団式と危機
あのデビュー戦のあと、僕は練習の虫になった。
自分のスキル上達のため、日々鍛錬の毎日を過ごしていた。
筋力UPとドリブルのキープ力UP、この二つを徹底的に磨いた。
朝のランニングは欠かさず続け、師匠とのコミュニケーションも定期的に行い、宝珠への対応も順調に進めていた。
そんな日々が、あっという間に過ぎ去り、キャプテンの進くん達6年生は、卒業を間近に控えていた。
そんな時、卒団式というものがあることを知った。
ようは、ミニバスの6年生達5名の卒団のお祝い(追い出し)のための、食事会らしかった。
その卒団式では、毎年の恒例行事として出し物を披露しなければならないらしく、僕たち在校生メンバーにも出番が用意されていた。
僕たちの出し物は、月並みではあったが、歌のプレゼントということで、その年に流行っていたGReeeeNの「キセキ」を披露することに決まっていた。
昨年の春先にやっていた学園モノのドラマの主題歌だったらしく、この春の甲子園の入場行進曲にも決まっている有名な曲のようだ。
確かに、高校生までの記憶では、色んな所で流れていた曲で、サビの所は耳にはしていた曲だった。
「二人寄り添って歩いて♪」
「永遠の愛を形にして♪」
「いつまでも君の横で笑っていたくて♪」
歌詞は、うろ覚えだったが、好きな感じの曲だった気がする。
歌の練習なんてしたことはなかったのだが、携帯ゲーム制作の時に使っていたスマホに曲をダウンロードして、ちょっとした空き時間で口づさむようにしていた。
歌詞を読んでみるとこれって、恋愛ソングだよね?小学生が歌う曲だっけ?と突っ込みたくなる内容だったが、素直に練習した。
どうも、流行りの曲をやることに意義があるらしいとのことだった。
卒団式当日、会場は近所のショッピングセンターに併設されているホテルだった。
ホテルの1Fにある中華料理店を貸し切りにしており、会場正面には、いつも試合の時に体育館のギャラリーで目にする応援用の男女の垂れ幕が、張り出されている。
男女合同の卒団式ということで、それぞれに円卓に分かれて座っていた。
後援会の会長をしているキャプテンの進くんのお父さんが、乾杯の挨拶を行い、食事会が和やかな雰囲気の中始まった。
みんなのお腹も美味しい料理で、満たされた頃、出し物が始まった。
トップバッターは、会長と進くんの弟(1年生の大志くん)の親子だ。
ぱっつん ぱっつんの半そでの黒い革ジャンに革パンツのペアルックで登場した親子は、髪をオールバックに決め、サングラスをかけ、ギターを肩から掛けて登場した。
どうやら、長渕剛のコスプレらしい。
このインパクトに会場は、かなり盛り上がった。
定番と言えば定番なのだが、「乾杯」を無難に歌って、会場を温めてくれていた。
男子チームの在校生の出し物の出番となり、特に衣装のようなものは準備していない僕ら10名は、前に並んで肩を組み、GReeeeNの「キセキ」を披露した。
会場には、女子チームもおり、その円卓には、かすみとれいかも座っていた。
曲は、卒業生に向けての歌のはずだが、僕はこっそり、かすみのために歌っていた。
「明日今日よりも好きになれる♪」
「溢れる想いが止まらない♪」
「今もこんなに好きでいるのに♪」
「言葉にできな~い♪」
なんとか全部歌い切り、拍手をもらい、席に戻った。
流行りの曲ということで楽しんでもらえたようだった。
チラチラとかすみを見たのだが、ニコニコしながらチームメイトと談笑しているようで、かすみのために歌っていることは、気づいてもらえなかった。
どちらかと言うと、れいかの視線が真っ直ぐ僕を見つめていて、う~ん、これって違うからねって言いたい感じだった。
順々に出し物が披露され、かすみ達の出番が回ってきていた。
僕らと同じように、みんなで曲を歌うようだ。
曲は、アンジェラ・アキの「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」、この曲の方が卒業ソングって感じで良かった。
無事、出し物も終了し、最後にコーチから、卒業するメンバーに記念品と寄せ書きの色紙がそれぞれに手渡されていた。
記念品は、マスコットサイズのバスケットボールで、台座に乗せて飾れるものだった。
寄せ書きは、それぞれの卒業生に向けて、僕たち在校生とコーチから一言づつコメントを書いていた。
キャプテンの進くんの寄せ書きには、こう記した。
「中学で待っていて下さい。トッププレイヤーを目指して頑張ります。 かなた」
この言葉が嘘にならないように、頑張ることを固く誓った、決意表明だった。
最後に卒業生ではない5年生の田島 敦くんが呼ばれ、同じように記念品を貰っていた。
どうやら、お父さんの転勤に合わせて引っ越すことになり、このチームを去るとのことだった。
そんな感じで、無事卒団式は、終了した。
女バスの記念品贈呈では、女バスみんなが泣いていたが、何がそんなに悲しいんだろうかとクールな目で眺めていた。
月も変わり、5年生となっていた。
6年生と田島くんが抜けたことで、メンバーが9人ということになっていた。
実は、この状況はマズイことになっているようだ。
ミニバスの規定によると、第3クォーターまでに10名の選手を出場させるというルールがあるため、チームとしては最低10名のメンバーが必要とのことだった。
試合に出るために、最低でもあと1名メンバーを増やさなければならない。
このチームでは、試合が出来ない状況に
急遽、メンバー募集の張り紙を用意し、体育館の入り口や、掲示板に張り出してもらっていた。
もちろん、ぼくらも、手渡しで募集のチラシを配って勧誘をしていた。
人気のバスケット漫画やアニメでもやっていれば、勧誘もしやすいのだが、「スラムダンク」は、一昔前といった感じで、チラシに「バスケがしたいです」と名言を書いてもピンと来ていない状況だった。
バスケは、いまいち人気が出ていないスポーツで、サッカーや野球に入る子供の方が多い状況だ。
あと数年すれば、爆発的人気作となる「黒子のバスケ」も、少年ジャンプで今年2月から連載がはじまってばかりで、まだ人気作といった感じではない状況だった。
部員募集も効果なく閑古鳥が鳴いている状況で、しばらく9名での活動を余儀なくされていた。
引用元:(作詞作曲:GReeeeN 2008年「キセキ」からの引用)
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