第17話 白い日は、もうこりごりだ

なんとかホワイトデーのお返しの品物の準備は完了した。

しかし、困っていた。


これほどたくさんのお返しをどうやって渡すかについては、全く思いつかない状況だった。

そもそも、貰った相手の顔と名前が一致しない子の方が大多数を占めていたからだ。


渡す方法についても、かすみとれいかに相談に乗ってもらった。

僕がチョコを沢山もらったことで、とても困っていることをアピールすることで、二人の負の感情を少しでも抑えられるのではないかと考えたからだ。


相談したことは、正解だった。

どうやら作戦は、かすみが立て、れいかが友達づてに流したらしい。


それにしても、女子達の情報網は、凄かった。


かなたくんにチョコを渡した人は、3月14日の放課後、彼の家に行けば、直接手渡しでお返しをしてくれるという話をバラまいたようだった。


と言うわけで当日の放課後は、自宅待機となっていた。

アイドルの握手会のような感じで、玄関先に折り畳み式の机とパイプ椅子が設置され、机の下にはお返しの品物を入れた袋が置かれていた。

おやじが、近所の公民館から借りてきてくれていたようだった。

僕は、玄関先に出来ていた行列を見て、改めてメディアの力を思い知った。


そこから先は、しんどかった。

僕をまっすぐ見つめる熱い瞳に、目をそらすことなく、笑顔で答えた。


「わざわざ、来てくれてありがとう」

「これ、この前のお礼です」


何度もおなじセリフを繰り返すことが、こんなに苦痛だとは思わなかった。

前のめりにアピールしてくる彼女たちの勢いに、圧倒され、何を聞かれ、何を答えたのか?

その内容のほとんどを、覚えていなかった。

だんだん、笑顔も固まり、頬が痛くなって来始めた頃、行列もはけ始めていた。


それを見計らい、部屋で待機している今回の作戦指令のかすみと参謀のれいかの元に、現状報告に向かった。


「待たせて ごめんね~」

「顔がつりそう もういやだ~」

「誰か 代わって~」


そう言って、部屋に入ると、ニヤニヤした二人が待っていた。


「かなた お疲れ~ よく頑張ったw」

「私の宣伝活動に感謝しなさいよ~」


れいかが茶化しながら、僕の頑張りを褒めてくれた。

かすみもやさしい笑顔で、迎え入れてくれた。


「本当に、ありがとう」

「二人のおかげで、なんとかなったよ~」

「こんなことは、二度とゴメンだね~」

「お礼と言っては なんなんだけど、 これをどうぞ」


机の引き出しにしまってある、二人のために買っておいたお返しの品物を、取り出し渡した。


「あ、これ、高かったヤツだよね!」

「わざわざ、買いに行ってくれたの?」


「うん 二人には、いつも相談にのってもらったりしてるから」

「これ、もらってくれるかな?」


「本当にもらっていいの~? やったー! ありがとうw」


二人は嬉しそうに僕のプレゼントを受け取っていた。

凄く疲れていたのだが、この時間が長く続けばいいと思えるくらい、楽しい時間を過ごした。

これが、いいのだ。

好きな相手からもらうことの喜びをかみしめていた。


モテたい。チョコをたくさんもらってみたいと思っていたのだが、実際もらってみると数が多いことで得をすることは何も無かった。

誰だ~。ホワイトデーなんて日を作ったのは。

バレンタインデーのお返しは、本命のみとするというルールを決めてもらえませんか~。

そんなおバカなことを考えながら、楽しい時間はあっと言う間に、過ぎて行った。


それから、パラパラと来た数名の女子達に、お返しの品を渡して、白い日のイベントは無事終了した。


僕は、普通の小学生に戻ることを、固く心に誓った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る