第13話 不可抗力の脅威
赤い宝珠から、赤い噴煙が昇り始めた。
今回の爆発は、いつものとは桁が違い、大爆発という表現がピッタリだった。
やばい、何かが起こっている。
僕は、突然発生したこの事態に、愕然としてしまっていた。
少しでも早く光を集めることに躍起になっていたため、周りがどう思っているかなんて考えていなかった。
テレビに出て、調子に乗っていなかったか?というと、やはり少し調子に乗っていた。
冷静に考えると、この状況は、小学3年生に出来ることのレベルを、明らかに逸脱していた。
実は父親が、別の人間の作ったアプリを、小学生の僕が作ったことにして、利用しているのではないかという噂が、ネット上に流れはじめていた。
こんな噂の裏には、同じようにゲームアプリを作っているクリエーターさん達のやっかみが含まれており、出る杭として、格好の餌食となり、叩かれた。
僕のことを叩いているのであれば、まだ我慢することもできたのだろうが、その矛先は、おやじに向けられていた。
ネットでよく炎上するとは言葉が使われているが、他人事だったので、その炎上という言葉の意味がよく分かっていなかった。
最初は、やっかみからの心無いつぶやきから始まったハズだったのに、そのつぶやきからの負の連鎖が始まった。
つぶやいた人では無い、全くの他人が、代理発言をしてゆく、そのつぶやきは、鋭さを増し、心に突き刺さってゆく。
確かに、高校2年生の記憶を持っている僕が作っているのだから、小学3年生として評価されていることを、心苦しいと感じることはあった。
でも、独力で作品を作っていることに、嘘はないため、正直悔しかった。
1年間、必死でプログラムの勉強をして、実力をつけてきたのだ。
認めてもらいたい、僕が作っていることを証明してやる!
どうすれば、納得してもらえるのだろう? 考えろ! 考えろ! 考えろ!
そう熱くなる時期もあったのだが、ネットの酷い書き込みを目にする度に、心がザクザクと削られるような感じがした。
この状況を改善するために、実際にプログラムを制作している所を取材してもらったりしては見たものの、効果は薄く、状況は悪化の一途をたどって行った。
そんな火消し作業を行っている最中に、2月に入り月も半分を過ぎようとしていた頃、更なる事件が発生した。
この事件は、本当に僕は、全く想定していない状況にただ戸惑うばかりで、月末の2月29日の準備どころではない作業に追われることに時間を費やすことになる。
その事件の発生は、2月14日の夕方過ぎのことだった。
どうやら、メディアに出るようになり、ちょっとした有名人となっていたことが原因で、チョコレートのプレゼントが山のように届けられるという事態が発生してしまった。
チョコレートは、かすみ と れいか の二人から貰うことしか想定しておらず、この日の放課後は、かすみの家で、れいか と三人で遊び、その時にもらっていた。
「一所懸命、かすみと作ったんだからね!」
「食べてみてよ」
かすみ と れいか にもらったチョコレートは、二人で一緒に手作りしたらしく、湯煎したチョコレートを丸くビー玉くらいの大きさに丸めて、ココアパウダーをまぶしたトリュフチョコで、可愛らしく作られていた。
「とても美味しいです」
お~い 俺 もう少しコメント膨らみませんか?
ボキャブラリ少なすぎませんかね。
とそこまでは、ほのぼのとしたとても良い日だったのだが、その後が大変なことになっていた。
かすみの家から帰ると、玄関先の道端で知らない女の子達が、数人待っていた。
学校にお菓子を持って行くことは禁止されているので、チョコを渡したい女の子たちは、放課後以降が渡せるチャンスだった。
ということで渡したい女の子たちが一度家に帰り、僕の家の前で待っていたらしい。
「かなたさん これ、もらってください」
「あ、ありがとうございます」
こんな感じのやり取りを数回繰り返し、かわいらしいラッピングの包みをいくつか受け取った。
受け取りながら、考えたのだが.....
これってかなりまずい状況ですよね。
ぎこちない笑顔を作りながら、その場を何とか切り抜けて、家の中へ逃げ込んでみると、玄関先にラッピングの山が待っていた。
これまで生きてきた人生で、これほどモテたことは無かったので、嬉しくないわけはないのだが、赤の宝珠のことが頭をよぎり、あまり喜んでいられなかった。
それからの数日間は、かすみとれいかへのアフターフォローに、時間を費やした。
「かなた たくさんチョコもらったみたいね!」
「・・・・・・」
翌朝、登校すると、れいかがちょっと怒ったように声をかけてきた。
もらってないと答えるわけにはいかない、どうやら裏は取っていそうだ。
こんな時、なんと答えるのが正解なんだろう? おしえて、師匠!
学校で、師匠と話せるわけもなく、言葉に詰まってしまった。
何と答えても、地雷を踏みそうで。
このまま、黙秘ってダメですかね。
周りの女子達も聞き耳を立てているので、れいかよりの回答をすれば、それ以外のチョコをくれた女子の反感を買いそうだ。
詰んでませんか?
やっぱり、黙秘します。私は、貝になりたい。
「なんとか言いなさいよ~」
「答えられないよ~ れいかちゃん 怒ってるみたいだし...」
そう答えるのが精いっぱいで、なんとかその場を切り抜けた。
そんなことも重なり、宝珠の光は満たされることなく、最初の2月29日を迎えることになった。
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