第10話 まとわりつく赤き噴煙

光を集める作業の上で、人生のやり直しによるデメリットも発生していた、鍛錬の宝珠だ。

勉強に関しては、すでに高2レベルとなっているため、授業内容にて、小学1年生の僕が新たに覚えることは無いに等しく、宿題をしたり授業を受けても宝珠が光ることはなかった。


このままだとまずいと考えた僕は、学校の勉強以外で知識を吸収する方法を探し始めた。

探すと言っても、良い方法を思いつかず、とりあえず図書館に行くことにした。ここなら、僕の知らないことがたくさんあることは間違いないと考えたからだった。


最寄りの市営の図書館に向かったものの、それまでの僕は読書家ではなく、教科書以外の本と言えば、夏休みの読書感想文用の学校指定図書くらいで、ほとんど本を読む機会のない少年だった。


市の図書館は、かなり大きく、入り口の自動ドアをくぐると、うっすらと本の香りがした。

はじめて訪れた僕は、その広さに面食らった。そこは、本の海だった。

整然と並んだ本棚が、無数にあり、その棚には、本がぎっしり詰まっていた。

どこに何があるかわからないため、受付カウンター横の案内図を見てみたものの、

本のジャンルが書かれた棚の群れがそこに書かれているのだが、どこから手を付ければ良いのか途方に暮れた。

小学1年生の僕の交友関係で、本と縁のある人物などそういるはずもなかったのだが、記憶の片隅に一人思い当たる人物がいた。

そう、同級生である未来の委員長こと、日野 れいか だ。

彼女は、いつも文庫本がカバンのなかに入っているような高校生だったことをを思い出していた。

さっそく、次の日に教室で、図書館の案内役をお願いしたところ、二つ返事でOKしてくれた。

彼女は、児童書のコーナーを中心に、よく図書館を利用しているらしく、いろいろと得意げに、楽しそうに僕に教えてくれた。

おかげで、利用方法を覚えるのにそれほど時間はかからなかった。

そんなこともあり、読んでみたい分野の本を読み始めることで、鍛錬の宝珠にも少しづつ光を溜めることが出来るようになっていた。


それから数日後、赤い宝珠から真っ赤な煙が吹きだした。

それはまるで、火山が爆発したときのような噴煙のようなものが吹き上がり、宝珠の天井にぶつかり深々と降り積もっていった。


まずい、まずい、何が起きている? 僕は、何をした?

この宝珠は、満たされないようにしなければならないと言われていた危険な宝珠だ。

考えては見たものの、理由は見つからない。この宝珠がいかにやっかいなものであるかが、なんとなく解った気がした。

いくら考えても答えが出そうになかったため、天神様にお伺いを立てることにした。


翌早朝、いつもの拝殿に忍び込み静かに待っていると、いつもと少し感じの異なる声が響き始めた。

天神様によると、かすみ のところに、れいか が遊びに来ていた時に、楽しそうに僕との図書館での出来事を話したことが原因とのことだった。

ん?ちょっと待ってくださいね。今の話のどこに問題があるんでしょうか?

僕は、鍛錬の宝珠の光を集めるために、日々精進しているだけだったのに。


「すまない。かなたよ。そちがいくら考えても答えにたどり着くことはないであろう」


そう言った天神様は、事の真相を語ってくれた。

ようするに、かすみ が れいか との図書館での出来事に嫉妬したことで、赤の宝珠が反応したらしいのだ。

え~~ 何ですと! そんな事あります? 僕は無罪ではないですか?

体の弱い かすみ にとって、僕と れいか との図書館での出来事は、とても羨ましい事であり、同じことが自分には出来ないという状況から、妬ましい気持ちが芽生えたということだった。


れいか との行動は、危険だと思うことにした。

なるべく接触しないようにしなければ、同じような事が頻発することが予測されるため、彼女と距離を置こうと心に固く誓った。


それからしばらくして、また、赤の宝珠が反応した。

まったく身に覚えのない状況に、頭をかかえた。

れいか 対策は、万全のハズだった。極力、彼女との接触を避け、過ごしてきたつもりだったのに。


そんなときの天神様ということで、いつものように相談に行くと、驚愕の答えが返ってきた。

今回の原因は かすみ では無く、接触を断っていた れいか にあるとのことだった。

僕が急によそよそしくし始めたため、れいか から何度か話しかけられた事があった。

しかし、接触を避けるために、その場では曖昧に答えて、そそくさと退散していたことが数回あった。

その れいか に対する行動により、彼女の気持ちの中に、僕に対する負の感情が芽生えたらしい。


もしかして、三角関係ってヤツですか?

これって、かなり高難易度のミッションじゃないですか?

正直、詰んでませんか?


どうやっても、赤くなり続ける宝珠の未来が脳裏に浮かび、天神様に泣きついた。


天神様によると、この宝珠は、対象となる人物との関係改善を図ることで、宝珠の状況をリセットすることが出来るとのことだった。


と簡単に言われたのだが、これってと~っても難しいんじゃね?

なんか断崖絶壁の上に張られた1本のロープを命綱なしで、渡らされているような状況なんですけど。


それからの数日間は、二人との関係を改善すべく努力をしては見たものの、余計に宝珠は赤くなり、小学1年生にして胃がキリキリ痛む日々が繰り返された。

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