第8話 三度目の出会い

次に目覚めたのは、三度目の小学1年生のハズだったのだが、何かが違っていた。

たしかに、小学1年生からのやり直しではあるのだが、そのクラスメイトに、かすみがいた。


どうしたことか、住んでいる町が、その時点からかすみと同じ町で暮らしていることになっていた。

それは、神様の粋な計らいによるものだった。

この世界ではおやじの転勤がかなり早まっており、僕が物心つくころには、この町で暮らし始めていたということだった。


「天神山の~♪丘の道~♪ はてなく続く~♪」


どうやら小学校の校歌のようなものらしかった。


こんな歌知らないんですけど~。

っと過去の自分に軽くつっこみをいれながら、みんなで歌っている僕がいた。

しかし、小さいころから育った記憶もちゃんとあり、知らないはずの歌詞が、口からスラスラと出てきていた。


学校の同級生の何人かは、高校にいたような気はするが、10年後の容姿とは、ずいぶん違っており、あまりに幼すぎてよくわからない状況だった。


ただ二人を除いては....


「かなた~ ちゃんと歌ってよね~」


一人は、腰に手を当てて怖い目をして、こちらを睨む未来の委員長こと、

日野 れいか その人だった。


やっぱり、いますよね~。かすみと幼馴染みって言ってたし...

それにしても、僕に対して、なんかちょ~慣れなれしいんですけど。


ちょっと、記憶を確認してみよう。

どうやら、未来の委員長とは、幼稚園の年中さんの時から一緒に通っており、

体の小さい僕は、彼女の保護対象(愛玩動物的存在)として、

ちょくちょくちょっかいをかけれていたようだった。


かすみはというと、体が弱いこともあって、小学校には、通い始めているが、

僕との接点は、まだ無い状態のようだった。


どんな風に会いに行くかを考えていると、授業の終わりのチャイムが聞こえた。


ちょうど冬休み前ということもあり、この日は、家まで持って帰る荷物がたくさんある状況だった。


相変わらず、めんどうみの良い未来の委員長は、かすみの分を届けるので、

荷物持ちを手伝えと言って来た。


「かなた~ どのくらい持てる?」


そんな僕に、拒否権はないらしく、荷物の分担の相談から話が始まるのだった。


自分の荷物で手一杯の状況に、さらにかすみの分までというのは、けっこう大変な状況でこまっていると、


「ちょっと待ってて。家に荷物置いてくる」


と言った彼女は、そそくさと自分の荷物だけ持って帰っていった。

彼女の家は、学校の裏手から見える川沿いのマンションらしく、10分で

空の手提げバックだけ持って、教室に戻ってきた。


さっさと、持って来たバックにかすみの荷物を詰め込んだ彼女は、


「お待たせ。じゃ~行こうか」


そう言って、教室を出て行った。


僕は自分の荷物を、なるべくランドセルに押し込んで、手提げバックに彼女の荷物を一緒に入れて、彼女の家に向かった。


学校の裏門を出て、通り沿いを西側にまっすぐ進むと、一つ目の交差点の角に、豆腐屋さんが見えてくる。

おからドーナツのおいしいお店だ。

交差点を左に曲がったその先に通っていた幼稚園があり、このお店は、何回かおやつを買ってもらっていたお店だ。

サーターアンダギーのような形をした丸いドーナツのような食べ物で、白い粉砂糖がたっぷりまぶしてあるだけの食べ物なのだが、その味は、とてもおいしいかった。


その豆腐屋さんを通り過ぎ、次の交差点の信号機を左折すると、向こうの正面に大きな石造りの鳥居が見えて来た。

天神山の入り口下にある交差点の所だ。

もくもくと歩いていると、ちょうど歩行者信号が青にかわり、渡り終えると、そこには子供二人の手では回らない程大きな石の鳥居の柱が建っていた。


見慣れた風景のはずだが、小学1年生の目線から見える景色は、少し違って見えていた。


中身の詰まった大きなランドセルを背負った僕は、何の罰ゲームかと思いながら、鼻歌交じりに楽しげに進む彼女に遅れないように、ついて行くのが精一杯だった。


大きな鳥居をくぐり、続く石段を登っていく、50段ほど続くその階段は、小学1年生には、けっこうな運動で、頂上につくころには息がかなり上がっていた。


休憩がてら後ろを振り返ると、さっきまでいた小学校の校舎が、夕日に照らされていた。


もうすぐ、かすみに会える。

何から話そう。そんなことを考えながら、もくもくと歩いた。


昇った先には境内が続いており、道なりに進んで行った。

左手に小さな赤い鳥居がいくつも並んだ小さな社を過ぎる頃、正面に赤い太鼓橋が見えてくる。


トン トン トン トン


木製の板を踏みしめながら橋を渡ると、すぐ右手に手水舎(ちょうずや)があり、見上げるその先に目的地の本殿が見えていた。


もうひと分張りと、見上げる階段を上りきったその先には、時間の流れが止まっていると感じられるような、いつ見ても変わらない赤い社がそこにあった。


先頭を歩く彼女は、本殿横の社務所の裏手の建物に進み、慣れたようにインターフォンを押した。


「かすみちゃ~ん。 来たよ~」


しばらく待つと、奥から誰か出てきたようだった。

少しあけた玄関からのぞくその顔は、小さなお人形さんのようで、しばらくぼーっと見つめてしまった。


そんな僕のランドセルを思いっきり、叩かれることで、ようやく固まっている自分に気づかされ、思わず目を伏せながら、こう切り出した。


「は、はじめまして。岸 かなたです。ど、同級生です」


「はじめまして。小日向 かすみです。よろしくお願いします」


かすみは、にっこり笑って僕を見ていた。


「かなた~。サンキュ~ね。荷物そこに置いといて」


そう言われた僕は、手提げに入った荷物を玄関先で、渡して帰ろうとしたその時に、かすみからきれいに折りたたんだ、手紙をそっと手渡された。


手紙を握り締め、神社の裏のランニングコースを急いで、家まで帰って行った。


その手紙には、こう書かれていた。


「明日の早朝、神社の拝殿にて待つ。 天神」

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