第6話 三種の神器

それからは、手紙のやり取りが続くにつれて、お互いが惹かれあい、手紙でのぎこちないやり取りも、普通に伝えられるようになって行った。

お互いのしたの名前もそのまま呼び合える関係となっていた。

あらためて、手紙にして良かったと思っている。

ちなみに今では、それなりの便箋と封筒を選べるようには、成長していた。


ああ、そうそうここらで歴史が変わったことについて一つ報告がある。

なぜだかわからないが、特に何かを変えた記憶はないつもりだ。

冬休み明けから、モテキが到来しているようで、まわりの女子たちに、騒がれはじめて、正直困ったことになったことは、手紙には書いていない。

これは、けっして自慢ではなく、ただの報告だ。

誰に報告しているかって?

はい、すみません。言いたくても言えない気持ちを何とかしたくて、いつもの日記に書いた内容を少しだけここに。



それから、無事小学校を卒業し、中学生となっていた。

前と同じように、バスケ部に入部し、30名ほどいた同級生たちも、地獄のような夏休みを終えるころには、9名まで減っていたのは、前回と変わらない状況だった。

辛い記憶は残っているもので、どんなことをどれくらいやらされたかは、けっこう覚えていた。

そのことを事前に分かっているというのは、こんなにも客観的に自分を見れるものかとかなり気持ちに余裕が持てる状況だった。


そんな夏が終わりを告げるころ、本題のかすみの救出方法が、具体的に分かってきた。

年明けの2月29日、うるう年のその日は、4年に1度だけという時間を調整するために設けられた日なのだが、どうやらこの日には特別な意味があるらしい。

うるう年の祭事には、いつもの年より1つだけ数を増やす慣わしが昔から伝えられているところが、何箇所か言い伝えとして残っているらしい。


準備するものは、3つ。

分かつ姿を映す神鏡。

魂を分かつための宝剣。

分けられた魂を封じる勾玉。


これらを準備し、月明かりを浴びた宝剣にて、神鏡に映る姿を切ることで、人ならざる魂を勾玉に封じることが出来るとのことだった。


手紙の情報によるとこんな感じなのだが、道具と場所は、かすみの神社ということで、その時に僕がその場にいれば、良いらしい。


準備らしい準備をしていた実感はなかったのだが、魂を鍛えることが、僕がやらなければならないことらしく、部活に打ち込む事が、鍛錬となっているとのことだった。


ちょっと、部活の話をしよう。

まぁ、部活をはじめた1年生の最初のころは、3年生が引退する(夏)までの間、ボール1個を持たされ体育館の2階のギャラリーにて、ただひたすらドリブルとランニングのメニューを延々と行う毎日だった。

これは、なんの修行かと思わずにはいられない日々だった。

いよいよ夏休みが始まり、新チームとなり1年生も体育館の床の上で練習出来るようになったその日から、地獄のような走り込みの毎日が始まった。

まず、体育館の4隅に椅子が置かれ、その椅子の外側をランニングすること30分、それから、笛が吹かれ3分間のダッシュが始まり、上位3名ずつ休憩できるというインターバル走のメニューが毎日のように続けられた。

全員で一斉に走るため、このメニューを去年こなしている先輩たちに、1年生が

遅れをとることは当たり前で、僕も2回ほど意識が朦朧とし倒れこみ、体育館外に担ぎ出され、濡れタオルにお世話になったことを覚えている。

この夏を越えることで、根性と持久力がついたのは確かだが、魂が鍛えられたかは、正直よく分からなかった。


部活に明け暮れる毎日が過ぎ去り、年も明け、予定の日が刻々と迫ってきていた。

1年ぶりに会える喜びに、少しウキウキしている僕の気持ちを悟られないように

いつもの調子で、手紙にお互いの近況を書いていた。


その日は、くもっていた。向かう先の天候は、昼から良くなるとの予報で、なんとか晴れること祈りながら、着替えを手早くすませた。

まだ薄暗くとても寒い朝方に家を出て、朝一の電車に飛び乗った。


平日のため、アリバイ作りが大変だった。

このころには、かすみの存在はおふくろにばれており、正直に彼女のことや、

彼女への気持ちを伝えたところ、おやじには内緒ということで応援してくれる

ようになっていた。

今回の学校への病欠による連絡等も引き受けてもらっていた。

それまでにおふくろには、度重なる事情聴取が行われたことを書いておきたい。


電車が、目的地に到着するころには、夕日が少し差しはじめていた。

また、この地に来たことを実感しながら改札をくぐり、かすみのところに足早に向かった。


鳥居をくぐり、神社の境内へと続く階段を上って行った。

かすみは、神社の拝殿で待っているとのことだったので、神社の正面から、くつを脱いで、上がって行った。

お賽銭箱の前までしか行ったことがなかったので、初めての上がった拝殿はとても厳かな雰囲気で、背筋がピンと伸びる感じがした。


かすみは、巫女姿で、何かに祈るように、そこに静かに座っていた。


どう声をかけるか少し考えたが、考えても答えは出そうになかった。


「かすみ、ただいま」


「かなた、おかえり」


振り返った彼女は、少しさびしそうに微笑んでいた。


彼女に用意してもらった衣装に着替え、日が暮れるのを待ちながら、これからしなければならないことの説明を受けた。


3つの法具は、祭壇に納められており、祭壇後ろに見える格子戸から入る月の光で、執り行うようだ。

その日の月の入りの時間は、ちょうど日付が変わるころで、残り時間は、あと4時間程度というところだった。


しばらくして、格子の影が薄暗い拝殿を照らし始めた。

かすみは、宝剣を祭壇から取りだし、三方さんぼうに載せ月の光が当たる所に置いた。

しばらくすると、つるぎの周りから淡い光が漏れ出し始めた。

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