第5話 手紙

ここまで話し終わると彼女は、僕との連絡方法について相談してきた。

今後のやり取りをどうするか?正直、僕は考えていなかった。

でもそれでは、困るので携帯でもあればと考えたのだが、親から支給されるのは、あと、3年半後の高校生になった時である。

う~ん。困った。


オーソドックスではあるが、手紙でやり取りすることを約束し、彼女の家を出た。

それから、来た道を帰りながら、手紙という手段を選んでしまったことに後悔していた。


手紙。存在は知っているが、正直書いたことはない。

このデジタルな社会で、メールのやり取りや、SNSでのコミュニケーションを普通に使っていた人間にとって、手紙を書くというハードルは、かなり高難易度のミッションだと感じた。


まず、便箋と封筒が必要だと思ったが、小学6年生にしてそのようなものは手にしたこともなく、購入するところから始めることにした。


近所の文房具屋に入り、便箋と封筒のあるコーナーで、本当にオーソドックスな便箋と封筒を買って帰った。


なんの装飾もない、横書きのアンダーラインのみの便箋に、何から書けば良いのやら、本当に困った。


カキカキ カキカキ ・・・ ゴシゴシ クシャッ

ゴミ箱には、丸まった便箋が積みあがっていた。


それでも、この手紙が届かなければ、彼女と話をすることが出来ないため、7枚目にしてようやく、送る手紙を書き上げた。

白い無地の封筒に、3ツ折にした便箋を入れて、彼女の住所と僕の住所を書いて、切手を貼り、郵便ポストに投函した。



<手紙>

こんにちは、でいいのかな?

手紙って難しいね。初めて書いたので、読み辛かったらごめんなさい。

この前は、会えてほんとうに嬉しかったんだ。

かすみちゃんを見た時に、正直ほっとした。

かすみちゃんのことを好きになっているみたい。

いきなりの名前呼びは、大丈夫かな?

出来れは、このまま名前で呼び合える関係になりたいんだけど...


あのとき、僕のことを知らなかったらどうしようとドキドキしながら訪ねたんだ。

同じ時の中を旅してくれていることが分かって、こんなに力が湧くものかと

気持ちが楽になったんだ。ありがとう。

かすみちゃんの気持ちを知りたいな。

どうして、僕を選んでくれたの?


p.s.

次のタイミングってまだ先って言ってたけど、いつなんだっけ?

何をすればよいか教えてね。

ではでは                         かなた



それからしばらくは、毎日ポストを確認することが日課となり、最近のその行動をおふくろは少し怪しんでいたようだった。

そんなある日、1通の封筒が届いた。

かわいらしい感じのキャラクターがプリントされた膨らんだ封筒だった。


いそいで、部屋に入り封を開けた。

中には便箋と一緒に、1枚の絵が入っていた。

色鉛筆で描かれたその絵は、彼女の家の玄関先に立っている僕の絵で、ちょっとびっくりしたようなでも優しい笑顔の僕がそこに立っていた。



<手紙>

こんにちは、ってことにしますね。

かなた君のお手紙、とてもとても嬉しかったです。

一所懸命書いているかなた君を想像しながら読ませてもらいました。


私の気持ちが知りたいって、ことで絵を1枚描きました。

この絵は、私が かなた君への思いを込めて描いたものです。

文字にするとうまく伝えられない気がして、絵にすることにしました。

もう一枚は、5年後に描くあの絵かな?

あの絵のほうが、もっと気持ちが入っているようなw


でも、このことは書いておくね。

私は、長い時を過ごせる存在だから、人ではないよね。

こんな私を信じてくれて、一緒に行くと決断してくれて、

ほんとうに、ほんとうに、ありがとう。

私は、長い時の中で、あなたが訪れるその日を待ち続けていました。

あなたのその特別な心に惹かれました。

あの日からあなたは、私の特別になりました。

かなたさん、私もあなたのことが、好きです。


p.s.

次のタイミングは、2012年の2月29日です。

あと、1年ちょっとあるので、これから準備しようね。

じゃ~また。                     かすみ



手紙を読み終えた僕は、心がとてもすっきりしていた。

少しだけあった彼女への畏怖の念や、

誰でも良かったのではないか?という勘ぐりや、

そんな負の感情がいっぺんに吹き飛ばされていることに気づいた。

彼女も僕と同じように不安だったのだ。

これから、彼女の力になるために、頑張ることを心に決めていた。

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