第4話 今、会いにゆきます
あの返事のあと、彼女から聞かされた話しでは、とても信じられるような内容ではなかったのだが、あの赤い瞳に見つめられると、どんなことでも信じられるような気がしていたことを覚えている。
彼女の話によると、特別な力を持って生まれた代償として、弱い体を持ってしまったこと、寿命が尽きかけていること、尽きかけた寿命を延ばす方法が存在すること、時間をさかのぼり、ある時点からやり直しが出来るパートナーを探していたこと、そんなことを一つ一つ丁寧に話してくれた。
その話しの最後に、僕も一緒に、死ぬことを告げられた。
彼女が死んだ7日後に
そして10年前の同じ日の自分の意識の中に、この記憶を持ったまま、時をさかのぼることが出来るということらしい。
10年前って、小学校1年生の冬からのやり直しの人生ってことのようだった。
高校2年生までの記憶を持ったまま、人生をやり直すことが出来る、その10年間を使って、彼女を助けて欲しいとのことだった。
ちょっと待て、小学1年生の男の子に何が出来ると言うのだろうか?
そんなこんなで始まった2周目の人生は、あまり変わり映えのしないものだった。
彼女いわく今回は、お試し期間だと思って気楽に人生を振り返って欲しいと言われていた。
自分の記憶の悪さをこれほど、呪いたいと思うことはなかった。
彼女になるべく早く会いに行き、助ける方法とかタイミングとか色々聞き出さなければならなかったが、その時までに5年もの歳月が流れていた。
毎年のお年玉をコツコツ貯め、移動の旅費代を捻出出来たのは、小学6年生の冬のことだった、冬休みに入るクリスマスの次の日に、僕は一人で、彼女の住む町まで、出かけることにした。
ソフトボールのチームメイトのゆうき君の家に、お泊りするという嘘を、ゆうき君にお願いし、1泊2日の電車の旅に出かけることにした。
目的地までの子供用の半額切符を買い、駅の自動改札を抜けて、目的のホームまで階段を昇り降りし、ずんずん進んで行く。
早朝のホームは、人気もなくガランとしており、目的の電車は、扉を開けて止まっていた。
カバンの中のノートを開き、出発時刻とホームの番号を確認し、電車に飛び乗った。
しばらくすると出発のメロディーがなり、コンプレッサーの音とともに扉が閉じ、ゆっくりと、電車が動き始めた。
電車は、ほぼ貸し切り状態で、どこに座ろうかと考えた。
見える景色を楽しもうと先頭車両まで行ってみたが、身長が低いため、理想の景観が見える状態ではなかったが、しばらく立ったまま、前に伸びる線路と飛び出してくる景色を眺めていた。
高校2年生までの記憶を持つとはいえ、これだけ長い電車の旅は経験なく、正直びびっている状況だ。
電車の中で特にすることもないので、外の風景をしばらく眺めていたが、退屈になってきたので、少しこれまでの5年間を振り返ってみようと思う。
1年生からやり直した僕は、正直、反則級に勉強が出来た。
記憶が曖昧なのは、どうしようもなかったので、次のループのために、
毎日、日記をつけることにしていた。
その日あった事、誰とどこに行って、何をしたかをなるべく具体的に書き出すように心がけた。
特にやり直したいと覚えている出来事もあまり思い浮かばないため、もう一度、同じ人生を振り返りながら、特に過去を変えることなく過ごしてきていた。
とはいいながら、学業の成績がとても良くなったのはご愛嬌ということで。。。
おやじから、勉強について口うるさく言われることがなくなったのは、過去改変になるのかな~?
あ、一つだけ思い出した!一つだけ、変えました。
それは、6年生の時のソフトボールの試合だ。
県大会の2連覇がかかった準決勝。
最終回の5回の表、4対3で1点差を追いかける大事な場面。
2アウト2ストライク1ボール、僕は、3塁にいた。
ここで、監督が、サングラスを外した。
ホームスチールのサインだ。
ピッチャーの手からボールが放たれると同時に、僕はベースを蹴った。
投げたボールは、外角の高めに外れた。
「ボール」
審判の声が響いた。
ソフトボールのホームスチールは、リードを取ることが出来る、野球のホームスチールと違い、かなりギャンブル性の高いプレーだ。
ピッチャーの投球後、ある程度離塁をし、キャッチャーがピッチャーにボールを戻す瞬間にダッシュする。
過去のこの場面では、ホームスチールをキャッチャーに気づかれ、ピッチャーにボールを返すモーションにひっかかり、ダッシュしたところで、あっけなく塁間で挟まれアウトとなっていた。
今回は、それを踏まえてのリベンジだったのだが、キャッチャーは気づいているので、挟まれる想定までは、変えられない。
挟まれるプレーにて、勝機を見出すしかない。
挟まれることが分かってプレーしてみると、前回と異なり、冷静に周りが見えていた。
三塁手とキャッチャーが、ボールを持ちながら、逃げる僕との距離を詰めてきた。
なるべくホームベース側に追い込まれたるように数回、往復を繰り返した。
キャッチャーが三塁手にボールを投げた瞬間に、ここを勝負と決め、思いっきり地面を踏ん張り、ホームベースに向かって反転ダッシュをした。
慌てた三塁手のボールが、少し外側にそれた。
タイミング的には完全にアウトだったが、かまわず走りこむ。
キャッチャーミットが、横一線に振られ、僕の胴体を捉えようとしていた。
走りこみながら、キャッチャーのほうを向き、お腹をひっこめ、エビのようなポーズをとり、ギリギリでかわした。
ミットが、ユニホームの外側数センチの空を切った。
そのまま、転がりながらホームベースに手をついた。
「セーフ」
なんとか同点になった、ここから先は未知の領域だったが、
裏の最終回も何とか0点におさえ、判定戦に持ち込み見事、勝利。
決勝戦もその勢いのまま勝利し、V2を達成した。
プロの超一流のプレーしか褒めない、おやじに初めて褒められた。
どうやら、その時、おやじは泣いていたらしい。
僕も、嬉しかったことを覚えている。
僕にとっての最大の過去改変だ。
そんなことを思い返しつつ、電車を乗り継ぎ、目的の町に到着した。
前回の人生では、あと5年後にこの場所に移り住むことになるのだが、5年前に訪れたこの地も、それほど変わっておらず、彼女の住む神社もそこにあった。
裏手の社務所のインターホンを押し、ドキドキしながら待っていると、小学6年生の彼女が玄関から顔を出した。
やっと、会えた。そこには、赤い瞳のかわいらしい彼女がいた。
真っ直ぐ見つめるその瞳は、変わらず深く静かに僕の心を覗いているようだ。
「あ・あの・・・」
「変なことを言ってしまいますが、聞いてください」
少し時間をおいて、僕はそう切り出した。
彼女は、にっこり微笑んで、こうつぶやいた。
「おかえりなさい」
「この人生は、どうですか?」
彼女は、知っていた。僕が人生をやり直していることを。。。。
それから彼女の部屋で、しばらく話をした。
そこでは、高2の時に聞いた話(これから5年後の話)の続きを聞かされることになった。
彼女の話によると、こんな感じの話だった。
彼女も同じくループしていること、
実は僕よりも前からループしていたこと、
僕と出会うことを心待ちにしていたこと、
5年後の彼女と僕の人生を続けるために、必要なタイミングが2回存在すること、
そのうちの1回はもう過ぎてしまっていること、
彼女は1000年周期で、時の狭間に閉じ込められてしまうこと、
その狭間から抜け出すには、パートナーが必要であること。
1000年前の彼女というと、時は平安時代、藤原道長が摂政となり全盛を誇っていた時代で、竹取物語のモデルとなる主人公のような人生を送ってきたことを、さらりと言ったときには、開いた口が塞がらなかったことを覚えている。
彼女は、人の体を借りてはいるが、その期間が限られており、
ずっとこの世界を見続けるように定められた存在とのことだった。
1000年単位で代替わりすることが出来るようで、この1000年もの長い時の中で、時代の移り変わりをずっと見守ってきたということだった。
なんかとんでもない話をされているようだったが、人生をやり直している僕には、この話が、嘘ではなく真実であることを理解できる状況となっていた。
高2の時に話さなかったのは、このタイミングで話すほうが良いことを知っていたから、あの時には、ここまでの話をしなかったとのことだった。
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