第2話

ウルトラハイパー困った。というのも、目の前で男の人がぶっ倒れたのだ。

私は大学一年生で、今は春学期最後の一限の授業に向かっているところである。遅刻したことはない。皆勤賞は目前だ。遅刻したくない。遅刻という概念は私にはない。でも、人が…倒れた……目の前で…木の葉が地に落ちるように、崩れ落ちた……「モモコ!!!」「ちがう!トウコ!」ぱーん!

トウコを呼び出し相談することにした。私は脳内で、トウコに潰されたほっぺたをさすりながら、トウコに助けを求める。

「目の前で人が倒れた。トウコ、どうしよう」

「知ってる!助けなきゃ!死んじゃうかもしれへんで!」

「でも遅刻しちゃう…。あとなんで関西弁なの」

「パッと助けてパッと大学行けば間に合うよ!パッ!パッ!分かる?!パッ!パッ!パッ!パッ!」

「分かった。助けようパパッと」

「ちがう!パッ!パッ!」

私は男の人を助けることに決めた。

「大丈夫ですか?」

うつ伏せに倒れた男の人をパッとひっくり返しながら尋ねる。

「あ……」

男の人が薄く目を開ける。なかなかのナイスガイである。さっぱりとした黒髪短髪で、瞳は透き通った薄い栗色。

「大丈夫です…ただの貧血なので」

男の人が弱々しげに呟く。頬は青白く桃饅頭さが微塵もない。

「あと3分くらい!」

脳内にトウコの大声が響く。私はハッとして男性の頬から視線を逸らす。

「大丈夫なんですね。それは良かった。では!」

私は男の人をその場に寝かせたまま、申し訳程度にハンカチをおでこに乗せて、パッと立ち上がり大学へ向かって走り出した。

「完璧や! パッ!パッ!の動きが完璧にキマっている!このまま皆勤賞はいただきやー!!!」

トウコの歓声(謎に関西弁)を聞きながら、人を助けた満足感と、遅刻せずに済みそうな安心感で、私は柄にもなく笑顔を浮かべて大学への道を全力疾走した。

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