EX55 鍋パーティと今後の動向 両アイリスは鍋に触るなっ!


 古城の食堂。

 今日はテーブルも椅子も全部片付けて、食堂内に3つのカマドを作った。

 そして大きな鍋をそれぞれのカマドで火にかけている。

 そう、今日は《月花》鍋パーティの日だ。


「さて諸君、もうすぐ雪解けの季節だけど」アスラが言う。「そうなったら、私らの仕事も本格的に始動する。まぁ今までも仕事はあったがね」


 冬は割と、みんな大人しいのだ。

 ただしスカーレット以外。スカーレットは周辺諸国を飲み込み、すでに中央フルセンの3割ほどを手中に収めている。

 食堂には《月花》の全団員が揃っていた。


「そろそろスカーレットの侵略に対して包囲網が組まれると思うし、もしかしたら私らに仕事が回ってくるかもしれない。内容と金額によっては請けるつもりだよ。スカーレットを殺してくれ、とかはドーラが膨大で無理だけどね」


「よっしゃ!! 戦争だ!!」


 新入りの少年、ロイク・メゾンが言った。

 ロイクは17歳の少年で、空色の髪をミディアムウルフレイヤーに整えている。割とオシャレさんだが、顔立ちは普通より少しいい程度。

 だが髪型がかっこいいので、雰囲気だけはイケメンだ。


「君はまだ見習いだし、連れて行くとは限らないがね」


 アスラが肩を竦めた。


「はぁ……団長様、美しいですわ。ペロペロしたいですわねぇ」


 もう1人の新人、グレーテル・ブリュームが言った。

 グレーテルは21歳の女性で、今年22歳になる。

 クリーム色の髪の毛をマッシュミディアムの形にしている。分かりやすく言うと、キノコみたいな髪型である。

 身長や体重は普通の女性と大差ない。やや筋肉量が多いぐらい。

 胸は大きくはないが、揉むだけある。

 顔は割と綺麗な方だが、アスラやアイリスに比べたら落ちる。


「……ロリコンを真っ直ぐぶつけるの、やめてくれるかな?」


 アスラが苦笑いした。

 好かれて悪い気はしないし、今のアスラは少しだが性欲もある。

 あまり強引に迫られると、チョロっと寝てしまいそうなアスラである。


「あら? でもわたし、団長様が絶世の美少女と聞いて、入団を希望しましたもの」


 グレーテルはニコニコと言った。


「待って!」レコが言う。「それより団長見て! アイリスが鍋に何か入れてる!」


 レコがアイリスを指さし、みんながアイリスを見た。


「ほえ?」


 アイリスはなんでみんなが自分を見ているのか、よく分からなかった。

 だが手を止めることはなかった。

 アイリスはチョコレートを鍋に放り込んでいる。しかも結構な量をすでに投入済み。

 団員たちに激震が走った。


 鍋に、チョコを、平気で入れるだと!?


 アスラはアイリスをビシッと指さして言う。


「ティナ送り! 君はティナ送り!! 今すぐ!! そして2度と鍋に近寄るな!!」


「ええ!?」アイリスはビックリして言った。「なんで!? あたしが何したって言うの!?」


「アイリス、鍋にチョコを入れてはいけませんのよ? しかも誰にも何も言わず、当然みたいに入れてはいけませんのよ?」


 ティナが無表情で言った。割と怒っているのだ。

 そしてティナは椅子を持って来てそこに座り、自分の膝をポンポンと叩いた。

 アイリスはションボリしながらスカートを下ろし、パンツも下ろした。


 その行為に、ロイクは頬を染めた。

 正常な17歳の少年であるロイクは、美少女のアイリスが平気で尻を晒したことに心から驚くと同時に、目を逸らせなかった。


 同時にグレーテルも驚いた。

 美少女英雄と名高いあのアイリスが、みんなの前で尻を晒す。その行為に心底から驚き、同時に神に感謝した。

 グレーテルの射程範囲は広い。美しい女の子であれば、基本的にはみんな好きである。

 よって、サルメやイーナのことはあまり好きではない。ジメジメした雰囲気のブリットに至っては嫌いまである。あくまで見た目の話だが。

 とにかく、美少女英雄の生尻を見て、グレーテルはたいそう興奮した。


「驚いているようだけど」ラウノが言う。「あんなの、拷問訓練に比べたら屁でもないからね?」


 アイリスがティナの膝に腹を乗せる。

 ティナがアイリスの尻を叩く。凄い音がして、アイリスが仰け反りながら「ぎゃっ!」と無様な悲鳴を上げた。

 全然可愛くない悲鳴だった。


「君たちも、いずれ拷問訓練を受けるんだよ……ふふふ」


 ラウノの瞳はレイプされて絶望した女性のように光がなかった。

 すでにラウノとアイリスは拷問訓練を終えている。


「みんなの前で、ケツの穴に棒を入れられてね……ふふ」ラウノが虚ろな口調で言う。「すごい屈辱だけど、むしろすごく痛いんだよ……ふふ。今の僕たちは、僕とアイリスね? 町中を全裸で歩けるぐらいには、羞恥心がぶっ飛んでるよ?」


 ラウノの言葉で、ロイクとグレーテルの表情が青くなった。

 アイリスの生尻を楽しむ余裕が消えてしまったのだ。

 バシン、バシンと連続で叩かれるアイリスに、サルメが近寄る。


「アイリスさん、仲間ですね。大丈夫、数日痛いですよ? ええ、座るだけで飛び跳ねそうなぐらい、痛いですよ?」


 経験者語る。

 自分が叩かれるのは嫌だが、アイリスが叩かれているのを見るのは、割と楽しいサルメだった。

 5発ほど叩いた時点で、ティナがアイリスの尻をモミモミする。

 それはもう、至福の表情でモミモミする。

 ちなみにそのモミモミも、ダメージを受けた尻にはかなり痛い。

 ティナはしばらくモミモミしてから、アイリスを膝から下ろした。


「まぁこんなもんですわね」


「そんな!?」サルメが言う。「気絶させないんですか!?」


「サルメほど悪いことはしてませんわ。何事もやりすぎはダメですわ」


 うんうん、とティナが頷く。


「……めちゃくちゃ痛いぃぃ」


 グスン、とアイリスはパンツを上げてスカートも履き直した。

 すでに拷問訓練を終えているので、泣き叫んだりはしなかったが、痛いものは痛いのである。

 その後、アイリスは普通にチョコ鍋を食べていた。好奇心で他の団員たちもチョコ鍋を少し食べたので、鍋が残ることはなかった。


「さて、そろそろラウノとアイリスには正式な魔法兵になってもらおうかな」


 アスラが言った。

 みんなの視線がアスラに。


「近く魔法兵基礎訓練課程、改め、魔法兵認定試験を行う」


 合格したら、ラウノとアイリスは正式な魔法兵である。

 アイリスは団員ではないけれど、ラウノはこれに合格すれば正規の団員となる。


「いいなぁ! 私も早く受けたいです!」

「オレも! オレも早く受けたい!」


 サルメとレコが羨ましそうに言った。


「今回は色々1度に試せる面白い試験を思いついたんだよね」


 アスラがニヤッと笑った。

 ラウノとアイリスは嫌な予感がした。


「君たち2人を大森林に捨ててくるから、自力で拠点まで戻れ。それができたら、まぁ一人前だろう?」


 一歩間違えば、普通に死ぬ。

 あまりの過酷さに、アイリスとラウノは顔を見合わせて笑った。

 笑うしかなかったのだ。


              ◇


「てんめぇぇ!!」アクセルが叫ぶ。「鍋に何入れてやがるぅぅぅ!!」


「え? チョコレートだけど?」


 スカーレットは鍋にチョコを放り込んでいた。


「ざけんじゃネェぞテメェまじでコラ!! 俺様、そっちの鍋は食わねぇからな!?」


 鍋を2つ仕掛けていて本当に良かった、とアクセルは思った。

 ここは神王城。スカーレットの部屋。かなり広い部屋だ。

 その部屋の中心で、2つのカマドに鍋がかけられていた。


「いいわよ別に。メロディは食べるでしょ?」

「……修行だと思って食べる」


 メロディはコクンと頷いた。


「食後のデザートかと思ったよ僕は」ナシオが引きつった表情で言った。「まさか鍋に入れるなんて、誰も思わない……」


「まったくだ」エステルが頷く。「上司でなければ体罰ものだ。いや、割と本気で」


 スカーレットの部屋にいるのは、スカーレット、メロディ、アクセル、ナシオ、エステルとクロノス。

 まぁクロノスは静かに佇んでいるだけだが。


「チョコレート入れただけで体罰とか、これだから中央脳は」


 スカーレットがやれやれと肩を竦めた。

 若い自分が別の場所で普通に体罰を受けたことを、スカーレットは知らない。


「つか、俺様がテメェらと鍋を囲むとはな」アクセルが言う。「来年にはまとめてぶっ殺すからそのつもりでいろよ?」


「私もか?」とエステル。


「そりゃテメェの選択次第だぜ?」

「英雄としての義務は果たしているつもりだが? 私はそもそも神聖十字連の所属。神王様の命令に従うのは特に何の問題もないはず」

「まぁそりゃそうなんだがな……」


 いまいち、納得のできないアクセルだった。

 アクセルは自分の仇討ちを自分で差し止めている状態なので、エステルは本当に何も違反していない。


「それよりちょっと真面目な話」ナシオが言う。「自由都市国家の人たちどうする? とりあえずそこまで侵攻したらしばらく内政だろう?」


「ええ」スカーレットが言う。「面倒だからあたしが行って殺してこようか?」


「バカかテメェ」アクセルが言う。「無抵抗の市民だろうが。殺していいわけねぇ」


「賛成」メロディが言う。「戦意のある人と戦えって言うなら、私は戦うし、戦争に参加しろってお姉様が言うなら参加する。でも、無抵抗の人とは戦えないよ、私」


「私も同意見です。将軍たちも兵たちも同意見です神王様」エステルが言う。「時間をかけて話し合いでの解放を望みましょう」


「なんでよ? 殺せば早いでしょ? 人間の鎖だっけ? お手々繋いで無抵抗ですって? でも侵略は受け入れないって? アホなんじゃないの? 踏み潰せばいいでしょ?」


 前の世界で、スカーレットに逆らう者はいなかった。

 スカーレットが踏み潰せと言えば、必ずそうなった。


「テメェは俺様を殺したクソ女だけどヨォ」アクセルが言う。「それでも、世界をよくしたくて、統一目指してんだろうが。その思想には反対してネェよ。だが、虐殺なんかするなら、テメェの理想は嘘っぱちのクソ塗れだぜ」


「その通りです神王様」エステルが言う。「ある程度の犠牲は仕方ないでしょう。ですが虐殺は違う」


「生意気ね、あんたたち」スカーレットが目を細める。「全員、あたしに手も足も出ないくせに。もう1回、誰がご主人様か分からせてあげようか?」


「まぁまぁ」ナシオが言う。「ここはどうだろう? 汚いことは汚いことをする専門家に任せてみては」


 ナシオの言葉に、スカーレットが首を傾げる。


「アスラか……」とアクセルが苦笑い。


「ああ!」メロディが何かを思い出す。「アスラたちに会いに行くって話が流れてたね! そういえば! そうそう! 私はティナと勝負するんだった!」


「なるほどね」スカーレットが頷く。「この世界を変えたアスラ・リョナと傭兵団《月花》。どれほどのものか、見るのもいいわね」


「よし、じゃあ決まり。僕とメロディで行ってくるよ。明日にでも」


 ナシオはノリノリで言った。アスラに会えるのが嬉しいのだ。


「依頼内容は、自由都市国家をイーティスに編入すること」スカーレットが言う。「方法は任せるし、陣を張っている部隊を好きに使っていい。お金はいくらでも払うわ。まぁ、皆殺しが早いでしょうけど、どうするのかしらね?」


「……いや、皆殺しだろうな……」とアクセル。

「皆殺しだな」とエステル。

「アスラ、私たちみたいな良心ないもんね」とメロディ。


「だとしても、やったのは傭兵だよ。僕たちの評判には大きく関わらない。だって、依頼内容は編入だもの。皆殺しにしろなんて頼まないからね」


 ニヤニヤとナシオが言った。


「皆殺しが嫌なら、君たちは」ナシオがアクセルとエステルを見た。「直接アスラに頼みに行くことだね。この案件はもうスカーレットの手を離れた」


「ま、あたしは評判なんでどうでもいいけどね。逆らう奴は殺せばいいし」


「そんな恐怖政治、長く続かねーよ」アクセルが言う。「世界を統一して、そんでお前がいなくなりゃまた瓦解だぜ?」


 スカーレットも、そのことには前回も頭を悩ませた。

 自分がいなくなったら、愚かな人間どもはまた分裂して争うに違いない。

 それをどう防ぐか。未だ答えは見えていない。

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