EX48 拝啓、ジオネ家ご当主様 団員の弱点について最初の報告
執事のヘルムートでございます。
この度、わたくしめは傭兵団《月花》への潜入に成功いたしました。
さて、早速ではございますが、現時点で分かっていることを報告いたします。
お望みの弱点について、重点的に。
まず団長のアスラ・リョナについて。
ハッキリ言って、頭がおかしいです。
頭の回転は速く、実力も高い上、信じられないかもしれませんが、人望もあります。
常に冷静沈着で、他人の心を読み、そして操ります。非常に危険な人間です。
ただ、弱点も多いです。
まず第一に、性格が大雑把すぎること。緻密なようで、実は大雑把。わたくしめを仲間にする際も、特に深く考えずに仲間にしました。
妙なことをしたら殺せばいいし、という考えです。それはつまり、わたくしめが何をしても通用しないという驕りであり昂りでしょう。
あるいは、最悪の可能性ではありますが、一切の驕りなく、冷静にわたくしめを観察している可能性も捨てきれませんが。
他に弱点となりそうなのは、変態であることでしょう。そう、アスラ・リョナは実はマゾなのです。
噂を聞くだけであれば、生粋のサドであるように思えますが、実は逆です。自分がされたい残虐行為を他人にしている節さえあるとのこと。
団員たちがみんな口を揃えてそう言っていましたので、間違いないかと。
更に、アスラは女性が好きとのこと。この性質を上手く突けば勝ち目があるのでは、と思えます。
そちらで有効な策をお考えください。
次に副長のマルクス・レドフォードについて。
完璧超人です。パッと見、完璧超人に見えます。筋肉をこよなく愛しているようですが、同時に魔法も愛している。
実力も人望も高く、ここから崩すのは難しいかと思います。
弱点となり得るのは、純潔の誓いぐらいでしょう。突けるのは25歳にして童貞というその一点のみです。
大人の女が好みとのことですので、有効な対策はそちらでお考えください。
次にユルキ・クーセラについて。
弱点だらけのように見えます。が、実力は高いですね。人望もなさそうであるという感じでしょうか。親しみやすいタイプ、とでも言いますか。
とりあえず女が弱点です。美人を数人使えば簡単に誘惑できそうですね。まぁ、《月花》を裏切ることはないでしょうが。
そちらで有効な策をお考えください。
◇
ヘルムートの手紙を読んだジオネ家の当主は、上位3人全員、女が弱点じゃないの、と苦笑いした。
◇
では次はイーナ・クーセラについて。
他人を痛めつけるのが好きなタイプで、ドラゴンに恋をした変人です。目付きが悪いですが、笑えばそれなりに可愛らしいお嬢さんですね。
人望はあまりないですね。部隊の隊長を務めるには、もう少し経験と精神的な成長が必要でしょう。
よくイタズラをしていますね。水に砂糖や塩を入れたり、ブーツに砂を入れたりと、可愛らしいものです。
さて弱点ですが、痛みに弱いです。と言っても、《月花》の中では、という意味に過ぎません。
ちなみに人間嫌いなので、男で誘惑は不可能でしょう。
実力は高いので、攻略するのは難しいかと思います。
次はラウノ・サクサ。
危険すぎてほぼ会話を交わしておりません。話すだけでわたくしめの正体が見破られる可能性すらあります。
あまり知られていないと思いますが、ラウノは他人の思考に共感する能力があります。魔物たちの固有スキルに匹敵するほどの能力で、極めて危険。
こちらが何を考えているか、全てバレてしまいます。
絶対に攻略不可能だと断言します。ラウノには触れないようにした方がいいでしょう。
あと、人望は団長の次に高いです。みんなラウノが好きです。顔がいいので、特に女子人気は高いですね。
一応、弱点らしい弱点もありますので、記載しておきます。
妄想の妻と会話しています。ええ。割と頻繁に。要するに、病んでいるのでしょう。
まぁ、どうであれ、ラウノ攻略は諦めた方がいいかと。
サルメ・ティッカについて。
勝手な行動をしてお仕置きされるお笑い要員。
最近は毎晩、尻を叩かれて泣いています。ちなみに、今ご当主様が想像した百倍の威力で叩かれておりますので、誰でも泣くかと思います。
あの強烈な攻撃に耐えられるのは、大英雄のアクセル様ぐらいでしょう。
それ以外は特筆する点のない、平均的な少女でしょう。実力が低いので、狙い目ではあります。
弱点は痛みに弱いことですが、むしろ弱点だらけでしょうね。《月花》攻略の糸口としてオススメです。
レコ・リョナについて。
アスラ・フェチという新たな性癖のパイオニア。
ファミリーネームがアスラと同じなので、弟かと思いましたが違うようです。
アスラに婿入りしたのだと本人は主張していますが、アスラは女が好きなのであまり相手にしていない様子ですね。
性癖は狂っていますが、優等生ですね。サルメと同期のようですが、対照的です。
まぁ実力はサルメとほぼ同じですので、そういう意味では狙い目でしょう。
よくアイリスの胸を揉んで叩かれています。まぁ、レコはそれさえ楽しんでいる節がありますが。
むしろアイリスの弱点がレコなのかもしれません。
レコに特筆すべき弱点はありません。
さて、ここからは総務部について書きます。
◇
「じーや! じーや!」
ヘルムートの部屋に、メルヴィが入って来た。
ヘルムートは手紙を書くのを止めて、微笑みを浮かべた。
「これはこれは、メルヴィお嬢様。どうかしましたか?」
「お散歩、行きませんか!」
メルヴィはとっても楽しそうに言った。
あまりの可愛さに、ヘルムートの頬が自然と緩む。
天使かな?
「しばらくお待ち頂けますか? 現在、手紙を書いている最中であります故」
「うん! あたし待ちます!」
メルヴィはベッドに座った。
◇
総務部に所属するメルヴィ・ノロネンについて。
説明不要、かつての大貴族の生き残りです。
もしも、の話をいたしますが、もしご当主様やその仲間がメルヴィを傷つけた場合、わたくしめは全力を賭してみなさまをくびり殺すと誓います。
かつて英雄と呼ばれたわたくしめの、双剣のヘルムートの名にかけて、必ず殺します。
メルヴィに手を出せば、わたくしめの怒りに触れるとお考えください。
それと、当然ですがそちらで保護しているわたくしめの孫も同じです。ケガの1つでも負わせたら、この世の地獄を味わわせて差し上げます故、大切にしてくださいませ。
では次にブリット・ニーグレーンについて。
不思議なスキルを使う人物ですが、どうやら魔物のようですね。驚くべきことに、《月花》はドラゴンだけでなく、人型の魔物も仲間に引き入れているというわけです。
最上位の魔物ということですので、手を出すのは危険かと思います。
弱点はメンタルの弱さでしょうか。いつもビクビクしていますね。割に口が悪いですが。
頭も良くはなさそうですが、悪くもない。ラウノを愛しているようです。
次は総務部のボスであるティナについて。
尻が好きで好きでたまらないようです。とにかく3度の飯より尻が好き。サルメをお仕置きしていたのもティナです。
毎回、尻について熱く語っているのですが、あまり共感は得られていないようですね。
時に叩き、時に揉み、時に撫でるのだと言っていました。
ティナはどうも、不思議な生い立ちのようですね。しかしあまり語られないので、詳しくは不明です。
ただ、強いです。最上位の魔物であるブリットがティナを自分より上の存在として見ています。
ティナもまた、最上位の魔物なのではないか、とわたくしは推測しております。
手を出すのは危険かと思います。
弱点は尻が好きすぎることでしょうか。尻の綺麗な女性、または男性を使えば誘惑可能かと思います。
もし誘惑作戦を取るなら、尻を叩かれても大丈夫な者なら更によいでしょう。ティナはサディストというわけではないのですが、尻を叩くのが一番好きなようですので。
次はアイリス・クレイヴンについて。
かなり不満を溜めているようですね。元々、大英雄の命令で《月花》を監視するために潜入したようです。
それなりに団員たちとも仲良しですし、思考がまともなので突っ込み役として落ち着いています。
が、よくアスラとぶつかっています。説得すれば仲間に引き入れることも可能でしょう。そのぐらい、不満を抱えています。
ここが最善手でしょう。アイリスを口説くのが良いでしょうね。戦力としても申し分ないでしょう。
以上となります。
引き続き潜入を続けますが、明確に期間を決めて頂きたい。
何日潜入すれば、孫を返してもらえるのか。
ちなみに、《月花》は手紙の検閲を行っていないので、そのまま普通に返信頂いて大丈夫です。宛名をわたくしめにしておいてください。差出人名は孫の名前にでもしておけばいいでしょう。
それでは失礼します。
◇
ヘルムートはメルヴィと手を繋いで、城の庭を散歩していた。
そうすると、ゴジラッシュに乗ったアスラ、ラウノ、サルメが帰還した。
「団長様! おかえりなさいませ!」
メルヴィが走って寄っていく。その時に、繋いだ手が解かれたのでヘルムートは少し寂しい気持ちになった。
「やあメルヴィ、出迎えご苦労。今日も可愛いね。今度リボンを買ってあげようね」
アスラはデレデレとメルヴィの頭を撫でていた。
気持ちは分かりますぞ、とヘルムートは思った。
「メルヴィはだいぶ明るくなったね」ラウノもメルヴィの頭を撫でた。「いいことだね。君みたいな子は、笑顔がよく似合う」
ラウノの微笑みに、メルヴィが頬を染めた。
なんということでしょう。ラウノのスマイルはまだ7歳のメルヴィにも通用してしまう。40歳を超えたエルナにも通用していたし、天然の女たらしだ、とヘルムートは思った。
それでも、ラウノ自身は死んだ妻一筋なので好感が持てる、とも思った。
「サルメお嬢様も無事で良かったですね」ヘルムートが言う。「ところで、アイリス嬢は?」
「ああ、喧嘩になったから置いてきた」
アスラがサラッと言った。
「青春だね!」ラウノがなぜか嬉しそうに言った。「ふふっ、アスラももっと葛藤すればいいのに!」
「いや、私はもう精神的に成熟しているからね?」
アスラは13歳とは思えないほど、落ち着いている。自分の芯をしっかり理解しているのだ。
「むしろラウノさん、私の話を聞いてください」とサルメ。
「もちろんだともサルメ。拉致されて辛かったよね? その経験を僕に聞かせておくれ。それと、最近のお仕置きについてどう感じているかも」
ラウノは本当に嬉しそうに言った。
他人の相談に乗るのが心底好きなのだ。
「ああ、そうだ執事」アスラが言う。「大英雄会議では食事を提供する予定にしているから、ティナと食材を調達してきてくれ。大丈夫だと思うけど、下手な食事は出さないでおくれよ? 私らのメンツのためにもね」
「了解いたしました団長殿。最高のコース料理をご用意いたします」
もうすぐ大英雄会議が開催される。
議題となるはずだったファリアス家がすでに存在していない。ナシオも行方不明だ。
よって、どのような話し合いになるのかヘルムートも興味があった。
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