ExtraStory

EX07 魔法少女アイリス! さぁ何属性になるのかな?


 宿屋のロビーで、アイリスは配達員から手紙を受け取った。


「アイリス、聞きたいんだけど、手紙ってどういうシステムで届くんだい?」


 ロビーのソファで読書をしていたアスラが、本をパタンと閉じた。


「え? アスラもしかして手紙知らないの?」


 アイリスは手紙の封を切りながら、アスラの対面のソファに腰を下ろした。

 ノエミを残虐に殺した二日後の午前中。

 昨日は全員完全にオフの日だったが、今日は違う。

 サルメとレコが一生懸命にドアを蹴破る練習をしていて、その音が宿の中に響いている。

 ちなみに、宿のドアは全てアスラが店主から買い上げたので、壊しても問題ない。

 アイリスも蹴破る練習に参加していたのだが、一発で蹴破れてしまったので、もうやることがない。


「生まれてこのかた、誰かに手紙を出したことがなくてね」


 アスラが肩を竦めた。

 ユルキ、イーナ、マルクスの3人は昼までオフなので、それぞれの部屋で好きに過ごしている。

 ユルキはきっと寝ていて、マルクスは筋トレだろう、とアイリスは思った。

 イーナが何をしているのか、アイリスには予想できない。


「各国にね、配達機関があるのよ」


 アイリスはちょっとだけ自慢気に言う。アスラに物を教える機会は滅多にない。


「ほう。郵便局みたいなものだね。それで?」

「だいたいは国が運営してるんだけど、アーニアとかは民営化されてるわね」

「アーニアはこの世界じゃ、かなり先端を行っている。貴族による領主制を廃止しているのが最高だね。ボンクラ貴族が領主になったら、領民はたまったもんじゃない」

「うちはちゃんと治めてるわよ!?」


 アイリスの家は小貴族なので、田舎の小さな領土しか管理していない。


「君の家の悪口を言ったわけじゃないよ。手紙の話を続けて。鳩を使うんだろう?」


 確か地球の鳩より遙かに賢くて、場所を覚えることのできる鳩だったはず、とアスラは思った。


「そーよ。基本的には、他国に手紙を出したい時は配達機関にお金を払って、鳩を飛ばしてもらうの。そしたら、相手国の配達機関に鳩が届いて、そこから配達員が手紙を宛先に届けてくれるのよ」

「ふぅん。それはまぁ分かる。が、君のように移動していた場合は? 君、住所ラスディアじゃないだろう?」

「ああ、これはね、英雄用の手紙なの」


 アイリスが手紙を封筒から取り出す。


「当然、英雄特権で無料なんだろうね」


 アスラが肩を竦めた。


「そうよ。でもこれ、業務連絡用の手紙よ。封筒がね、茶色でしょ? 茶色だと業務連絡なの。あたしがアクセル様に手紙送る時も、茶色の封筒で送るのよ」


 アイリスが手紙の中身に目を通す。


「どうしてそれが君の元にちゃんと届く?」


「えっと、これは一斉送信の手紙だから、あたし宛ってわけじゃないわよ」アイリスは手紙を見ながら言う。「強いて言うなら英雄宛」


「だから、なぜ英雄にちゃんと届くのか聞いているんだよ私は。英雄は頻繁に移動してるだろう?」


 アスラがやれやれと溜息を吐いた。


「全部の国に鳩飛ばすのよ」アイリスが顔を上げた。「英雄は英雄特権で全ての国を通過できる。何の審査も持ち物チェックもなくね」


「それはまた、麻薬を売るにはうってつけだね」


「普通はそんなことしないもん」アイリスがムッとして言う。「で、義務として関所で名乗らなきゃいけないのね。ノエミは無視してたみたいだけど、今、英雄の誰それがこの国にいますよってことを明確にしなきゃいけないの」


「それで君、国を移動する度に税関……えっと、関所の憲兵に名乗ってたのか」

「そ。その情報は憲兵団と配達機関で共有されるの。英雄宛の鳩が飛んできた時に、ちゃんと英雄に手紙を届けられるようにね」

「なるほど。どこの国にいるかさえ分かったら、あとは憲兵の情報網で君の居場所を掴み、手紙を配達する、と。なかなか上手なシステムだね」

「アスラにも知らないことあるのね」


 アイリスはとっても嬉しそうに言った。


「そりゃそうさ。私は全知全能の神じゃなく、ただ頭がいいだけの人間だからね」アスラが小さく笑った。「で? その手紙の内容は? ジャンヌに関することだろう?」


「そうよ。フルマフィ撲滅に手を貸すよう命令してるわね。最後に、アイリスは現在の任務を続けること、って書かれてたから、あたしはあんまり関係ない感じよ」

「つまり、全ての英雄がアイリスだけは今の任務を続けていると知るわけか」

「そうよ。基本、全部同じ内容の手紙だもの。あ、これは代筆屋さんがいっぱい書いてくれるのよ。だからアクセル様が実際に書いたのは一通だけ」

「ま、コピー機もないし、そうだろうね」

「アスラってたまに知らない言葉使うわよね。自作の言葉なの?」

「……そういうことにしておこうかねぇ」

「団長さん! 私! ドア蹴破れました!」


 サルメが嬉しそうに駆け寄ってきた。


「そうか、じゃあ次は一発で蹴破れるようになるまで練習したまえ。心配するな。全てのドアを壊していい」

「は、はい……」


 サルメはしょんぼりしてアスラから離れた。


「あれ、褒めて欲しかったのよ?」とアイリス。


「知ってるよ。一発で蹴破れるようになったら、褒めてあげるさ。一発じゃないと意味ないしね」

「まぁ、そうだけど……」


 ドアを蹴破るのに時間をかけるわけにはいかない。


「君は教えたら一発でできた。さすがの才能ってとこだね」

「あたしの方があの2人より鍛えてるし、初めてだったけど、ドアぐらいなら余裕よ」

「そうだよね。ドアも蹴破れない英雄とか笑いものだね」

「それより魔法、教えてよ。ノエミを殺したやり方は、あたし嫌だけど、魔法がすっごく強いってのは分かったわ」


「別に強くはない」アスラが言う。「世間一般の認識は正しいよ。魔法で人を殺すより、剣で斬り殺す方が早いし楽だね。でも、私らみたいなやり方をするなら、魔法は有効な武器の1つさ。主軸と言ってもいい」


「あたしも魔法兵になるんだってば! でも、あたしは人を殺すより、人を守りたい。そういう魔法兵になりたいの!」

「いいんじゃないかな。技術をどう使うかは君の自由だ。とりあえず、闘気が使えるならMPの認識はもうできるだろう? 取り出すのはどう?」

「闘気の感覚だと、MPを身体に巡らせるんだけど、取り出すってなると、こうかな?」


 アイリスは自分の掌に魔力を集中させた。


「……一発か……若干、ムカツクね」アスラが苦笑い。「私ですら、数日かかったのに」


 才能。

 アイリスはあまりにも愛されすぎている。

 でもそれは優しい神様じゃなくて、戦神だ。

 アイリスがもし、アスラ側に堕ちたなら、それこそ人類の脅威となり得る。

 とはいえ、アイリスはあまり頭が良くないので、なんだかんだ、脅威になり損ねそうだが。


「すごいの?」とアイリス。


「すごいよ」アスラが言う。「あるいは、英雄にはさほど難しいことじゃないのかもね。基本となるMPを、闘気としてすでに利用しているから」


 まぁ、戦士としてのプライドがあるので、英雄たちが素直に魔法を習うとは思えないけれど。


「みんなが魔法使えるようになったら、アスラたちの利点減っちゃうんじゃない?」

「いいよ別に。魔法が全てじゃないし。対策の対策をするし、新しい性質も生み出すし、追いつかれる気はしないよ。それより、属性変化を試そう。みんなを呼んできてくれ。説明を交えながらやろう」


       ◇


「基本6属性を言ってみろレコ」


 アスラはロビーのソファに座ったままで言った。


「火、風、土、水、闇、光」


 レコが指を折りながら言った。

 レコはアスラの隣に座っている。逆隣にはサルメ。

 対面にアイリス。その隣にユルキ。逆隣にイーナ。マルクスは立ったまま。


「レア属性は? サルメ」

「はい。闇がレアです。あまりいません」


「そう。闇は少ない。この基本属性は、実際に変化させてみないと何になるか分からない。が、ある大魔法使いはその人物の人格と人生が大きく関わっているのではないか、という仮説を立てた。私もある程度、その仮説に賛成だね」


「俺の火は、俺が燃えるような人生歩んでたとか、そういう感じっすか? ピンとこねーっすね」

「……あたしの風は?」


「イーナは風っぽい」とレコ。

「はい。イーナさんは風っぽいです」とサルメ。


「てゆーか、アスラは固有属性になる前は何だったの?」アイリスが言う。「すっごい闇っぽいけど、花は全然闇っぽくないし、固有属性と基本属性の間には関係がないの?」


「関係はあるだろう。そして私は闇じゃない」


「え?」とアイリス。

「……え?」とイーナ。

「闇っすよね?」とユルキ。

「人格が関わるなら闇でしょう」とマルクス。


「団長さんは闇だとばかり……」

「オレ的には光だよ、団長は。オレの光、なんちゃって」

「私は土だよ」


 アスラは自分の属性に納得している。前世も含めれば、土が一番しっくりくる。

 砲弾で抉れる大地、巻き上がる土煙、戦車が立てる砂煙。

 ああ、まさに土だ。

 しかし、みんなは納得できなかったようで、首を捻っていた。


「まぁ、人格よりは人生の方が影響している、と思うがね。それでも仮説は仮説。絶対に正しいわけじゃない。そこで、アイリスが何属性になるか賭けよう」

「んじゃあ、俺は光っす。いくら張るんっすか?」

「1人1000ドーラでいいだろう。遊びさ。ルミアがいなくなってしまって、回復に困っているから私も光であって欲しいが、たぶん水だろう」


 アスラがテーブルに1000ドーラ札を置いた。

 続いて、他の団員たちも1000ドーラをテーブルに置く。


「光っぽいですが、ルミアさんとはタイプが違いますし、火じゃないでしょうか?」


「それなんだよね」レコが言う。「人格がルミアと違いすぎる。って、ルミア光じゃなかったよね?」


「固有属性・天だが、元は光だよ」

「……アイリスとルミアは人生も……人格も違う……でも、あたしらとも、違う……。強いて言うなら、マルクスと同じ水……」


「あえて風に張ってみるか」マルクスが言う。「他に風に賭ける者がいなければ、自分は総取りになる」


「闇はレアだし、アイリスは闇だけはないと思うし……」レコが言う。「団長と違って胸はそこそこあるから、土も違う……。うーん。でもやっぱり光っぽいからオレ光」


「よし。火ならサルメの総取り。風ならマルクスの総取り。光ならユルキとレコの山分けで、水なら私とイーナの山分けだ」


「ってゆーか、属性変化ってどうやるのよ?」アイリスが言う。「今日やって今日できるものなの?」


「属性変化自体はすぐできるよ。自分の属性を知るだけだし。まず自分の掌にMPを集めて」


 アスラが言うと、アイリスは掌を上に向けて、言われた通りにした。


「さて、暗闇をイメージしたまえ。掌の上のMPに暗闇をイメージするんだ」


 アイリスは自分の掌をジッと見詰めてイメージしたが、特に変化は起こらない。


「ふむ、はやり闇は違うようだね」


「じゃあ次光! 光やって!」とレコ。


 アイリスが光をイメージすると、掌が僅かに輝きを見せた。


「おや? どうやら光のようだね。レコとユルキの山分けか。私は外れたが、まぁ光なら便利でいい」


「あたし光属性なのね」アイリスはまだ掌を見ている。「これ、どうすればいいの?」


「消していいよ。性質変化はさすがにパッとできるもんじゃない。今度ゆっくり教えるよ」


 アイリスが手を何度か振ると、輝きが失われる。


「まぁ、見たまんま光だったな」とユルキ。

「……団長が人格とか言うから……騙された……」とイーナ。

「いや、アイリスの人格なら光でいいだろう。ルミアと比較したのが間違いだ」とマルクス。


「さて、アイリスの属性も分かったことだし、昼からみんなでカジノに行こう。でも遊びじゃなくて訓練だ」アスラが言う。「罰金として払った1万ドーラを持って、帰る時には10万ドーラ持っていればいい。それで合格」


 アスラとマルクスへの罰は、普通に罰金だった。

 ルミアがいないので、身体的ダメージを与えると回復に時間が必要だから。


 レコはエロいことを主張したが、アスラが本気で嫌そうだったので、レコは「そんなにオレにエロいことされるの嫌なんだ……」と軽くショックを受けて取り下げた。


 嫌だから罰になる、とアスラは言ったが、レコの方がもうやる気を失ったのだ。

 ちなみに、罰金はマルクスとアスラが全員に5千ドーラずつ支払うというものだった。


「全ての技術を使え。手段は問わない。1万ドーラ持って入って、10万ドーラ持って出る。簡単だろう? アイリスも参加だよ。これは訓練だから、全員参加。いいね?」

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