第38話 領域の向こう14
高橋がそれを見たのはちょうど船の乗客を降ろし、次の出航に向けての準備を開始しようとした時だった。
風の匂いが変わり、空の色も冬の重さが広がりつつある時間だった。ミズキとの約束の時間に遅れることなく行けそうだなと、ちらりと時計を見て安心した。ちょうどその時、島の奥の方に白い光のようなものが見えた。
一瞬稲妻かと思い、空を見たが先ほどまでと何の変化もなかった。そして、船の中にいた同僚が騒ぎ出した。
「おい、計器がおかしいぞ」
「こっちは完全に動いてない」
ざわめきが港だけじゃないことに気づいた途端に高橋は走り出した。先ほどの白い光が見えた島の中央部には、『図書館』のある場所だった。
港を抜けて広場に通りかかった時、
「高橋!」
と、呼ぶ泣きそうな声が聞こえた。
一瞬、ミズキかと思って振り返る。
カナだった。不安そうな顔で二人の子供をしっかりと抱えている。顔を上げた小さな男の子は、ケンだった。
高橋が何も聞く前に、しっかりとした声で「図書館に行った」といい、「僕も連れて行って」と言い出した。
「ケンちゃん、ダメよ。ここで待ってなって、言われたでしょ」
ケンは大きな瞳でじっと高橋を見る。
高橋もケンをじっと見る、かがんで目線を合わせた。
「連れ戻すから」
それだけ言って、高橋は再び走り出した。ミズキ、と心の中で話しかける。絶対に一緒に帰るぞと。
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