第40話 領域ー秘密の部屋の秘密⑤ー
白い船をずっと見ていたかったのに、波間の眩しさに一瞬目を閉じたら溶けるように消えてしまった。
「文字がなんでできたか知ってるか?」
そう問いかけてきたケンシの声が頭に響く。
もう一つだけ、ミユに話しておくことがある。
「私、ケンシに頼まれたことがあるんだ」
「ずるい!何よ?」
「はてしない物語、読んだことある?」
私の問いかけに「何よ突然」とミユが顔をしかめながら、記憶をたどるように首をかしげる。
「読むっていうか・・・、オーディオとかVRで聞いたり見たりしたことはあるよ。小さい時に。でも、あんまり話の内容は覚えてない。それ、なんか関係あるのぉ?」
ミユが不審げな響きを声に含ませる。
海から目を離さずに私はうなずいた。ここの景色はかげることもなくずっと輝いている。
「本世界に男の子が入り込んで、その夢の国が壊れると現実にも影響が出るんだよ」
「ふぅーん」
ミユが髪をいじりだす。
私はスマホを取り出して、昨日あの部屋で撮ったPhotoを開く。
「この前燃えたのはその本だったんだ」
ミユの手が止まり、さらりとミユの手から髪がこぼれ落ちる。 じっと、私が開けた写真を見る
「それ・・・」
「うん。これがその時と同じ本」
私は画面上の本の表紙をゆっくりとなでる。そして、スクロールし、もう一つの写真を見せる。そのページにはケンシが昨日書いた文字が追記されている。書かれた文字をゆっくりと読み上げる。私にも読めるように大きな字で丁寧に書かれてた文字はとても暖かくて優しいものに見えた。
「白い船が通る。そのあと、赤い船体の船が同じ場所を通る」
ポーーー、遠い波間の向こうから空を包み込むような汽笛の音が聞こえ、ゆっくりと日差しの向こうを赤い船が横切っていくのが見えた。
ミユが小さな声でつぶやく。
「どういうこと?」
ケンシに頼まれたのはここに来て実際に船が通るか確認すること。この写真は、私がこっそりと記録した。きっとケンシは怒るだろう。
「私たちが本当の意味で禁止されているのは、本を持ち込むことじゃないんだよ」
さっきまでと違ってミユが赤い船をずっと目で追っている。あの船もきっと、瞬きをした瞬間にきっと消えてしまう。
「文字を書くこと」
世界を変えてしまうから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます