第2話 領域ー海の国ー
私たちが小さな頃世界的な戦争が起きた。
攻撃を逃れた都市もあったけど、ほとんどは要塞のように形を変えたり、再構築したりしてそれまでの世界とは大きく変わったと聞く。ネットや授業で教わった映像を見ると、いろんな色に溢れた世界だったんだなと思う。
ただし、過去の「自然」や「文化」は一部保存されている。
特定のエリアはそ保存指定地域として立ち入りが禁止され、私たちのような過去をあまり覚えていない学生の教育や研究に使っている。
戦争はもう今では起きていないけど、万が一のために保存指定地域は「領域」と呼ばれ、場所の特定ができないように隠されている。
私たちが領域に行く日も、まずはスマフォを切らされ、指定の箱に入れさせられた。
「ずっと使えないんですか?」
不安そうに訴える子が続出した。体の一部みたいなものだから私だって抗議したい。領域管理官と呼ばれるスタッフの人はにっこりと微笑んだ。
「大丈夫ですよ。領域についたらお返ししますので。島ではいつも通り使っていただいて問題ありません」
しぶしぶ提出して、バスに乗りこんだ。
体に響くような音が聞こえて目を開ける。いつの間にか眠ってしまったようだ。ふわふわと妙に体が揺れる気がした。多くの生徒が眠っていたけれど、何人か目をさましている子たちはみんな張り付くように窓のそばに集まっていた。
「何してるの?」
「海だって。見てみなよ」
少しスペースを空けて窓の外を見せてくれた。
映像でしか見たことのない青い世界が広がっていた。
世界にはこんなに色が溢れていたのかと驚くくらいに青い世界が一面に広がっていた。どれだけ首を回してもそこは揺れ動く一面の青の世界だった。
「ねぇ、私たちどこにいるの?」
声がうわずる。確か、バスに乗ってそれから・・・
記憶がない。
「だから、海だよ」
ちょっと誇らしげに先に目が覚めた子達が教えてくれる。
「私たちが眠っている間に海の上にきたみたい」
楽しそうに教えてくれる彼女達の言葉になんとかうなずきながら、わたしは窓から目が離せなかった。そっと窓を触れると鈍い響きが指先から伝わってくる。これは海の叫び声なのだろうか。感じたことのない強い響きが指先から身体中に広がっていくような気がした。
前方から大きな歓声が響いてきた。周囲の子と「なに?」と顔を合わせていると、前の席に座っていた子達が「島だ!」と大きな声で叫んで窓の外を指す。あわててもう一度窓に張り付く。わたしたちの乗っている乗り物がゆっくりと弧を描くように旋回し、その軌跡が海の上に白い模様のように現れる。
そして。
小さな島がゆっくりと前方に見えてきた。
群青色というのだろうか。海の深い青の更に向こう側に、こんもりとした緑と真っ白な白に囲まれた小さなものが見えてきた。
「しま」
その言葉を口にしてみるとなおさら小さく感じた。わたしたちがついさっきまで立っていた陸地と本当に同じ役割を担っているのか不安になる。わたしたち全員を受け入れたら沈んでしまわないのだろうか。わたしがそんなことを心配しているうちにぐんぐんとその島はこっちに近づいてくる。
「みなさん、もう領域に入っています!禁止事項は必ず守ってください」
前の方から領域管理官の声が聞こえてきた。
みんながはしゃぎながら自分の荷物をまとめて降りる準備を始める。
「あなたも、早く降りる準備をしてね」
管理官にそう声をかけられるまでわたしはずっと窓の外を眺めていた。
領域と呼ばれる島はもうすぐそこで、手を伸ばせばつかめそうに見えた。
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