原っぱの取調室
なんかもう話せば話すほど、ミーナのあちこちからボロが出てきた。この
「とりあえず。俺を拉致した時に使った
「はい…これです……」
俺たちはひとまず、日の当たる開けた原っぱを見つけ、そこに腰を落として話し合うことにした。最初は川のほとりにしようとしたが、ミーナが手の平よりちょっと大きめの石を
俺とミーナは最初から普通に会話が出来ていた。だったらこの世界の本も読めるはずと踏んでいたけれど、どうやら駄目みたいだった。
でも紙をめくってみて不思議なことに気がついた。本の厚みに対してページ数が異常に多かった。どんなに飛ばしてもなかなか最後まで辿り着かなかった。まるで新しい紙がその場で生まれているようだった。この本に不思議な力が宿っているのは確かなようだ。
何か帰るためのヒントがあるかもしれないと考えていたが、読めなきゃどうしようもない。俺は
「だめだ…読めない……」
「あー、よかったです」
「え?何がよかったの?」
「あっ……いや!それは…あの……あー…今日もいい天気ですね…」
ミーナがそっぽを向いた。ぺたんと座ったまま、手をモジモジさせている。
まだ何か隠してるのかこいつは。
これはもう質問というより
そもそもの話、俺をこの世界に転送した理由すらちゃんと聞いていなかった。
「一つ一つ聞いていくぞ。まずは俺をこのホロワとかいう世界に拉致した理由はなんだ?」
「ここはホワホワです。職業安定所みたいに言わないでください。それに
「いや、もう完全に尋問だから。素直に罪を認めろ。洗いざらい吐け」
「
「そんなものはない!」
「うー、分かりました。じゃあ弁護士の方を呼んでくるので、
「待てい!」
立ち上がって逃げようとしたミーナの腕を強引に掴んで、再度地面に座らせた。油断も隙もあったもんじゃない。
「
「そんな事とは何だ。俺は帰る為のヒントが少しでも欲しいんだ」
「うー…」
ミーナが口をとがらせて
「とりあえず本当のことを話してくれよ。なあ…」
「誰にも言いません?」
「言わない言わない」
言わないとは答えたが、そもそも知ったところで喋る相手がいない。この世界で出会った人間はミーナしかいないのだから。それに元の世界に帰れたとしても『異世界で俺を呼んだ女の子に…』の出だしの時点で人に話せる内容じゃない。
「じ、実は…ずっと以前から私、
「そ、そうなんだ…」
「はい…そうなんです…」
これって、告白だよな。まさか別の世界に呼ばれた理由が『好きだから』だとは思わなかった。逆押しかけ女房って所なんだろうか。
改めてミーナを見た。正直言って可愛いとは思う。こんな子に告白されて嬉しくない訳じゃないが、でもそれにしたって突然すぎる。こんな時どう答えたらいいんだ。俺たちは住む世界自体が違うんだ。ひょっとして、俺を元の世界に帰す方法は知っているけど、あえて知らないって言ったのか。
「だ…だから言いたくなかったんです…」
ミーナは下を向いて自分の太ももの間の草をプチプチちぎっている。
「まあ、俺もそんなふうに言ってもらえて、とりあえず…嬉しいよ……」
「だから、
「お、おう…」
ん?ちょっと待てよ、何か引っかかる。こいつ俺に電話してきた時、何て言ってたっけ?
「そんなに見つめないでください…。恥ずかしいです」
「なあ、俺のことずっと前から知ってたってこと?」
「はい…」
「じゃあ名前も?」
「存じ上げておりました…です」
「お前最初に電話してきた時『お名前はなんですかー』って言ってなかったけ?」
「あっ…」
ミーナが草をちぎったポーズのまま固まった。
肩を掴んで思いっきりガクガク揺さぶった。
「本当のことを言えええええええ!!」
「て…て…適当に…電話の…番号を……選びました……」
おいおい嘘だろ。まじかよ…。電話番号なんて何十万いや何十億もあるはずだ。その中で俺がたまたま選ばれたってことなのか。本当にイタズラ電話だったのかよ。
「なあ、他に理由は…」
「ないです…」
「俺には何か使命があるとか…」
「ないです…」
「選ばれた人間には特別な力が宿るとか…」
「ないです…」
「本当に転送してみただけなんだね…」
「そうです…」
頭の先からだんだん真っ白になっていくような気がした。しばらく放心状態から立ち直れなかった。
「あのさー、お前にもう一つ聞きたいことがあるんだけど…」
「えー、この期に及んでまだ何かあるんですか?
「誰のせいでこうなったと思ってるんだ。お前、俺が目を覚ました時、こっちに向かって何か魔法出してなかったか?」
確か『せい!』とか言いながら手の平から失敗臭い煙を出していた。今考えるとかなり怪しい行動だった。
少しフリーズした後、ミーナが喋り出した。
「あれは……回復魔法です!そうです!あれをしなければ拓海さんは死んでいました!すごい怪我を負ってたんです!血がどばーっとこう…」
バンザイみたいな仕草を見て、明らかに嘘だと分かった。目が覚めた時、血なんか出てなかった。
「なんだそうだったのかー。そんな魔法使えるなんてお前すごいじゃん!」
ミーナが『恐縮です』みたいに、はにかんだ笑顔で頭の後ろをかいている。
「ちなみにその魔法の名前教えてくれるか?」
「ファイナル・デス・アタックです。あっ…」
「お前なあ……」
「いやいや、デスっていうのはですね。この世界では『
スカートの端をぎゅーっと握りしめて、口元に手を当て可愛らしいポーズをとっている。いやいや、もう騙されんぞ。
「お前、さっき俺に回復魔法かけたって言ってなかったっけ?」
「あっ…」
またしても嘘だった。
「本当のことを言ええええええ!!」
「あの……すみません…返す方法が…分からなかったので……炭にしようと…しました……はい」
こいつ俺を無かった事にしようとしやがった。どうやらこの世界における命の価値は紙っぺら並に薄いらしい。なんだろう、珍しいという理由だけで飼われて、結局理不尽に捨てられるペットの気持ちが少し分かった気がした。
観光とか言って俺を歩かせていた理由もこれでなんとなく想像がついた。捨てるに困って時間稼ぎしてたって事だ。
「いやーすごい推理力ですね拓海さん。ひょっとしてあなたは探偵さんですか?」
「推理以前の問題だ。お前の言ってる事がハリボテすぎるんだよ」
「その推理力を持ってすればこの世界でも三日ぐらいは生きていけると思います。では、犬のさんぽがあるので私はこれで…」
「待てい!」
またも逃げようとしたミーナをその場に座らせた。
「い、いいじゃないですか。結果死ななかったんだし…」
「俺のいた世界では殺人未遂に対する法律があってだな。お前のやったことは立派な犯罪だ」
「この世界にはそんな法律ありません。
「
「え?可愛いは正義って意味じゃなかったんですか?」
「んなわけあるか!可愛いからって何でも許されると思うなよ!
これじゃあまるで
俺は元いた世界に帰れるんだろうか。いや、帰らなきゃいけない。あの世界でやり残したことがある。妹と幼馴染の二人と交わした約束に、俺は答えを出さなきゃいけないんだ。
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