第152話 泣きっ面に蜂蜜

「何か買って来る物ある?」「いつもの湿布を二箱かな」

夫はまだ首から肩にかけての痛みがとれない。


痛みを堪えて仕事に向かう。送り出すデバネズミ。

頑張ってねのお弁当を渡してベランダに向かう。


行ってらっしゃいの手を振るためだ。

一度バックで出て、ドライブにして進む。

左手でハンドルを握り、右手で手を振る。

ルーティーン。少しニコッとしてくれるのが嬉しい。


昨日の朝も……嬉しいはずだった。


手を振る私の右耳にエンジン音が聞こえる。

やばい! いつも急いでいる車だ。

バックで出るのは同じ。

しかしその車は速い。猛スピードでバックする。


夫はまだ進んでない。嫌な予感がする。

(早く、早く逃げてー)

思わず心の中で叫ぶデバネズミ。


いや、さすがに後方に車がいる事くらい確認しているよな。


少しばかり期待してその車を見守る。


バックで出た。加速した。


サン、ニッ、イチ


ドーン! はい、ぶつかった。夫の車体が揺れる。

ベストポジションで確認するデバネズミ。


ぶつけた車から慌てて人が降りる。

ゆっくりと夫が出てくる。痛いよね? 

大丈夫? 首。

コルセットしてればよかったね。


仕事に行くはずだった夫は病院に行った。

大量の湿布と診断書を貰って来た。


警察に渡して、保険会社と電話の一日。

愛車の凹みを見てメンタルも凹む。


大変だよね。でも新しいコルセット装着した夫を見たら

笑ってしまった。今度はエスサイズで良かったね。

フィット感抜群じゃん。あと湿布買わなくてよかったね。

頓珍漢な慰めの言葉は虚しい。


娘にメールする。お父さんにラインして!


娘は優しい。『何があってもあなたの味方』

スタンプを送ってくる娘は優しい。

泣きっ面にハチミツだ。

落ち込む夫に笑顔が戻った。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る