第144話 素直になろう 2

♫フフッフンフン♫  夫の鼻歌が聞こえた気がする。

二十五年以上、一度も聞いた事がない。気のせいね。

それより助手席で私は、久しぶりの外食にウキウキする。


♫フフッ、フンフン♫ 信号待ち。今度ははっきり聞こえた。

「何!? テンション高くて気持ち悪いんだけど!」


外食が苦手な夫。テンション上がっている原因はひとつ。


娘に会えるからだ。一か月半ぶりだものね。


私がお願いした通り、娘は夫にLINEをしてくれた。

『六日、行くね。うちに来てくれてもいいけど……』


旦那様の留守中に行くのは気が引けて、中間地点で待ち合わせ。

『美味しい物を食べようね。奮発して鰻にしよう』


夫と娘の大好物に決まった。

久しぶりの鰻でテンション高いのかしら?


「元気か? 喧嘩しないで仲良くやっているか?」

「体調はどう? 仕事忙しい? 疲れてない?」


こういう会話を聞きたいデバネズミ。耳ダンボ。

しかし、二人の間に一切ない。黙々と鰻を食べる。


食事を終えて、車移動でお買い物。

「パンツ買わなきゃ」「エ◯リズムのパンツおすすめだよ」


一か月半ぶりの会話ってソレでいいんだね。あなたたち。

日常会話じゃん。いや期待する私が変なのかしら?


「もう、帰るぞ!」夫が言う。

ご飯食べて、買い物して、さようなら。

たった二時間会うだけでいいんだね。

男親ってそういうものなのかしら? 


私は後ろ髪引かれる思いでさよなら。

正直、家に連れて帰りたかった。泣


「……元気そうで良かったね」

「うん」それ以上何も言わない夫。


一緒にいる時間が長ければ長いほど、

寂しくなるんだね。きっとそういう事だ。



数日後、「鰻美味しかったね。また連れて行ってね」

おねだりする私に、夫が何を思い出したのか


「娘が可愛くてたまらない。愛しくてたまらない」


と独り言のように呟いた。


「だから、もっと長い時間一緒に過ごせばいい……のに!

素直じゃないんだ……か……ら」


寂しそうな夫の横顔に、強気で言えないデバネズミ。





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