第142話 お弁当

「……おはよう、これ早く詰めなさい」

「……お母さん、サンドイッチにして」

四十年前の中学二年生、私は母親に文句を言う。

三ヶ月間だけお弁当の期間があった。

父親と同じお弁当を持っていくのが嫌だった。

焼肉、焼き魚、カボチャの煮物などオヤジメニュー。


文句を言う私を叱りながら、母親が素早くフタを閉めた。

白米のうえに一瞬見えた赤い物。梅干し? 

それが何か分かった時、思春期の私は……嫌悪し一瞥。


あれから四十年後、私は夫のお弁当を作る毎日。

新婚時代と違って夫は少食だ。

小さなおにぎり一つ。おかずも少しでいい。

保温ジャーに詰めていた頃と大違い。

お味噌汁も作らなくていい。


けれど、量は少なくても栄養を考えるデバネズミ。


ピーマン人参多め、肉少なめの炒め物。

味が薄めのカボチャの煮物。きんぴらごぼう。

柔らかく煮た豆。ブロッコリーメインのサラダ。


どこかで見たようなお弁当だ。

母親が父親に作っていた色合い、匂いがする。


お母さん、お父さんの健康を第一に作ってたんだな。

文句ばかり言って悪かったな。この年で反省デバネズミ。


お母さんの真似しようかな、恥ずかしいな。

明日、やってみようかな? 

やっぱり私は照れちゃうな。


白米の上に母親がしていたこと……。


紅しょうがで「スキ」って書く事。

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