第135話 タイミング

「葛根湯ある?」お昼ご飯前に夫が催促する

「え? 肩こりしてるの? 揉んであげようか?」


なぜ? このタイミングで肩こりを訴えてくるんだろう。

あと一時間半で娘のリモート婚が始まるんですけど。

葛根湯と水を差し出すデバネズミ。


「……スト、ストレスかもしれない」夫がポツリ言う。

「そうね、寂しいよね。けどまだ泣かないで……えっ、えー」


今、泣きますか? 嘘? いきなりですか? 何で?

花嫁姿見てないじゃん。両親への手紙読んでないじゃん。

なんならまだ式始まってないんですけど。

驚きより笑えてしまった。


涙を拭いて着替える夫。zoom確認。カメラチェックよし。

一応ハンカチを用意して準備万端。


二時からの式、三十分前からzoomに参加出来る。


新郎新婦の幼い頃の写真が流れている。

「わ、私も写っている、ほら、見て、あなたも、えっ? えー」


夫がまた泣いてる。嘘? まだ娘が登場してないじゃん。


せめてウエディングドレス姿で登場してからにして下さい。


夫は式が始まるまでグスングスンしていた。

こういう時、母親って泣かないのかしら?

私は涙一粒も出ない。


新郎新婦が登場し、指輪交換、誓いの言葉、新郎挨拶。

滞りなく式が進む。夫の涙はすっかり乾き、笑顔だ。

記念撮影も出席者がドン引きするくらい手を振る夫とデバネズミ。


無事に式も済み、娘の部屋を片付ける。

朝早く出て行ったままの状態だ。


もう、今夜からは帰って来ないんだね。

今朝脱いだパジャマ、洗濯しておいたんだけど……。

ほとんど空になっているタンスにしまうデバネズミ。


もう、苗字が違うんだね。

帰るねメールは今夜から届かないね。


寂しいな、お母さん、やっぱり、寂しい。


幸せになるんだよ! 


今夜はあなたのベッドで寝ます。

今頃ポロポロ泣けてきた。


お母さんも泣くタイミングがずれちゃった。


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