第105話 もったいない

「あなた、いくら持ってきた?」

 お正月のショッピングモールは混んでいる。

「ねえ、いくら持ってる?」

「……。……」

「あなた、靴買う予定でしょ。私も」

「……、……」  (何テロ?)

 

 話しかけた相手は全く知らない人だった。

 混んでいると、夫を見失うデバネズミ。

 振り返ると他人のふりの夫を見つける。


「またやらかした。……いくら持ってる?」

「九万円くらいかな。洋服が欲しいから」


「えっ、そんなに!私のも買って。福袋欲しい。

 それから美味しいもの食べて帰ろう。

 娘は仕事だから、夕飯いらないって」


 久しぶりのデートにワクドキ。

 

「ごめん、思い出したときに買っておく」

 何処にでもある100円ショップに入る夫。

 レジ長蛇の列。いつでもいいのに!


「これ安いよ。この靴安くなってるよ!」

「……もっと安くなるかも、今日はやめとく」

「欲しいもの買いなよ。自分へのごほうびだよ」

「……もっと安くなるかも。今日はやめとく」

「家にあるのでいいかな。今日はやめとく」

「もったいないね。私も今日はやめとく」


 二時間同じ会話を繰り返す夫とデバネズミ。


「お腹すいたね。……けど混んでるね」

「……美味しいもの買って帰ろうか?」

「……何も食べたいものもないかな」

「冷蔵庫の野菜室に白菜の残りと、お餅くらい

 しかないけど、雑煮でもいい?」

「いいよ。疲れたから帰ろう」

「……帰りの水分だけ買うね」


 物欲がなくなってる。

 グルメでもなくなってる。

「もったいない」が合言葉になってる。


 九万円持って行ったのに、

 夫は100円ショップで220円。

 私は、自販機で150円。


 娘と三人で鰻食べよう!

 孫が出来た時のために貯金しておこう!

 

 お金を使わなくても楽しいデート。

 価値観一緒で更年期が幸年期になる。

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